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【特集】〈時代の正体〉避難者の「11の質問」から見えるフクシマの現実

時代の正体 神奈川新聞  2017年02月11日 02:00

福島第1原発1号機(出典:東京電力ホールディングス)
福島第1原発1号機(出典:東京電力ホールディングス)

「避難指示解除」を問う(1)政府の帰還決定は違法


 
【湘南総局=松島 佳子】「明確な基準や根拠もなく、住民を戻そうとしているのですか」-。東京電力福島第1原発事故から間もなく6年。政府は今春にも福島県の一部を除く地域で「避難指示の解除」を目指す。先月29日、政府主催の富岡町の住民を対象にした説明会が都内で開かれた。全町避難が続く富岡町。席上、参加者からは疑問の声が相次ぎ、中でも横須賀市に避難している被災者の1人は「11の質問」を投げ掛けた。その問答で見えてきたものは-。関連記事はこちら

 時計の針は午前11時を回っていた。説明会終了まで残り30分。最前列の右端に座っていた佐藤信行さん(65)が立ち上がった。

 「資料を作ってきました。聞きたいことが11項目あります」

 司会の町職員が「11項目あると、けっこうな時間が…」と戸惑う。それでも佐藤さんは構わず、続けた。


福島県富岡町民を対象に行われた避難指示解除に関する住民説明会。町民らと向き合うように政府、町関係者が座った=1月29日、東京都墨田区
福島県富岡町民を対象に行われた避難指示解除に関する住民説明会。町民らと向き合うように政府、町関係者が座った=1月29日、東京都墨田区

 「5分くらいで話します。国に対しての質問が主です。私は横須賀に避難しているんですが、去年10月、横須賀であった住民座談会で、町に質問したものと同じ内容です。そのとき、町に議事録を作ってください、と宿題を出したんですが、一向に回答は来ていません」

 会場の前方中央には、原子力災害現地対策本部、復興庁、環境省、経済産業省ら政府の官僚が並ぶ。富岡町の町長、副町長ら町幹部もいた。そこに向かって佐藤さんは歩みだし、質問事項を書いた資料を手渡し、「では」と始めた。

 佐藤さんの質問は、こんな内容だった。

安全、安心はどこに




 一つ目、「帰還」に関して。現状で100%安全と言えるか。福島第1原発の1、2、3号機ともに原子炉建屋5階のプールに使用済み核燃料が残っている。仮に東日本大震災のような大地震が来たらどうなるか。建屋が崩れ、燃料プールの水が漏れてしまったら、燃料棒はむき出しになる。そうなれば、強い放射線や熱を発し、再び人が近寄れない危険性がある。安全の説明がつかない。現に、福島第1原発事故では燃料棒が溶け落ちた燃料デブリはまだ地下に落っこちたままだ。


9日、福島第1原発2号機の原子炉格納容器内で実施した堆積物除去ロボットによる作業の画像。上が除去前、下が除去後(東京電力提供)
9日、福島第1原発2号機の原子炉格納容器内で実施した堆積物除去ロボットによる作業の画像。上が除去前、下が除去後(東京電力提供)

 二つ目。原発事故の報告書、最終の報告書はあるのか。富岡町には東京電力福島第2原発がある。第1原発の事故原因と事故防止の対策が不明のままでは、仮に第2原発を運転する場合、第1原発の調査報告を反映させないと、起動できないのではないか。帰還してから、第2原発再起動の議論でもめるのはごめんだ。もう巻き込まれたくない。事故報告書を明らかにして、現時点で第2原発事故を再起動するか否か、はっきりしてほしい。

 三つ目。「安心、安全」はどこにいったのか。事故以前、原発で些細(ささい)なことがあると、国や県、町は「安心、安全はどうなっているのか」と東電を追及した。その姿勢はどこにいったのか。

