鉄道ファンは胸を張るべきだ。情緒ある鉄路を旅して人々との触れ合いを楽しむ。この気品ある趣味は、発祥の地英国と同じく尊敬されよう。機関車や客車の種類などにちょっとこだわりがあるからといって、「テツ」というオタク風な言葉のレッテルを張るのはいかがなものか。
忘れられないつらい思い出がある。20年以上前、通信社の就職面接を受けた。入社後のやりたい仕事を「うん、うん」と聞いていた中高年の面接官。中学から高校まで何をやっていたのかと問われた。「蒸気機関車(SL)が好きで撮影旅行を…」。つい白状してしまった。
面接官は老眼鏡を上げ、「子どもっぽい趣味だね」と見下すようににらんだ。わが青春が否定され衝撃だった。もしも鉄道好きであることがばれたら、これから歩む社会で不遇な扱いを受けるかもしれない。「テツ」を封印した。
「隠れキリシタン」の心境だ。会社で鉄道談義があっても知らんぷり。それでも思いは断ちがたく、観光用のSLが残るローカル線をこっそり訪れもした。
あの面接官はもう通信社にはいない。健康なら第二の人生を歩んでいる。妻と2人、鉄道旅行の奥深い魅力に酔いしれているかもしれない。そして、つぶやいているに違いない。鉄道は本当にいいなあ、と。(O)