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【記者の視点】報道部デスク・石橋学
時代の正体〈365〉桜井誠氏の差別の思想を非難する

時代の正体 神奈川新聞  2016年07月30日 00:00

「日本第一」ののぼりを掲げた桜井氏の選挙街宣 =24日、JR上野駅前
「日本第一」ののぼりを掲げた桜井氏の選挙街宣 =24日、JR上野駅前

【時代の正体取材班=石橋 学】差別は人を殺す-。相模原の障害者施設殺傷事件を目の当たりにし、この言葉が耳奥で響いてやまない。脳裏にある人物が像を結んだ。桜井誠氏(44)。人種差別団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の前会長にして、東京都知事選の立候補者。選挙カーの上から差別と憎悪をあおる言動を拡散し続ける。いまこそ、その思想と言説をこそ非難し、否定しなければならないと私は考える。

 動画投稿サイト「You Tube」に桜井氏の発言が残る。

 「日本で生活保護をもらわなければ今日明日にも死んでしまうという在日がいるならば、遠慮なく死になさい」

 告示日の14日、東京・巣鴨で行われた演説の一節だ。人間の尊厳を否定する、人の道から外れた言動。街宣車のスピーカーから大音量で発せられ、ネット動画の視聴回数は29日現在、7万を超えた。その後は「死ねというわけではないが」「死ぬというのなら、遠慮なく日本から出て行け」と言い換えているが、在日コリアンの存在を否定するおぞましさに変わりない。

 桜井氏が公約のトップに掲げるのが、外国人への生活保護の停止だ。外国人のうち在日コリアンら特別永住者、永住者、定住者などが支給対象となっているが、最後のセーフティーネット、命の綱を断つという。

 日本人か、そうでないかで線引きし、生きるべき人間とそうでない人間を選別する思想をそこにみる。それはまた、人を人とも思わぬ差別意識が発想を可能にさせている。
 

虚 言


 桜井氏が法務省から「在日朝鮮人の尊厳を傷付けるもので、人権擁護のうえでも看過できない」と勧告を受けたのは2015年12月。東京・小平の朝鮮大学校前で「朝鮮人を日本からたたき出せ」「殺してやるから出てこい」などと怒号を上げた言動が「生命や身体に危害を加えかねないと、校内にいる学校関係者らを畏怖させる違法行為」と認定され、同様の行為を行わないよう求められた。

 在特会を立ち上げ、14年の脱会後も「行動する保守運動」代表を名乗り、謝罪も反省もなくヘイトスピーチを繰り返す人物が「選挙運動の自由」の名の下、生活保護の停止を唱える。

 「本来必要のない生活保護が外国人に与えられ、日本人が圧迫されている」

 「福岡では生活保護が打ち切られた日本人2人が餓死した。外国人でそんなケースは一つもない」

 「何で日本が韓国人やフィリピン人、シナ人を養わないといけないのか」

 「ここは日本人のための国家だ。外国人の権利は二の次、三の次。まず日本人が幸せにならないといけない」

 「この国には、お金が無尽蔵にあるわけじゃない。日本人が差別されているなら、桜井誠が立ち上がるほかない」

 「ジャパン ファースト 日本第一」ののぼりがはためき、聴衆から「そうだー」の声が上がる。桜井氏は日本人と外国人では受給率に差があると言って、ボルテージを上げた。

 「日本人より在日韓国・朝鮮人の方が受給率が高いとは、どういうことだ!」

誤 認



 桜井氏は外国人への生活保護支給自体を「違法」と言い切る。「入管法には自活できない外国人は入国させないと書いてある」。そして「世界各国、外国人に生活保護を与えているこんな国はどこにもない」。強調されるのは「優遇」の裏返し、「奪われる」ことへの嫌悪だ。

 「このままでは在日韓国・朝鮮人、シナ人に食いつぶされる。外国人によって自分たちの税金が浪費されている」

 「私たちは外国人の生活保護のために汗水たらしているわけじゃない」

 「税金が日本人のためでなく、外国人に使われているという実態に怒らないのは日本人じゃない」

 では、厚生労働省に確認してみる。

 -外国人を優遇しているのか。

 「日本人も外国人も支給の要件は同じ。日本人は生活保護法にのっとり、外国人は通知に基づき、同法を準用し、行政措置で行っているという違いはあるが、要件も金額も同じ。優遇はあり得ない」

 そうである以上、受給率の高さは外国人がそれだけ経済に困難な状況にあるということを示しているに過ぎない、ということになる。

 -違法との指摘は。

 「入管法は入国時の条件を規定しているにすぎない。日本に入ってきたのちに失業したり、病気になったりすることはあり得る。人道上、行政の裁量で保護する必要がある。支給すること自体は最高裁判決(14年)でも違法ではないと確認されている」

 -日本以外では。

 「受給の要件はそれぞれ異なるが、例えばEU(欧州連合)の先進国でも公的扶助制度がある」

 受給世帯の97%は日本人が世帯主の世帯だった(14年度)。3%の外国人が「日本人を圧迫」している状況にはない。外国人も日本人同様、税金を納めており、生活保護の財源にもなっている。「日本が外国人を養う」「自分たちの税金が浪費されている」という認識は実態からも誤りといえる。

 私たちは共に生き、支え、支えられている。その現実はコンビニ店のレジ、街中の建設現場、夜の弁当製造工場、そしてさまざなルーツの子どもが机を隣にする学校の教室に確かめることができる。それでも都知事選が始まってから、外国人への生活保護支給に対する異議が厚労省に寄せられるようになっているという。

警 句



 「日本人の幸せ」と社会的コストが強調され、切り捨ての正当化が図られる社会的少数者の人権。あるツイッターのつぶやきが目に留まった。

 〈余裕のない日本国の社会にとって、彼らの存在はまさに『存在するだけで社会に対して大きな負担をかけるお荷物』でしかない〉

 これは桜井氏の選挙演説を聞いて書かれたものではない。障害者施設殺傷事件が起きた26日、犯行への共感が示されたあまたの書き込みのうちの一つだ。

 容疑者が今年2月、衆院議長に宛てた犯行予告には「障害者は人間としてではなく、動物として生活を過しております」「障害者は不幸を作ることしかできません」「障害者を殺すことは不幸を最大まで抑えることができます」とつづられていた。

 20万人ともいわれる障害者をガス室に送り、ホロコーストにもつながるナチスの優生思想に重なる考えにどのように至ったのか、容疑者の内面をうかがい知ることはできない。ただ、文面から読み取れるのは、障害者への差別意識が残忍な犯行の計画立案を可能にさせたということだ。

 社会的少数者の属性を憎しみの対象とし、攻撃に至る犯罪、ヘイトクライムは差別感情と地続きにある。殺害計画において容疑者が正当化に用いているのが「障害者以外の幸せ」であることは見過ごせない。「日本第一」を掲げ、共に生きる外国人に「出て行け」と言い放つ桜井氏の思想に重なって映る。

 街中で「ごみ、ダニ、ウジ虫、朝鮮人」と呼び、殺害までをあおるヘイトスピーチの恐怖にさらされてきた当事者は感じていた。「差別は人を殺す」。1カ月前、取材にそう話したのは人種・民族差別問題に取り組む梁(リャン)英聖(ヨンソン)さん(33)だった。関東大震災における朝鮮人虐殺に「公によるデマがレイシズムを強化し、虐殺につながるメカニズム」をみて、差別の禁止と、とりわけ候補者を含む政治家ら公人によるヘイトスピーチの危険性を唱えてきた。

 そして、川崎市川崎区桜本の

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