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弁護士 海渡雄一さん
時代の正体〈438〉共謀罪考(上)自由との境界壊す悪法

時代の正体 神奈川新聞  2017年02月03日 11:58

海渡雄一氏
海渡雄一氏

【時代の正体取材班=田崎 基】政府は今国会に、「共謀罪」(テロ等準備罪)を新設する組織犯罪処罰法の改正法案を提出する方針だ。これまで何度も議論され3度の廃案を経たが、政権は再びその成立をもくろむ。そもそも、なぜいま共謀罪なのか-。法案に詳しい海渡雄一弁護士は「まずはその危険性を知ってもらいたい」と言う。


 共謀罪は刑法の大原則である「既遂処罰」を根底から覆す。現行刑法は既遂を罰し、重大な犯罪は「未遂」段階を罰している。そして限られた最も重大な犯罪についてだけ「予備」や「共謀」も処罰している。既に予備や共謀について70程度の犯罪が規定されている。「共謀罪」はそれ以外にさらに600もの犯罪について未遂以前の段階を罰しようとしている。「必要ない」としか言いようがない。

心の中監視


 刑法における「犯罪の構成要件」とは、こういうことをやらない限り人間の行動は自由だ、という「自由との境界線」だ。共謀罪はこの境界線をぐっと引き下げることになる。

 国家が「あなたたちは、こういう悪いことを考えたり、人と話したりしてはいけませんよ」と市民の心の中に監視の目を光らせる社会になる。共謀罪の根本的な問題点はここにある。


海渡雄一氏
海渡雄一氏

 では実際に運用する際、どのように捜査するのか。共謀罪の捜査はまだ現実には何もひどいことが起きていない段階で行われる。警察は当然「これが職務だ」と言い始める。共謀自体が犯罪ということになれば、市民の会話や電子メール、携帯電話の通信の全部を監視しなければいけない、という話になる。

 これには既に布石がある。2016年に刑事訴訟法などが改正され通信傍受の対象が極めて拡大された。それまでは組織的殺人罪や薬物関連に限られていたが、傷害罪、窃盗罪、詐欺罪も盗聴の対象となった。

 この流れからすれば、共謀罪の成立によってさらに拡大しろ、という話になることは目に見えている。共謀罪は大変な監視社会を生み出しかねない。


海渡雄一氏
海渡雄一氏

「普通の人」


 政府の主張について、一つ一つ反論してみたい。

 〈一般の人が対象になることはありません〉

 この理屈は「共謀罪の対象になるような人は一般人ではない」という論理の逆転を生む。つまりトートロジー(同義語反復)だ。無意味であって、むしろその危険性を裏付けているようでもある。

 〈共謀罪ではありません。名称は「テロ等準備罪」であって、準備行為も必要です〉

 実は、準備行為は単なる処罰条件であって犯罪の構成要件にはなっていない。だから準備行為の内容は起訴状に書かれないし、明確な準備行為がなくても共謀が認められれば捜査して逮捕できる。つまり共謀罪は殺人について誰かと合意して、なんらかの行為をすればいい。例えば銀行でお金を下ろすとか食事を取るといった準備行為でも足りる。


海渡雄一氏
海渡雄一氏

 〈テロ防止のために国際社会から求められています〉

 これも大うそが二つある。

 まず一つ目。共謀罪を成立させなければ批准できないと政府が説明している「国際組織犯罪防止条約」はテロ対策と無関係。

 この条約は、組織犯罪集団、つまりマフィアや暴力団対策で、立法ガイドには「イデオロギーに係わる目的など、純粋に非物質的な目的を持った共謀は、この犯罪の対象とすることを求められていない」と明記している。テロ対策をあえて除外している。つまり政府はテロ対策と無関係の条約を批准するために「テロ対策のために共謀罪が必要だ」という論理矛盾した説明を繰り返している。

 二つ目は、果たして日本のテロ対策は不十分なのか、という点だ。日本は国連による国際的なテロ対策に関する10余りの条約を全て批准している。国連が推奨するテロ対策の法整備を既に済ませている。これでもなぜ不十分と言えるのか。

 〈対象となる犯罪を絞り込みます〉

 これも悪いデジャビュ(既視感)のようだ。

 既に06年の段階で与党の最終修正案として対象犯罪を「長期4年以上の懲役または禁錮の犯罪」から「長期5年の犯罪」に変え、600余りの対象犯罪が約300に減った。さらに07年には自民党内の小委員会案として140余りに減らした案が作られている。

 それを今回また再び676という数字を国民の前に出し、減らす過程を見せている。欺瞞(ぎまん)に満ちた演出としか言いようがない。

 だがいくら減らしても看過できない。「内心への捜査」には乱用の恐れがつきまとうからだ。戦前の治安維持法が「希代の悪法」だったという評価は

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