1. ホーム
  2. 鉄道コラム前照灯(105) 秦野の車窓の先に

鉄道コラム前照灯(105) 秦野の車窓の先に

神奈川新聞  2011年11月30日 00:00

小田急線の東海大学前から秦野までの車窓は圧巻である。北側に丹沢から連なる山がぐぐっと迫ってくる。何の変哲もない神奈川のベッドタウンを走り抜けた小田原行き急行の車内は、自然の力を受けて一気に華やぐ。乗客の灰色の表情が明るく色づいた。「ふぅー」と、誰かが肩の力を抜いた

▼秦野駅は丹沢と渋沢丘陵に囲まれた盆地の真ん中にある。随分と前に新装してから情緒はなくなった。駅前の水無川を渡ると営業をやめた商店が続く。地方都市のいまの光景、路地を選び山に向かって歩いた。11月最後の日曜日、風はひんやり、背中のザックの一升瓶がたっぽんと鳴る

▼50分ほどで名古木(ながぬき)の里山に着いた。コナラ、クヌギ、イチョウが秋色を競う棚田があった。大勢の都会の人たちが、にぎりめしやタケノコ、山菜、日本酒を囲んだ。収穫祭はにぎわった

▼担い手をなくし荒廃した棚田をNPOが復元した。機械を使わない田植えの後も、あぜ道に穴を開けるサワガニと格闘、1日で体重が2キロ減るメタボ効果抜群の農作業を続けた

▼棚田復元を提案したのは、くたびれたおやじたち。会社での生き残りに汲々(きゅうきゅう)とした、なんて野暮な会話は収穫祭ではない。実りを喜び元気をもらう。小田急線の車窓の少し先に、その里山はある。(O)

(2011年11月30日)

【神奈川新聞】


シェアする