 この3番目の質問に言及するころから、佐藤さんの口調は熱を帯びた。身ぶり手ぶりを交え、時折、満席になった会場を見回し、声を張り上げた。


佐藤さんが作成した「国への確認事項」
佐藤さんが作成した「国への確認事項」

 前方では政府職員らが質問資料に目を落としたり、分厚いファイルを取り出して読み込んだりしている。

 佐藤さんの問いは放射線の許容被ばく限度に向けられた。事故後、誰もが抱き続けた根本的な疑問と不安に関して、である。

「20倍」の根拠示せ


 放射線に関しても、政府は事故前、一般公衆の追加被ばく線量の限度を「年間1ミリシーベルト」と言っていた。今は「年間20ミリシーベルト」と言う。どうして20倍になったのか。その理由、根拠をはっきりさせてほしい。

 事故前の「1ミリシーベルト」には根拠があった。一つは、東京電力が原発作業員に渡してきたマニュアル。不要な被ばくを避けるため、放射線防護について指導する内容だ。

 この中で東電は、1時間当たり0・11マイクロシーベルト以上の区域を「周辺防護区域」とし、その区域内には居住施設をつくることができない、と規定している。年間に計算すると、963・6マイクロシーベルト以上、つまり0・963ミリシーベルト以上の区域に住んではいけない、と。

 日本原子力発電の第1回放射線管理小委員会資料にも同様の記載がある。放射線業務に携わる作業員の健康を守るため、原子炉等規制法に基づき区域管理を行う内容だ。ここでも「管理区域周辺では年間1ミリシーベルトを超えない」と規定している。

 なぜ、「年間1ミリシーベルト」が基準になっているのか。法律で定められているからだ。事故後、政府は限度を「年間20ミリシーベルト」としたが、これは明らかに原子炉等規制法に反している。だから現在の法律では年間1ミリシーベルト以上のところには住めない。帰還できない。

大きな拍手


 3番目の質問を佐藤さんは、こう締めくくった。

 「政府が『年間20ミリシーベルトを基準に帰還を促す』と言うなら、法律を改正、もしくは廃止してください。そうでなければ、避難指示解除はだめです。違法行為です。国は法を犯しています」

 政府は法律を犯してまで住民を帰還させようとしている-。

 この言葉に、会場を埋め尽くした88人の住民からこの日初めて大きな拍手が上がった。白髪の高齢男性は手を叩きながら「そうだ!」と叫んだ。

 前列中央では、原子力災害現地対策本部の総括班長が顔を上げることもなく、懸命にペンを走らせていた。


佐藤さんの質問中、下を向いたままペンを走らせる政府関係者
佐藤さんの質問中、下を向いたままペンを走らせる政府関係者

爆発した福島第1原発4号機=2011年3月15日(出典:東京電力ホールディングス)
爆発した福島第1原発4号機=2011年3月15日(出典:東京電力ホールディングス)

「避難指示解除」を問う(2)根拠のない政府方針



 東京電力福島第1原発事故から丸6年を前に、政府が開いた「避難指示解除」に関する住民説明会。福島県富岡町の町民88人が集まる中、横須賀市に避難している男性は政府の中央官僚らに「問い」を発し続けた。住民の理解を得た上で、帰還を決定してほしい-。

 説明会開始から1時間半。町民の視線は、最前列右端の佐藤信行さん(65)に注がれていた。家族とともに神奈川県に避難したのは、事故直後だ。生活はあの日から一変したままだ。

 「富岡町避難指示解除に対しての国への確認事項」

 そう題して始まった質問は全部で11項目。4項目以降、質問の中身は「帰還後の町民生活」に及んだ。マイクを握った佐藤さんが続ける。

なぜ核種測定しない


 四つ目。核種測定をなぜしないのか。ちゃんとデータで示してほしい。「ベクレル」や「セシウム」だけでなく、原子の周期表に出てくる原子番号1~100番のうち何が含まれているのか。核種をはっきりさせるべきだ。「線量が高いから除染する」と政府は言うが、線量が高い理由は何か。高線量の物質は何か。物質の成分、核種、除染前と除染後では同じものか、違うのか。これを明確にせず、どうして安全、安心と言えるのか。

