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迷い、揺れ、絞り出す思い アジカン20周年

カルチャー 神奈川新聞  2016年07月17日 02:00

カウントダウン・ジャパンのステージで歌う後藤正文さん=2015年12月、千葉県美浜区
カウントダウン・ジャパンのステージで歌う後藤正文さん=2015年12月、千葉県美浜区

 ソロアーティスト、ゴッチとして2枚目のアルバム「Good New Times」をリリースしたばかり。

 日本語にこだわったアジアン・カンフー・ジェネレーション(アジカン)とは一転、ソロ作品では英語を多用する。「ボキャブラリーが限られる中で、何を書くのかが挑戦」。こだわりは「韻を踏むこと」。使える言葉を増やそうと、今年1月に死去した英のアーティスト、デビッド・ボウイさんや、豪州の女性ミュージシャン、コートニー・バーネットさん(28)らの歌詞と向き合う。

 毎日、午前中はコーヒーを片手に、英訳をこなす。作曲後、パソコンに打ち込んだ歌詞をプリントアウトして、スタジオに持ち込む。

 「アジカンは日本語が多いから縦書き、ソロは英語表現が多いから横書き」。変化を楽しんでいる。

 表題作「Good New Times」には、20世紀前半に全米を放浪した米国の作家・詩人の名前を記した。

 〈ポケットにはジャック・ケルアック〉
 蒸気と油にまみれた鉄道作業員、安い労賃で働く酒浸りの船乗り…と、渡り鳥のような労働者「ホーボー」を描いた、ケルアック。歌詞にある〈財布は空っぽ 打ちのめされた世代よ〉は作品が生まれた1950年代前後にも、そして現代にも通ずる。歌は続けて呼び掛ける。〈現代のホーボーたちよ〉

 アジカンでは2004年に発売したアルバム「ソルファ」をセルフカバーし、年末に発売する。過去の自分が残した、感情の切れ端と対峙(たいじ)した。「肉体は衰えているかもしれないけれど、経験や技術は向上している。当時よりもいろいろなことがクリアに見えている」と自信を見せる。

 「譲ってもらった3万円のギターが始まり」と振り返る。「音楽も文学もすごいやつがいる。比べようがないし、まねなんてできない。自分の音楽を追究していくしかない。表現は時間を超えていく」

 18歳で上京し、浪人した1年目は新聞配達をして生計を立てた。大学進学後は、横浜市金沢区で青春時代を過ごした。横浜や東京・下北沢のライブハウスに立ち、日が当たる時をうかがう日々。「街は当時を思い出せないぐらい変わったけれど、アジカンは横浜のバンド」と思いを込める。

 京急線に乗り、三浦や横須賀などで遊んだ。東京に出て行こうとは思わず、せいぜい品川どまり。25歳くらいまでは居酒屋チェーンを好んでいたが、ここ何年かで、特徴的な飲食店がひしめく飲んべえ街・野毛(中区)にも足を運ぶようになった。



 「世の中を2、3行で言い切ることはできない」。この社会は、一つのフレーズで言い得るような単純なものではない。多様で混沌(こんとん)として、かなり面倒。それを受け止め、あえて表現し続ける-。音楽と社会を架橋する後藤正文さんの「言葉」を読む。

まとまらなさ
 後藤さんの文章はよく迷い、ためらい、揺れながら進んでいく。5年余りのブログをまとめた近著「何度でもオールライトと歌え」(ミシマ社)には例えば、こんなくだりがある。

 〈経済という言葉を最優先にして、どこまでも壊していいものなのか〉と、原発建設計画のあった海岸を訪ねた印象をつづる。すぐさま〈言った側から、何を言っているのだ俺は? とも思う〉と都市生活者の無責任さを反省する。でも、そこでやめない。〈それを承知で、こういうところを壊さずに、なんとかうまくやっていく方法はないかと考える〉

