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時代の正体〈377〉シールズ解散 語らずに問う「あなた」

時代の正体 神奈川新聞  2016年08月16日 09:46

8月15日の終戦の日、千鳥ケ淵戦没者墓苑で黙とうする奥田さん =東京・千代田区
8月15日の終戦の日、千鳥ケ淵戦没者墓苑で黙とうする奥田さん =東京・千代田区

 発足から1年3カ月、71回目の終戦の日をもってSEALDs(シールズ)が活動を終えた。社会運動に新風を吹き込み、同世代の若者をはじめデモに参加したことのなかった人たちの背中を押した。中心メンバーの奥田愛基さん(24)=横浜市=はしかし、「いま語る言葉がない」と明かす。そこに嘆きや悔恨の響きはない。「次」を見据え、黙する。その真意は-。

 15日、セミの鳴き声に包まれた東京・千代田区の千鳥ケ淵戦没者墓苑に奥田さんは一人たたずんでいた。参列者もまばらになった午後4時半すぎ、目を閉じ、少しこうべを垂れ、1分ほど黙とうした。コメントを求める報道関係者に「今日は、ちょっと」と断り、足早に立ち去った。

 4日前、奥田さんはこう明かしていた。

 「去年も千鳥ケ淵へ行き、聞かれました。『どんな気持ちですか』と。なんて答えていいのか。祈るということは、目を閉じ、黙り自分と向き合うということでもあると思うんです」

 

愚 直


 1年前の8月14日夜。奥田さんとシールズのメンバーは安全保障関連法案の抗議行動のため国会前に立っていた。数時間前、安倍晋三首相が戦後70年談話を発表していた。そこに欺瞞(ぎまん)を感じた奥田さんは手にしたマイクで痛烈に批判した。

 〈安倍さんは紛争の解決に武力を使わないと言った。しかし、積極的平和主義の旗の下に日本は歩んでいく。つまり集団的自衛権を行使しないといけないと結んでいる。平和が大事と言いながら、どうして最後がそうなるのか〉
 当時を振り返り、奥田さんは言う。

 「こういう言い方をするとひよっていると受け取られるかもしれないが、いま思うのは自分たちの力のなさ。だらしなさ。そっちの方が気になってしまい、安倍政権についてどうだ、こうだという言葉が見つからない」

 参院選では憲法改正について語らず、いざ選挙が終わると「改憲論議がいよいよ本格化する」と言ってはばからない安倍政権。参院選翌日の7月11日に沖縄県東村高江で米軍のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)の建設工事を本格的に開始した。

 「相変わらず安倍政権はおかしい」とは思う。だが、「『おかしい』と言うだけの力を得られていない。一方で、そう指摘することにも、まったく意味がない。例えば神奈川新聞には政権に対する力が全くないですよね、と指摘したところで意味がない。ではどうするか。結論はぐるりと回って、つまるところ、『できる範囲でできることをやっていくしかない』ということになる」

 気持ちを確かめるように、ゆっくりと言葉をつないだ。

 「そう考えると、戦後71年について問われても僕には新しく語る言葉が見つからない。限界を感じつつも、愚直にやれることをやっていくということに尽きる」


 

沈 黙


 野党共闘を呼び掛けた参院選でシールズとして具体的な活動を締めくくってから1カ月足らず。8月3日、ヘリパッド建設工事反対の抗議行動が続く高江に奥田さんは向かった。集会であいさつもした。

 沖縄では参院選だけでなく、知事選や衆院選でも基地建設反対の民意が明確に示された。高江では建設予定地前に張られたテントには全国から集まった市民が昼夜を問わず詰め、身をていした抗議が続いていた。

 6日、ツイッターにこう書き込んだ。

 〈結局僕は高江に行ってもすぐ帰る。大学一年の時に高江に行った。その時はテントは十人もいなかった。(運動を率いる沖縄平和運動センター議長の)山城さんに「もう少し残っていけないか」と誘われたけど、僕は学校が始まるので帰った。帰ったすぐ後、資材の搬入が始まった。何にもできなくてただそこにいた。でも、それでも向き合いたい〉
 奥田さんは言う。

 「いま自分は何もやっていなくて、一方で数少ない人がものすごく頑張っている。いま僕が語るとすれば、結局、『安倍政権にかなわない自分たちをどう考えるのか』という話になってしまう。だがそれは、いま動いている人たちに失礼だ。何より自分自身が自らに問うべきこと。だからいま言えるのは『では、自らに問います』ということだけ。その意味でも、いま語れる言葉がない」

 

反 問


 ことあるごとに「どんな気持ちですか」と問われ続けた1年余りだった。

そのたびに「あなたはどう思うのか」「あなたならどう語るのか」との反問が頭によぎった。

 立憲主義の危機を感じ、安保関連法案に反対し、参院選で野党共闘を呼び掛けてきた。その先に問うてきたのは「民主主義ってなんだ」。この国の主人公は私であり、あなたである、と。

 奥田さんは去年と同じように千鳥ケ淵に立ち、背筋を伸ばし、静かに目を閉じ、あらためて思った。

 「祈るとき、人は黙り込み、目を閉じたり手を合わせたりする。8月15日とはそういう日だと思う。だから、人に気持ちを問う前に僕が聞きたい。『あなたは8月15日という日と向き合い、これからどうしますか』と」

政治語り続ける


最後の声明
http://sealdspost.com/tobe/に全文が公開されています。



 2016年8月15日、戦後71年の節目をもって、SEALDsは解散します。

 私たちは、日本の自由と民主主義の伝統を守るために、立憲主義・生活保障・安全保障の3分野で、明確な立場を表明し、デモや街宣などの行動を起こしてきました。とくに昨年の安保法制の強行採決に反対する国会前でのデモや、今年7月10日に行われた参議院選挙に向けた野党共闘の実現、市民参加型の選挙に向けた行動などを行ってきました。



 結果として、ほとんど不可能だと言われていたにもかかわらず、野党共闘のもと、参議院選挙では32の1人区全てで野党統一候補が決まりました。(中略)
 しかし、当然ながら、私たちは選挙結果を含め、これで十分だったとは思っていません。(中略)個人として路上に立つのと同じように、「わたし」の声で、日常の目線から政治を語ること。隣近所・家族・友人・恋人と政治について語り合うこと。(中略)この動きを末永く、ねばりづよく続けていく必要があります。その積み重ねは、長い時間をかけて社会に根をおろし、じっくりと育ち、いずれは日本の自由と民主主義を守る盾となるはずです。

 あの戦争が終わってから、71年が経ちます。私たちは、立憲主義を尊重する政治を求めます。私たちは、持続可能で健全な成長と公正な分配によって、人々の生活の保障を実現する政治を求めます。私たちは、対話と協調に基づく平和的な外交・安全保障政策を求めます。そして私たちは、戦後71年でつくりあげられてきた、この国の自由と民主主義の伝統を尊重します。

 SEALDsは解散します。しかし終わったというのなら、また始めましょう。始めるのは私であり、あなたです。何度でも反復しましょう。人類の多年にわたる自由獲得の努力から学びながら。孤独に思考し、判断し、共に行動し、そして戦後100年を迎え、祝いの鐘を鳴らしましょう。

 2016年8月15日 自由と民主主義のための学生緊急行動

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