サッカー・ワールドカップ(W杯)の開催国としてあらためて注目が集まっているブラジルの文化や日本とのつながりを広く知ってもらおうと、横浜市栄区の県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)で、映画上映や写真展など多彩なイベントが開かれている。
■多様な価値観や文化の魅力
22、28日、7月5、11日は各日1作品ずつ、映画を上映する。22日は、サッカー元日本代表で横浜FCの三浦知良選手やブラジル代表のエース、ネイマール選手が所属していたサントス・フットボールクラブの100年の軌跡を追ったドキュメンタリー。28日には、日本に暮らす日系ブラジル人の若者が直面する子育てや就職差別の問題を描いた「ア・エスコーリャ」を上映し、津村公博監督のトークイベントも開かれる。
ブラジルは先住民、ヨーロッパ系、アジア系など多様な人々が集う多民族国家。日本人写真家5人がブラジルの人々や風景などを撮影した約90点を7月21日まで展示し、移民を受け入れることで育んできた多様な価値観や寛容さ、文化の魅力を伝える。
このうち、横浜生まれの写真家・田中克佳さんが6月21日午後5時から、トークイベントを開催。7月6日にはサンバチームのミニライブも行われる。
いずれも参加・入場無料。映画やトークイベントは、事前申し込みまたは当日先着順。問い合わせは、あーすぷらざ電話045(896)2121。
■二つの故郷、良さ伝え-日系3世の山下さん
県内では、多くの日系ブラジル人が暮らしている。厚木市に住む日系ブラジル人3世の山下・ジューリア・真由美さん(44)もその一人。あーすぷらざでポルトガル語の外国人相談コーディネーターを務めている。
サンパウロ生まれ。20歳だった1990年、好景気に沸く日本に家族で“移住”した。2008年のリーマン・ショックが起きると、勤めていたコールセンターが倒産。仕事先を探す傍ら、周囲の日系ブラジル人から病院や学校での通訳を頼まれたのをきっかけに、今年4月から同ぷらざで働き始めた。
日系ブラジル人が直面する問題は多様だ。「景気が悪くなると、最初に解雇されるのは外国人」。仕事がなく、生活に困った人々と一緒に市役所を訪ね、生活保護や税金の手続きなどを通訳してきた。学校でのいじめや不登校、高校進学など教育の相談も相次ぐ。
「来日当初は日本語ができず、接客用語の『申し訳ございません』の発音も舌をかむくらい大変だった」と山下さん。自動車工場の工員、ホテルのウエートレス、保険の外交員…。職場や職種は変わっても、日本人の同僚に支えられながら日本語を上達させてきた。
だからこそ、「日本とブラジルの文化の違いを説明することで、お互いの良さを知り、生き方を尊重し合える社会に向けた手助けをしたい」。通訳をする中で、文化や習慣などの違いに苦労する日系ブラジル人を目の当たりにする一方、二つの文化の良さを実感してきたからこその思いだ。
来日した24年前は、日本でブラジルといえば「サンバ」「アマゾン」「貧しい国」というイメージしか持たれなかった。だが、「日本人がどんどんサッカーを好きになり、ブラジルが近くなってきた」と山下さん。W杯では「息子は日本を応援しているけれど、私はブラジルと日本の両方を応援しています」。二つの故郷を思い、笑顔を見せた。
【神奈川新聞】