 五つ目。帰還後、住民に線量計の携帯を義務付けるのか。被ばくの管理をどうするのか。線量計を付けさせて監視するのか。


体内に入り込んだ放射性物質の量を測るホールボディーカウンター
体内に入り込んだ放射性物質の量を測るホールボディーカウンター

 六つ目。(体内に入り込んだ放射性物質の量を測る)ホールボディーカウンター検査を義務付けるのか。基準値を超えたら、どうする? 被ばくは線量計で確認できるが、体内被ばくは致命的だ。特に、重金属は体内にとどまって排出されないと聞く。

意思決定はどうする


 その後、7番目の質問で佐藤さんは「帰還の決定は誰が行うんですか。その具体的なステップはどうなっているんですか」と迫った。

 「避難指示解除の判断は富岡町? 国や福島県からの指示で動くんですか? それとも富岡町として(独自に)判断すれば、帰還するんですか?」

 安全、安心。肝心の根拠が明らかにされないまま、「帰還」を急がされている-。その点にこそ、会場の町民にも言いようのないわだかまりがある。

 佐藤さんが7番目の質問を続けた。

 「(帰還)決定の前に、住民に対して意見を聞いて判断するんですか。『住民が理解できた』との確認方法は? アンケートですか、投票ですか。会場で手を挙げるんですか。住民の意見が異なった場合はどうするんですか。誰が、どういう方法で決めるんですか。その具体案を教えてください」

 横須賀市での生活は長きにわたるが、佐藤さんの憤りは消えたことがない。実際、説明会の後の取材でも「町民も黙って町の言うこと、国の言うことをただ聞いてるだけじゃあ、だめだ。もっと思っていること言わねぇと」と語った。避難から6年。事あるごとに、そう繰り返してきた。


説明会には富岡町長、副町長ら町幹部も出席した=1月29日、東京都墨田区
説明会には富岡町長、副町長ら町幹部も出席した=1月29日、東京都墨田区


 説明会の日、最前列で質問する佐藤さんは時折、会場全体を見回した。質問は政府や国に対する追及であると同時に、どこか控えめに映る町民への叱咤(しった)激励だったのかもしれない。

 それに呼応するかのように、佐藤さんの後方では若い女性がうんうんと小さくうなずき、会場の端からも「そうだ」という声が聞こえ始めた。そして、佐藤さんの質問が終盤に差し掛かると、その声はいよいよ大きくなった。

帰還への具体策は


 八つ目。3区分の公平化について。「帰還困難、居住制限、避難指示解除準備区域、公平に平等に扱わなければならない。帰還、復興はこれが前提」。これは、平成24(2012)年9月1日、町長が住民説明会で言った言葉だ。これを国は聞いているか。国の意見としてはどうか。

 九つ目。帰還困難区域と接する場所の管理。道路を挟んで、こっちは帰れる、こっちは帰れない、となる。手を伸ばせば、帰宅困難区域に触れられる。子どもはよちよち歩いて行ける。どうするのか? 緩衝地帯をつくる案はどうなっているのか。風が吹き、雨が降って、水が流れてきたらどうするのか。そこには汚染物質が含まれている。具体的に、どうやったら安心、大丈夫と言えるのか。どうやろうとしているのか。教えてほしい。

 10番目。帰還に関するプログラム作成。解除前にアクションプランを作って、住民が内容を理解し、その都度、照合して進むべきだ。帰還の諸条件、基準値があって、それをクリアできたら帰ろう、と。住民が理解しないとだめ。「理解しましたね」「納得しましたね」「合意しましたね」というステップ表を事前に出すべきだ。町や国が一方的に説明したから帰還していいというものではない。


佐藤さんが作成した「帰還に向けたステッププログラム」
佐藤さんが作成した「帰還に向けたステッププログラム」

 11番目。

帰還後の生活マニュアル作成。帰還後、安全に生活できるための指導事項をきちっと作って。例えば、水道水の使い方やごみの処理方法、庭や畑、土、花の扱い方、川での禁止事項などだ。

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