1. ホーム
  2. 時代の正体
  3. 時代の正体〈440〉共謀罪考(下)歯止めなき「監視社会」

ジャーナリスト 青木理さん
時代の正体〈440〉共謀罪考(下)歯止めなき「監視社会」

時代の正体 神奈川新聞  2017年02月05日 11:48

(あおき・おさむ)1966年長野県生まれ。慶大卒。共同通信記者を経て2006年からフリー。著書に「日本の公安警察」(講談社現代新書)「国策捜査」(角川文庫)「安倍三代」(朝日新聞出版)ほか。
(あおき・おさむ)1966年長野県生まれ。慶大卒。共同通信記者を経て2006年からフリー。著書に「日本の公安警察」(講談社現代新書)「国策捜査」(角川文庫)「安倍三代」(朝日新聞出版)ほか。

【時代の正体取材班=田崎 基】安倍政権が今国会に提出しようとしている「共謀罪」(テロ等準備罪)を新設する組織犯罪処罰法の改正法案。2003年から3度にわたり法案が提出され、そのたびに廃案となってきた。議論では数多くの識者が危険性を指摘してきたが、ジャーナリストの青木理さんは警察捜査を変貌させる恐れがあると指摘する。つまり秘密裏に行われてきた盗聴や尾行、監視といった捜査手法が公然と行われ、それはやがて社会を確実に萎縮させていく。


 国会の内外で、共謀罪の対象犯罪を絞り込むことや、共謀罪を成立させなければ本当に「国際組織犯罪防止条約」に批准できないのか、といった議論が始まっている。ただ、私は別の視点でこの共謀罪の危険性を指摘したい。

絞り込み作業の空虚


 刑事犯罪は基本的に「既遂」を罰する。一部に「未遂」、そして一部の犯罪についてだけ「準備」や「予備」段階を処罰する。

 ところが、共謀罪については未遂どころか、全く行われてもいない犯罪を取り締まる。ということは、いくら歯止めをかけようが、対象犯罪を絞り込もうが、準備行為を要件に入れようが、一番の問題は「国民への監視と管理がセット」になるということだ。

 これは起きていない犯罪を取り締まる、という特殊性からくる。だから対象犯罪を半減させた、4分の1にしたなどと、絞り込んでも歯止めにならない。

 怪しい、危険だと警察当局が判断した組織・団体・個人を日常的に監視しなければ、共謀段階の取り締まりなどできない。

 これは従来、公安警察がひそやかにやってきたことを、公然と普通の警察が日常的に行うことを意味する。つまり、特定の政党や宗教団体、過激派集団を危険だと認定し、日常的にその拠点や施設、関係者宅を24時間体制で監視し、出入りする者を片っ端から尾行したり、「協力者」という名のスパイをつくり出したりする。時には別件で令状を取って家宅捜索などを行い常時監視する。

 これまではこうした監視・管理は秘密裏に行われてきた。だが共謀罪が成立すれば、そうした手法は極めて広範な犯罪について行われることになる。ありとあらゆる市民活動が対象になり得る。警察当局が「危ない」「怪しい」とにらめば監視できてしまうからだ。

 これは警察当局による「内心、思想の監視・管理」を前提とする法律だということ。最も大きな問題はここにある。

招く捜査手法の拡大


 もう一つ。警察当局の視点に立ってみると分かることがある。

 話し合いや合意とはどこで行われるのか。密室や携帯電話、暗号化した通信で行われるだろう。組織犯罪集団であればなおさらだ。これを立証しようとすれば、日常的な監視では足りない。

 立証手法の一つは供述になる。これは自白に頼ることであり冤罪(えんざい)の可能性が高まる。例えば、合意したという数人のうちの1人が「確かに合意しました」と供述すれば、全員が逮捕、起訴されてしまう。

 さらに、よりきちんと立証しようと思えば供述では足りない、という発想になるはずだ。

 すると、より強力な捜査手法をよこせということになるのは必然だろう。盗聴法を強化させてくれ、密室盗聴が必要だ、そうでなければ立証できない、

という話になる。怪しいとにらんでいる対象者の居宅、立ち寄り先、アジト、拠点の中を盗聴させろ、という話になる。

 こうした手法を実は警察は一部で既に行ってきたわけだが、共謀罪が成立することで、公然と行われることになる。

 共謀罪の本質は思想、信条、内心の領域に国家権力が公然と踏み込んでいくということ。そこには警察による「市民監視」が必ず伴うということだ。

この記事は有料会員限定です。

月額980円で有料記事読み放題/100円で24時間読み放題のコースも。詳しくはこちら


シェアする