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民間と公的団体
施設退所の若者支援 得意分野生かし連携

社会 神奈川新聞  2016年07月28日 09:34

児童養護施設退所者への支援について話す永岡鉄平さん(左)、松永正利さん(左から2人目)、福本啓介さん(右端)=横浜市中区のフェアスタート
児童養護施設退所者への支援について話す永岡鉄平さん(左)、松永正利さん(左から2人目)、福本啓介さん(右端)=横浜市中区のフェアスタート

 家庭での生活が難しく、児童養護施設で育つなどした若者に対する、新しい支援体制の取り組みが県内で動きだしている。伴走型支援と居場所事業、就労支援といった異なる特徴を持つ3団体が連携し、それぞれの事業の強みを生かして1人の若者をサポートする体制が2月からスタート。公的な団体と民間の団体が協力し、10代後半で「自立」せざるを得ない若者を多方面から支えていく。 

 6月下旬、施設退所者らの幅広い支援に携わる「神奈川県アフターケア3団体連絡会」(AC3)の会合が横浜市内で開かれた。

 構成しているのは、県の委託事業で、施設退所者を支援する「あすなろサポートステーション」(藤沢市)、横浜市のアフターケア(施設退所後の支援)事業の拠点で、NPO法人ブリッジフォースマイルが事業を受託している「よこはまPort for(ポートフォー)」(横浜市西区)、民間の就労支援団体「フェアスタート」(同市中区)の3団体。3回目の集まりとなったこの日は「就労支援」をテーマに話し合った。

 「施設職員しか『働く人』を見たことがないという子どももいる」「職種や仕事の内容を、よく理解できていないことが多い」「子ども自身を抱え込まないことも大事」

 それぞれの活動の中から浮かんだ問題点を分かち合う。さらに、若者それぞれの特性に合わせた働き方を考慮してくれる企業もあること、必ずしも出身施設といい関係を保ち続けている若者ばかりではないことなどにも話題は広がる。ときに笑い声も交えながら、約2時間にわたって意見交換した。

横断的に



 AC3の発足は今年2月。2カ月に1回を目安に、子どもへの向き合い方や支援などについて連絡会を開いている。もともと3団体は活動を通じた付き合いがあり、そのなかで「協力することで、1団体ではサポートしきれない退所者もフォローできる」と連携に発展した。

 施設退所者は、家族を頼れないために高校卒業と同時に住み込みで就職したり、1人暮らしを始めたりすることも多い。2012年に県児童福祉施設職員研究会調査研究委員会が行った調査では、15歳から20歳で児童養護施設などを退所した369人のうち、141人が「会社寮・住み込み・職員寮」に、103人が「アパート・マンション・1人暮らし」に移っていた。また、就職が決まっても円満にいくケースばかりではない。寮などがあることを優先して働き始めたものの、最初の勤務条件とは異なる低賃金や長時間労働を強いられて退職し、同時に住まいも失って困窮する人もいる。

 AC3は、そんな困難に直面した若者を3団体それぞれの得意分野を生かして横断的に支援することを目的にしている。いずれか一つの団体を利用している若者に対し、ほかの団体が持つ機能やノウハウを使うことでよりよい支援ができると判断した場合、お互いに若者をつなぎ合う。利用者全体の情報を、3団体で共有するということはない。

隙間埋め


 中心的な役割を担っているあすなろサポートステーションは、通常は原則として県所管地域の退所者の相談・支援業務を行っている。児童養護施設とも連携しており、住まいを失ったり、金銭的に困窮して路上生活に陥ったりした、難しい相談ケースも数多く対応している。ポートフォーは、施設退所者が気軽に立ち寄って過ごせる「居場所」で、週5日開所している。横浜市の事業だが、登録すれば全国どの地域の人でも利用可能だ。フェアスタートは、家庭環境などの理由で、18歳で就職する施設出身者らの就労支援会社として11年に設立。一人一人と面談して、本人に合った就職をあっせんすることに加え、働き始めてからのアフターフォローも行っている。

 「あすなろ」所長の福本啓介さんは「3団体が協力するべき、というのはテーマとしてあった」と話す。連携の効果として「通常の就労は難しかった『あすなろ』の利用者に、本人の状況に合わせて柔軟な対応をしてくれる受け入れ先を、フェアスタートから紹介してもらうなどのケースがあった」という。また、3団体の利用者に、互いの存在を周知することもしている。「3団体で手を取り合い、隙間を埋めていく。もしも退所者が一つの団体を利用しづらくなることがあっても、別の団体とつながっていれば、糸が切れない」と効果を挙げる。

現状優先



 団体側にも、連携から得るものがあるという。

 ポートフォーの担当者、松永正利さんは「とにかく話を聞いてもらいたいという利用者が多い」と話す。開所時間中は必ず2人以上のスタッフがいて、複数の利用者を迎え入れて話をしたり、週末は一緒に食事を作って食べたりしている。

 その中で相談に発展することもあるが、スタッフに福祉の専門家はいない。「(連携で)『あすなろ』の力を借りることができるし、スタッフの相談スキルをもっと上げることもできるだろう。居場所はポートフォーだけだが、ここでニーズが合わない子は、その都度、連携する団体につなぐこともできる」と話す。

 フェアスタート代表の永岡鉄平さんは、施設出身者が職場とのミスマッチで退職していくことを「とてももったいないし、社会的損失になる」と考え、この事業を立ち上げた。11年11月から16年5月までで、60人を就職先につないでいる。

 家庭環境などを理由に、「不安定な職場に行くことを、いかに未然に防ぐか」ということも、事業のテーマの一つだ。就職希望者とは施設からの紹介でつながる。だが、ある程度しっかりした子どもでなければ、フェアスタートを利用した就職は難しいと判断する施設もあるという。「もっと応援できる余力はある。連携することで若者の情報を知ることができれば、本人に合った会社につなげば働けそうな人を見落とさなくなる」と考えている。

 3団体それぞれの事業には競合する内容もある。実績を残すことを求められる部分もあるが、連携した支援が必要な若者がいるという現状を優先した。福本さんは「互いの活動を知っているから尊重しあえるし、利用者もニーズに応じて選ぶ権利が持てる」と話す。「『オール神奈川』で退所者の支援をしたいという思いが根底にある。全国的にも珍しい試みだと思う」と、この活動が新しい流れを生むことにも期待している。


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