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鉄道コラム前照灯(148) 福島の日常(4)

神奈川新聞 | 2013年5月17日(金) 12:00

春の福島を旅した。同行は現代詩人・故田村隆一の名著「インド酔夢行」(日本交通公社)。道中ひたすら酒を飲み、インドを的確な表現で切り取った紀行文である。40年前の作品で本棚の奥に眠っていたのを引っ張り出した。形だけでも田村の域にと、東京・駅ナカの専門店で日本酒をごっそり仕入れた

▼山形の「上喜元」、三重の「作」、缶ビールはロング…。つまみは「厚岸かきめし弁当」「ミニ石狩いくら蟹」の2種類。新幹線の座席の小さなテーブルがいっぱいになった。通路向かいの乗客は、壮観な酒瓶を気にしているが、わたしと目を合わせようとはしない

▼福島まで1時間半、できあがった。乗り継いだバスから、各種サクラ、モモの花が咲き競う光景を見た。福島の春は美しい。夏も秋も冬もそうだろう。赤ら顔で酒臭い身ながら、豊かなこの地を襲った不幸を思った。観光客は原発事故前の7割ぐらいまで戻ったか。運転手が言った

▼駅前の繁華街にあるなじみのラーメン屋を震災後初めて訪れた。60歳を過ぎたおやじは、揺れの瞬間をきのうのことのように話した。スープ鍋が落ちないように押さえやけどしたという。震災はまだ過去になっていない▼福島の旅で身に染みたのは、田村の名文は酒の力ではないという事実だった。「酔夢」に挑戦しても凡庸な表現しかできない。「酔も甘いもかみ分けた」コラムを書きたい。(O)

【神奈川新聞】

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