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ヘイトスピーチ考
時代の正体〈361〉条例はなぜ必要か(中)人権擁護の主体として

時代の正体 神奈川新聞  2016年07月23日 10:42

日の丸を掲げた参加者を抗議の市民が取り囲み、中止に追い込まれた6月5日のデモ=川崎市中原区
日の丸を掲げた参加者を抗議の市民が取り囲み、中止に追い込まれた6月5日のデモ=川崎市中原区

 神奈川大法科大学院の阿部浩己教授はヘイトスピーチを規制する際、自治体は人権を守る主体として取り組むことが求められていると、やはり国際人権基準を引いて説く。 

 憲法学の基本的な考え方の一つが、言論に対しては言論で対抗していくべきだというものだ。これを自由市場主義人間モデルと呼ぶ。確かに日本国憲法は、先の大戦に至る過程で国家権力が人々の自由を損なっていった経験を踏まえてつくられている。国家が表現の自由に必要以上に介入してはいけないという考えから、ヘイトスピーチ規制にも慎重論が根強い。だが、これは国際人権法の考え方とは相いれない。

 自由市場主義人間モデルに対して平等主義的、共同体的人間モデルを採用している国もある。これは少数者(マイノリティー)を社会的に認め、多数者(マジョリティー)とマイノリティーを平等にしなければ、皆が表現の自由を享受できない。社会的に弱い立場の人と強い立場の人を平等にする中で、自由に対しても必要な規制を加えていくという考え方だ。

 国際人権法は自由市場主義的人間モデルより平等主義的、共同体的人間モデルの要素を強く含んでいる。ここでは自由を実現するため、ヘイトスピーチ規制は表現の自由の正当な制限だと考えられる。

 国際人権法は国際社会のスタンダードであり、日本は人権条約の締約国だ。いまの憲法の下、どのように国際人権法の考え方を実現するのかを日本も考えなければいけない。

 川崎市における人権推進施策やヘイトスピーチ規制を考える際も、グローバルな基準を柱に据えて考えていくべきだ。川崎市には人権推進施策基本計画「人権かわさきイニシアチブ」があるが、基本理念の冒頭でも、人権諸条約に基づき国際的な視点に立った施策を行うとうたわれている。

 人権かわさきイニシアチブは2015年3月制定。ヘイトスピーチについては新たな人権侵害との認識を示し、「市民への人権意識の普及」の項で「あらゆる差別の撤廃に向けて、差別的言動(ヘイトスピーチ)が行われることがないよう、広報・普及の充実を図る」と明記している。

 国際人権基準に照らしたとき、差別やヘイトスピーチに対して公的機関が取るべき立場ははっきりしている。人権条約は公的機関に人権を擁護するよう命じている。人権を侵害する側と、される側という図式があるとき、侵害される側に立ち、人権を擁護しなければならない。私人間のヘイトスピーチを中立の立場から人ごとのように見ているわけにはいかない。

 その上で具体的な方策をどう考えていくか。ヘイトスピーチ解消法は不十分な点を残しつつ、ヘイトデモを繰り返す男性に対する川崎市の公園不許可判断や横浜地裁川崎支部によるデモ禁止の仮処分決定といった成果を生んでいる。

 やはりこの法律をベースに前進していくことが大切だ。解消法の成立がそうだったように、差別禁止と幸福追求権をうたった憲法14条、13条、あるいは人種差別撤廃条約、自由権規約に従った対応をヘイトスピーチ規制を検討する際にも心掛けるべきだ。

 ルールづくりで焦点となるのが公共施設の貸し出しだ。集会やデモのために利用を申し込んだ際、事前に内容をチェックし、規制をすることはできるのか。自由市場主義的人間モデルに立つ考え方では、憲法上、認められないとされる。あらゆる申請は受理し、利用を認めるというのが大原則になっている。

 しかし、それがヘイトスピーチの場合はとても許容できる考え方ではない。従来の憲法の考え方で公共施設を管理運営するのでは不十分ということになる。従来の憲法の一般的な考え方を、どのような形で国際人権基準と整合していくかという問題がここでは投げ掛けられている。

 では、事前規制とは何か。事前というのは事が起こる前のことだが、事は一体いつ起きているのか。ヘイトデモを繰り返していて、新たなデモの申請があった場合、それはもはや事前ではなく、一連のプロセスが続いているとみなすことができ、規制が可能になろう。

 前歴のない人物が申請するケースはどうか。一連の行為とはいえないが、この場合はヘイトスピーチをしないといった条件を付けて許可するといった行政指導が考えられる。インターネットなどによってヘイトデモを行うと告知した時点で現在進行形の公益の侵害となり、規制できるようになるかもしれない。

 集会、デモが実際行われた場合は、内容がヘイトスピーチに当たると判明した時点で規制をかけられる。こうしていくつもの網を掛けるということが可能になっていくかもしれない。

 ヘイトスピーチを巡っては全国初となる抑止条例が大阪市で1日から施行されている。ヘイトスピーチと認定した場合、主催の団体・個人名を公表し、動画などの削除を要請する。学識経験者や弁護士らでつくる審査会が検討し、答申を受けた市長がヘイトスピーチに当たるかを判断する仕組みだ。

 規制と同時に、大阪市条例のように救済の申し立てや審査機関の設置といったものも必要だろう。

 ルールを具体化していくには実態調査が欠かせない。教育、研修、啓発は市民だけでなく公務員に対しても行うことが大切になる。

 あらゆる資源を活用していくことだ。川崎市は東京五輪・パラリンピックの開催に引きつけて多様性を大切にしたまちづくりを進めていこうとしている。そうしたメッセージも利用できる。サッカーは反差別の姿勢を打ち出しているスポーツであり、地元クラブと連携が取り得るだろう。

 国際人権法の観点からみれば、求められているのは差別を包括的に禁止する枠組み、法制度だ。その上でヘイトスピーチが規制される必要がある。それは国、自治体のいずれのレベルにおいてもいえることだ。

 国や自治体による制度的な人種差別を撤廃するということも必要になってくる。石原慎太郎都知事(当時)の「三国人」発言や朝鮮学校に対する補助金不支給といった差別政策は人権条約が真っ先に撤廃を求めているものだ。自ら差別をしていてヘイトスピーチを規制するのは本末転倒だからだ。

 日本の人権教育や人権行政は市民と市民の間で起きた問題において人権を守るというところに力点を置いているが、公的機関自体が差別を行い、人権を侵害する主体になっているという認識が希薄だ。国際人権法は公的機関が差別をするから市民レベルでも差別が広がっていくのだという考え方をとる。だからこそ公的機関自体が差別をしてはならないと求めている。

 高い地位にある公人が差別的言動を繰り返し、

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