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住宅無償提供月内打ち切り
避難者は今(上)息子の夢壊す退去

社会 神奈川新聞  2017年03月14日 09:23

避難先での苦しい暮らしと心情を、報道関係者に語った=8日、横浜市中区
避難先での苦しい暮らしと心情を、報道関係者に語った=8日、横浜市中区

 東京電力福島第1原発事故の影響で福島県外に避難した人たちが住まいやいじめなどの問題に直面し、思い悩んでいる。国の避難指示が出ていない地域から避難した「自主避難者」に対し、福島県が行ってきた住宅の無償提供が今月末で打ち切られる。東日本大震災から6年。「暮らしが落ち着いてきたのに、住まいを追われなければならないのか」。福島県からの避難者が匿名を条件に横浜市内で会見し、心情を吐露した。

期 限 


 福島市から川崎市に自主避難し、住宅の無償提供制度を利用している50代女性に先月10日、神奈川県の職員から電話があった。

 「3月末までに、お住まいの住宅から退去してください」

 住まいは福島県からの要請を受けた神奈川県が、法律に基づく応急仮設住宅として避難者向けに民間住宅を借り上げたもの。県が家主との間で決めた賃貸借契約の期限が終わるため、退去を迫られたのだ。

 女性は県内の高校に通う2年生の長男と2人暮らし。大学入試を目前に控えており、祖父のように医師を目指している。「懸命に努力している息子の夢を、退去によって壊すことはできない」と思い悩む。

 原発事故で避難した時、長男は小学5年生だった。川崎市の7畳一間のアパートで新たな生活が始まった。「なんでこんな生活をするのかと、最初はすごく子どもに文句を言われていた」。今の民間住宅に引っ越したのは高校1年生を迎える直前。生活環境にやっと慣れ、暮らしが落ち着いてきたところだった。

契 約 


 住宅の無償提供が打ち切られると、新たに賃貸借契約をせざるを得ない。「家主と契約し直し、ここを借り続けたい」。県の職員に訴えたが、「次に住める場所を探してください」との回答だった。この物件に関しては、引き続き賃貸借契約を結ぶことができないとのことだった。

 「引っ越しシーズンの3月末は費用が高いのでは」。転居にかかる負担は全て避難者が賄うことになっている。自主避難者は福島に戻るように促されている、と感じている。

 「自主避難といっても、勝手に避難しているわけではない。放射線が気になって避難してきているのです」。女性が住民票を置く福島市内の自宅は既に手放した。避難区域外だが、自宅周囲の放射線量が高くてとても住めないと思ったからだ。

 支援が打ち切られる自主避難者にとって、避難せざるを得ない事情は避難区域内の住民と同じ。でも行政の対応は明確に分かれている。避難者の集まりでも区域の違いを突きつけられ、つらい経験を重ねてきた。この女性は憤る。「どうして国は、私たちの生活を守ろうとしてくれないのか」

分 断 



 原発事故の後、国は原子炉の損傷や放射性物質の放出・拡散による住民への危険を避けるために避難指示を出した。

 避難区域は事態の深刻化とともに次第に拡大。その後、冷温停止状態となっていると分かったことから、国による制度の見直しや区域指定の変更や解除など複雑な変遷をたどってきた。

 今回、住宅の無償提供制度が打ち切られる自主避難者は、国が設定をした区域によって分断された地域住民の象徴ともいえる。

 昨年7月に避難指示が解除されたばかりの南相馬市から県内に避難した50代の女性は、住宅の無償提供制度が当面1年間は延長されることが決まり、ひとまず胸をなで下ろした。

 これまでも更新は1年ごとだった。「更新期が近づいてくると、今年は更新されないのじゃないかと頭をよぎった。でも、自宅を取り壊した南相馬に帰るわけにはいかない」。来年度は延長になったとはいえ、年度末には支援が打ち切られる見通しだ。県内で次の住まいを探す決意をした。

 住宅無償提供を打ち切った後、4月からの自主避難者への支援について、収入が一定以下の世帯に限り、福島県は最大で月3万円、神奈川県は最大で月1万円を家賃補助する。県営や市営などの公共住宅にはその支援は当てはまらない。

 だが、将来にわたる具体的な支援方針は伝わっておらず、区域ごとに分けられた避難者は生活設計が立てられないのが実情だ。南相馬市の女性は「区域の指定は、事故当初から平等な制度ではなかった。この措置がさらなる差別や分断を引き起こす」と指摘する。複雑に設定されたさまざまな区域の内と外。そうした区別がそもそも間違いの始まりだ、と指摘する。

税負担 


 福島第1原発から20キロ圏内の双葉郡から県内に避難した50代の女性は、これまで慣れ親しんでいた古里の土地をできるだけ早く処分したいと願っている。

 双葉郡の自宅は被災し、帰ることは考えられないことから取り壊した。そのままの名義になっている土地には将来、固定資産税がかかる。そうすると、家がないことで税率が6倍に跳ね上がることを心配する。

 原発から20キロ圏内の土地を買い取ってくれるところを探して国や県、東電、かつて住んでいた町にも話をした。担当者からは、そうした土地の売買はしないと冷たく断られた。

 「一番大事なのは、東電と国に責任を早く認めてほしいということ。責任を認めた上で、私たちに対してきちんとした誠意を見せてもらいたい」と静かに語りかける。

 女性は子ども3人と県内で暮らす。長男、長女は仕事を得た。次女が高校を卒業し大学入学が決まった。去年まで県が借り上げた民間住宅に住んでいたが、福島で単身赴任している夫の県内にある実家を建て替えて暮らすことにした。

 避難指示区域内であろうとなかろうと、放射線量が高いところは福島県内に点在している。「単純に線引きして自主避難とか避難区域内とかを決める国のやり方や、実際に事故を起こしても何ら責任を取っていない国と東電の実態を知ってほしい」と訴える。

 ◆原発事故による避難者数 東北3県(福島、宮城、岩手)で約12万人。福島県では県内や県外に出ている人を合わせて約8万人とされる。復興庁によると、神奈川県内には3300人以上の避難者が暮らしており、都道府県別では4番目に多い。ただ、本来の避難者の数は正確に把握されておらず、国や福島、神奈川両県の支援を十分に受けられない避難者がいると指摘する声がある。


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