
「地域文化による戦後復興」を掲げ、小田原の地で63年余にわたって舞台を紡ぎ続けてきた「劇団こゆるぎ座」の今秋の公演に「追悼」の2文字が冠されている。座付き作家の後藤翔如(しょうご)さんがこの2月、急逝したからだ。68歳だった。書き手を突然失った劇団は、後藤さんが戦後50年を機に創作した「小田原大手前 終戦物語」の再演を決めた。「今こそ、戦争の愚かさや家族愛を織り込んだ『ゴンちゃん』の魂を玩味してほしい」。その幕は24、25の両日、小田原市民会館で上がる。
アマチュアのこゆるぎ座は、戦後間もない1946年1月に発足。毎秋の公演を連綿と継続し、83年からは後藤さんの新作を舞台にかけてきた。
「小田原城異聞 天ケ池物語」「小田原藩治水録 荻窪用水記」…。20作を上回る作品群を関口秀夫代表(70)はこう評す。「城下町ならではの史実を掘り起こし、持ち前の筆力で耳目を集めるストーリーに仕立てた」
「ゴンちゃん」の愛称で親しまれた後藤さんは小田原生まれ、小田原育ち。「歯に衣(きぬ)を着せぬ熱血指導。酒好き、雄弁、豪放磊落(らいらく)。そんな男だった」と関口代表。年頭には今秋の演目をまとめていた。演題は「元禄大地震 小田原城崩壊」。序幕を書き始めた直後の急逝、10代~70代の30人の座員にとっては「大恩人」の死だった。
こゆるぎ座はしかし、悲しみを抱えながらも、95年に上演した「終戦物語」(2幕6場)の再演を決めた。劇団のオリジナリティーを支えてきた後藤さんが深い思いで描いた戦争と人間愛。2時間40分の舞台そのものが「追悼」を冠する理由だ。
それは、戦時下の物語。小田原城近くの畳屋一家に舞い込む召集令状、せがれの出征、家族の苦悩、そして敗戦へ。何が悲惨を生んだのか。力強く生き抜こうとする善男善女を通して戦争の意味を探る人間ドラマは、当時の街並みをほうふつとさせるセットで展開する。特攻隊や学徒動員の実物写真を映し出す戦況解説もある。
劇団はこの18日、総仕上げ稽古(けいこ)を終えた。「二度と戦争を起こしてはいけない。ゴンちゃんが『終戦物語』を生んだ魂を人々に伝えたい」。関口代表は、座員の気持ちをこう代弁した。
24日は午後6時、25日は午後1時開演。入場料は千円。小田原市民会館は小田原駅から徒歩約10分。問い合わせはこゆるぎ座、電話0465(22)2988。
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