
ドレスを着た演奏者に、出身大学と恩師の名が記された経歴―。こうしたクラシック音楽の演奏会にまつわるさまざまな“常識”に挑む演奏会が6月20日、横浜市神奈川区東神奈川のかなっくホールで開かれる。その名も「非常識コンサート」。ピアノ、バイオリン、ビオラの3人によるこの演奏会は、価格も終演後に観客に決めてもらうという大胆な試み。企画したデザイン制作会社社長の内田奈津子さんは「演奏家の間口を広げたい」と意気込む。
通常のコンサートの出演者は、ドレスかタキシードが定番だ。だがこの企画では、演奏者はドレスを着ない。「その人を一番美しく見せるのが、ドレスとは限らない」というのが、その理由。
プログラムには、あえて曲名を載せない。また、演奏者のプロフィルには出身大学や恩師という“必須情報”の代わりに、それぞれが音楽に懸ける思いを記す。演奏会で曲名には意味があるのか、同窓や友人が集う内輪なイベントでいいのか―。従来のあり方へのそうした疑問を探る形だ。
もっともユニークなのは、価格。標準的なチケット代は2千~4千円だが、今回は終演後に観客が価格を決めて支払う。演奏者自身が売りさばく必要がなくなり、負担が減る。「演奏会の金額を考え直す機会にもなる。自由に演奏して認められなければ、やり直せばいい」と内田さん。もちろん、演奏の質は落とさないのが大前提。オーディションで3人の若手演奏家を選んだ。
内田さんは、2007年にデザイン制作会社「ライズサーチ」(横浜市中区)を設立し、チラシ作りのほか、演奏会そのものを開いてきた。その中で、マーケティングの立場から「演奏会は、本当に需要に合っているのか」と感じる部分も多かった。そして昨年末。あるクラシックコンサートをきっかけに、疑問を企画化することにした。
会場では、肝心の演奏を聴かず、プログラムの曲名ばかりを熱心に追っている人がいた。「プログラムって必要なのか」
演奏者の友人知人ばかりの中でアウェー(部外者)な感覚を抱かされる演奏会も多い。「でも演奏活動はビジネスで、多くの人に来てもらう努力が必要。当たり前のことを疑うきっかけを提供できれば」と内田さんは語る。出演するバイオリン奏者の平山智子さんも、賛同する。「特にクラシックを聴いたことがない方に演奏を聴いていただくきっかけが少ない。演奏者には、コンサートがこれから変わることが可能だし、必要だと伝えたい」と話している。
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