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児童養護出身女子学生の下宿を NPO法人ネットで資金募る

社会 神奈川新聞  2017年03月04日 08:52

「さくらんぼ」が始める下宿で、構想を語る伊藤理事長(左)と橋本さん=横浜市内
「さくらんぼ」が始める下宿で、構想を語る伊藤理事長(左)と橋本さん=横浜市内

 横浜市瀬谷区を拠点とする「NPO法人さくらんぼ」が、児童養護施設出身の女子学生向けの下宿を始めようと、インターネット上で資金を募っている。施設出身者の高校卒業後の進学率は低く、進学しても施設を退所し「自立」を求められるケースが多い中、安価な住居を提供。声掛けをしたり、困った時に手助けしたりしながら、学生たちの成長や自立を緩やかに見守ろうとしている。

 同法人は1997年設立。現在は、横浜保育室や放課後児童健全育成事業、瀬谷区子育て支援拠点など幅広く展開している。

 活動を始めて20年。伊藤保子理事長(63)は、生活保護受給世帯やシングルマザーなど困難を抱えながら子育てをしている人たちとも数多く接してきた。

 子どもについ暴力を振るってしまう、幼いころ、家族で食事をした経験がない、料理の作り方を全く知らない…。そんな母親もいる。

 「(コミュニケーション能力や生活の知恵といった)本来、自然と身に付くべき事柄が欠落したまま、親になっているケースが少なくない」と伊藤理事長。

 慎重に言葉を選びながらこう続けた。「子育てにギブアップしそうな親ほど、実は自身がちゃんと育てられていなかった人が多い。お金がない、親が養育に関心がなかった、など事情はさまざま。うまく子育てできないのは、育った環境によるところが大きい」

 下宿を思い立ったのは、児童養護施設で育った若者たちが自信を持って社会へ出ていけるよう、「大人」になる過程を見守り、支えたいと考えたからだ。

 厚生労働省が2016年11月に公表した資料「社会的養護の現状について」によると、14年度末に中学校を卒業した児童養護施設児(2462人)の高校等への進学率は95・2%(2343人)だった。すべての中卒者(117万5千人)の高校等進学率(98・5%)と比べ、低いのが実情だ。

 さらに、同年度末に高校を卒業した施設児1800人のうち、大学等へ進学したのは200人(11・1%)、専修学校等は219人(12・2%)。70・4%に相当する1267人が就職した。進学率は以前よりも上昇傾向にあるものの、全高卒者の就職率17・8%と比べると、施設児の割合の高さが際立つ。

 児童福祉法に基づき、児童養護施設で過ごせるのは原則18歳までだが、必要に応じて20歳まで措置延長することができる(17年度からは、22歳になる年度末までに引き上げ)。

 国は、高校卒業後、進学や就職をしても生活が不安定で、継続的な養育を必要とする場合、措置延長を積極的に活用するよう呼び掛けているが、14年度末に高校を卒業した施設児1800人のうち、1507人が卒業時点で退所。20歳に達するまで措置延長したのは、95人にとどまった。

 こうした状況を踏まえ、さくらんぼの下宿が目指すのは、学生と「ちょっとおせっかいなおばちゃん」(伊藤理事長)という関係だ。

 スタッフの橋本笑穂さん(34)は指摘する。施設で育った18歳が、衣食住のすべてを提供される生活から、お金のマネジメントや食事などの一切を担うには「ステップがあまりにも高過ぎる」と。

 自炊が基本だが、時に食事を作ってあげたり、困りごとがあったら相談に乗ったり。共用スペースの掃除や、おやつの差し入れ、風邪をひいた時のケアなども行う予定。学生が、生活費や学費を稼ぐためアルバイトに追われ、生活が乱れることのないよう気配りをする。

 「自転車の補助輪を外しても一人で乗れるようお手伝いする感覚に近いですね」と橋本さん。

 伊藤理事長は、子育て支援活動を通じて知り合う母親たちを見ていて、感じることがある。同じように生活に困難を抱えていても、孤立無援の人と、周囲に助けを求められる人とでは「ハッピーの度合いが全く違う」ことだ。言うまでもなく、幸せの度合いが高いのは後者だ。

 児童養護施設という福祉の枠組みで育った若者が、下宿生活の中で、誰かに頼る・頼られるといったごく当たり前の経験をする-。若い時期のそうした積み重ねこそが、その後の人生で、困難な局面を乗り越える力になると確信している。

 横浜市内に開設する下宿は家賃、水道・光熱費などを含め月額4万円。定員3人で、6・3畳の個室3室と、共用のリビング、トイレなどを用意した。

 鍵の付いた個室で一人で過ごすも良し、「おせっかいなおばちゃんたち」が時折、顔を出すリビングで、わいわい過ごすも良し。細かい規則はあまり設けず、入居者同士で話し合い、ルールを決めてもらう予定だ。

 200万円を目標にクラウドファンディング(インターネット上での資金調達)を実施。すでに到達したが、当初設定の4月27日まで支援を募っている。集まったお金は工事費や運営費の補填(ほてん)に充てるとしている。

 伊藤理事長は「実は、さくらんぼから200万円を出すことは、不可能ではない」と打ち明ける。

 もっと言えば、公的資金を使い、福祉の枠組みの中でこうした施設を造ることもできるだろう。しかし、あえてクラウドファンディングという手法を選んだのは、多くの人の理解や共感、協力を得ることで、地域で支え合う環境をつくりたかったからだ。

 早ければ4月にも入居開始予定。伊藤理事長らは、学生との出会いを今から楽しみにしている。それは、家族が増える感覚に近いという。

 「一人で暮らしていけるだけの力を身に付け、『下宿生活が楽しかった』と巣立っていってくれるのが理想。つらいことがあった時、いつでも戻ってこられるような居場所であり続けたい」

 クラウドファンディングの詳細は、「FAAVO横浜」のホームページへ。


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