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鉄道コラム前照灯(22) 上目名はもうない

神奈川新聞 | 2010年3月12日(金) 00:00

北海道・函館本線に上目名(かみめな)の駅はなかった。3月、蘭越から長万部行きの鈍行に乗った。目名を過ぎると心が騒いだ。次は伝説の上目名のはずだった。ゆうに2メートルを超える線路脇の雪の壁、ディーゼルエンジンがうなる。そろそろか、まだか。やがて鈍行は熱郛(ねっぷ)に到着した

▼上目名は廃止されていた。豪雪で痕跡も確認できなかった。蒸気機関車C62重連がけん引した急行ニセコの峠越え。名場面を求め多くの「撮りテツ」が訪れた。ニセコ連山を望み、大きな弧を描くカーブを上るC62の雄姿は究極の美しさだった

▼本線と呼ばれながらも実際は山あいを走るローカル線。周辺に人家のない上目名は1984年3月で役割を終えた。当時の北海道新聞は、1日の利用者が2人と伝えた。蒸気機関車がいなければ誰も訪れない

▼名作の原元鉄道写真集「急行ニセコ」はわが家の宝物。26ページにわたり上目名周辺のC62を紹介する。2号機のツバメマークが光る。撮りテツの元祖である原さん。「(急行ニセコの)最大の試練の場」と表現した

▼上目名の廃止。親しい友人が鬼籍に入ったような寂しさがある。思い出の風景が消える。C62の拠点だった小樽築港機関区は大きなマンションに姿を変えた。あの時代は人の記憶に残るだけなのだろう。(O)

(2010年3月12日)

【神奈川新聞】

 
 

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