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時代の正体〈364〉経済から考える待機児童問題(下)

時代の正体 神奈川新聞  2016年07月26日 10:25

 待機児童問題は福祉の文脈で語られることが多いが実際に財源を確保するには経済面からの考察も不可欠だ。連載の最終回は、ともに経済学者として活躍し、共編に「成長産業としての医療と介護-少子高齢化と財源難にどう取り組むか」(日本経済新聞出版社)がある昭和女子大グローバルビジネス学部長の八代尚宏教授、学習院大経済学部の鈴木亘教授の意見をまとめた。

市場メカニズム導入を 学習院大・鈴木亘教授


 学者としての「中長期的にこうあるべきだ」ということと、現実的な「緊急対策としてできるのは何か」ということに分けて提言したい。

 経済学者としては、保育産業は社会主義的で不効率で問題が多い仕組みだと思う。一番良い解決策は、保育サービスに市場メカニズムを導入すること。保育料を自由化。参入も自由化。誰でも同じ条件で参入できるようにする。

 現状は利用者と施設の間に市町村が入っているが、利用者が施設と直接ちゃんと契約する制度にする。公費や規制が不要といっているわけではなく、低所得者や障害児への手厚い補助はあってしかるべき。利用者に対して直接補助をして、利用者が選択した保育所に対してお金を支払うという仕組みにすると効率的だ。

 市場メカニズム導入のメリットは、需給調整が自動的にできること。理不尽な点数割り当てをして非正規雇用者の方が損をするというような不公平もなくなる。園同士の競争が働けば、施設の質と採算性が向上して効率化も進む。

 東京都の認証保育園は自由価格でやっているが、極端に安く劣悪だったり、逆に高額だったりする施設は競争の中で排除され、結局ほとんどが5万~7万円に収まっている。

 ここまで、おそらく保育の世界では“宇宙人”のような発言だ。ここからは現実的な対策を提案する。

 まず、認可保育の対象を、現行の0歳からではなく「1歳以上」に引き上げる。0歳児は基本的に育休中の親が育てるようにする。非正規でも育休をしっかり利用できるよう、育休手当を6兆円の積立金がある国の雇用保険の会計から出せば、財源は確保できる。どうしても0歳保育が必要な親へは、小規模保育所や無認可保育所、保育ママなどが対応する。0歳児枠がなくなれば1歳児以上の定員をうんと増やすことができ、都市部だけでも15万人くらいの定員を確保できる計算だ。

 また、職員に占める資格者の割合を緩和するという対策も有効だろう。現在、認可保育所の保育スタッフは全員が保育士資格保有者。対する都の認証保育所は有資格者が6割いれば運営できるが、特に問題は生じていない。緩和で減らせる4割の資格者を、自治体が給与を保証した上で他の新しい保育所に出向させれば、都市部で20万人程度の定員増を見込める。

 最後に、無認可利用者への補助拡充。認可保育所が足りない以上、東京都認証保育所や横浜保育室のような一定の質が担保された無認可を拡大するのが、方法として現実的だ。

 都内の多くの自治体では、既に無認可を使う人に対する独自の補助金制度がある。金額を増額し、全国で利用できるよう国が助成して拡充するのはどうか。財源は一種の景気対策として、補正予算やそれ以外の予算で「手当」として捻出すればいい。そうすれば無認可はもう少し高い保育料を取れるようになり、供給増につながるだろう。

 すずき・わたる 1970年生まれ。1994年、日本銀行入行。大阪大社会経済研究所助手、日本経済研究センター副主任研究員、東京学芸大准教授などを務めたのち現職。著書に「社会保障亡国論」(講談社現代新書)、「財政危機と社会保障」(講談社現代新書)、「社会保障の『不都合な真実』」(日本経済新聞出版社)など。専門は社会保障論、医療経済学、福祉経済学。

介護保険モデル参考に 昭和女子大・八代尚宏教授



 現在、日本は歴史的な転換点にある。これまで増え続けていた人口が減りはじめている。少子化対策だけでは対応できないから、むしろ人口が減少してもいいような社会に構造転換することも鍵になる。

 自治体が一生懸命保育所をつくっていても、それ以上に入所希望者が出てくる「逃げ水」のような状況だ。厚生労働省は潜在的な待機児童を約80万人と試算しているが、はっきり言って私は360万人くらい、つまり「未就学で入らない子ども全員が潜在的待機児童」と考えている。

 もはや福祉制度の手直しでの解消は不可能な規模だ。もう保育を立派なサービスとして捉え、企業が主体として提供するのは当たり前だ。

 公的機関は企業を監督する役割を担う。例えば銀行は人びとの大事な預金を預かるサービスだから、金融庁が監督している。お金よりも大事な子どもを預かるサービスにはそれ以上の規制を掛けて監督する必要があるだろう。

 女性が働くことが主流の現代では、昔のように「自宅で子どもを見られない貧しい世帯のために政府が福祉として保育をする」という前提の児童福祉はそぐわない。にもかかわらず、その考え方のまま待機児童に対応しているからきりがなくなる。役所の人間が上から目線で、保育所に入りたいという人に点数をつけている。やぼだ。

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