
二宮町の元漁師で、地域の民話の収集や子どもたちへの「海の教室」、民俗資料の収集などで知られる西山敏夫さん(78)=二宮町山西=が、相模湾の漁業の貴重なエピソードをまとめた著書「一旦力(いったんりき)」(夢工房、B6判215ページ、1470円)を出版した。古老の漁師から伝え聞いた話や自身の体験を生き生きと描いているほか、漁師言葉の解説も織り込み、貴重な歴史資料となっている。
西山さんは150年続く漁師一家の5代目。2010年に引退したが、現役時代は漁業の傍ら、民話の収集と執筆、郷土資料の収集などに取り組んできた。漁師の仕事着や晴れ着、さまざまな漁具など約1万点ともいう収集品は大磯町郷土資料館に寄付され、「西山コレクション」となっている。また、引退まで20年近くにわたり地域の園児、児童を招いて「海の教室」を開催。地引き網やワカメの刈り取り体験などを通じて海と魚、自然の素晴らしさを伝えてきた。
引退後、書きためていた原稿を基に執筆に着手。時代は江戸期から現在まで、祖父や古老から聞いた話や、自身の体験など、相模湾の漁業に関わる31の話をまとめた。
幕末のころ、夜のイカ漁に出た兄弟が、米国の大型漁船を海坊主と思い込み逃げ帰ったという話や、明治期のマグロ漁で、若手漁師に病人が出て伊豆・稲取港に緊急入港した漁船の苦闘、明治から昭和期まで続いたブリシキ(鰤大敷網の略)というブリ漁の歴史など、興味深い内容が続く。漁師でなければ分からない描写と、漁師言葉、二宮方言を使い、臨場感あふれる話となっている。
漁師言葉にはカタカナ、二宮方言はひらがなのふりがなを付け、解説するページも設けた。相模湾の漁師が東を「カシマ」、西を「ワ」と呼ぶことなど、語源の謎も語られている。書名の「一旦力」は造語で、一度にありたけの力を出す意味という。西山さんは「言葉も話も消滅してしまう。貴重な歴史として後世に記録を残したかった」と話す。執筆終了後に脳梗塞の再発にも見舞われたが「里や山の話など、まだ書く材料はある」と情熱を燃やしている。
問い合わせは、夢工房電話0463(82)7652。
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