 阪神大震災から18年が経過した日には「語らない理由」を打ち明けた。〈語るべき言葉を持っていない俺が、なんとなしの追悼コメントをどこかに書くことのほうが、白々しいように思えるからだ〉。官邸前デモに参加したときは、乱れ飛ぶ多様すぎる主張に戸惑いつつ独白した。〈まとまらない。まとまらないが、いろいろなことを考えている。唸(うな)り声を上げている〉

音楽の揺らぎ
 曖昧さを受け入れ、逡巡(しゅんじゅん)する過程をそのまま書く。「ミュージシャンだからだと思います。音楽って揺らいでいるものなので」と後藤さんは言う。コンピューターが正確に刻む音は、それはそれで先端技術の妙味ではあるけれど、あまりに「遊び」がそぎ落とされ、角張ったような音楽になるだろう。音楽ってそうじゃない。

 「楽譜に起こせない音があるんです。ギターの弦をこすり上げる音って、書きようがない。そういう揺らぎがもたらす美しさを、自分は信頼しています」。一瞬のミスタッチのような偶然の産物こそが美しさの源泉だ、と後藤さんは思う。「どこかに作り手の匂い、ヒューマニティー(人間らしさ)がないとね」

 その経験が社会を捉えるまなざしや筆致に重なる。キャッチコピーのような単純な言葉ばかりでは「社会がものすごく“真四角”になってしまうから」。異なる立場の人に向けられる言葉はとがり、悪意をまとって攻撃が始まるだろう。

一緒に悩んで
 この春発行された「ザ・フューチャータイムズ」最新号の取材で、福島第1原発に近い常磐地区と沖縄を歩いた。そこで感じたのも〈ひと言ふた言でまとめられることって、まったくない〉という複雑さだった。

 複雑さを隠蔽(いんぺい)する“都合の良い境界線”も見えてきた。米軍基地の内、外。帰還困難区域の内、外。原発に反対と容認。それが福島や沖縄への思いを断絶させる。だから、後藤さんは同号の中で強調するのだ。〈ボーダーっていうのは徹底的にフィクションなんだ〉〈一緒に抱え込んでうわぁって悩みたい〉と。

 例えば、常磐地区はかつて産炭地で、原発ができる前からエネルギーの供給源だった。〈私たちは様々な施設と行為をアウトソーシングしながら、その利益を無自覚に受けて生活しています〉。そう捉え直すことで関係を引き寄せる。

 後藤さんが現場を歩き、人と会い、新聞を作るのは境界線を壊す試みだ。前掲書には〈いろいろな物ごとの間に、ありもしない境界線を引くのはやめてほしい〉と書いた。政治や社会に無関係でいられない。ミュージシャンも、誰でも。


「アジアン・カンフー・ジェネレーション」
 1996年に結成。メンバーはボーカル・ギター後藤正文さんのほか、ギター・ボーカルの喜多建介さん(39)=横浜市出身、ドラムの伊地知潔さん(38)=鎌倉市出身、ベース・ボーカルの山田貴洋さん(38)=静岡県富士宮市出身。横浜、東京・渋谷、下北沢などでライブ活動を展開。2003年にミニアルバム「崩壊アンプリファー」でプロ始動した。アニメやドラマ、CMに曲が採用されて一躍全国区に。2枚目のアルバム「ソルファ」(04年)は、オリコン週間ランキングで2週連続1位の快挙となった。

 アルバム「サーフ ブンガク カマクラ」(08年)は、曲のタイトルに稲村ケ崎、七里ケ浜など江ノ島電鉄の駅名を用いて話題に。13年には横浜スタジアムで始球式を行ったほか、デビュー10周年を祝うライブを実施。神奈川とゆかりが深い。

 プロジェクションマッピングを活用したライブツアーを行うなど、多彩な演出も注目のひとつ。欧州、米国、南米にもファンが多く、海外ツアーも精力的に展開している。


後藤正文さんが編集長を務める新聞「ザ・フューチャータイムス」と著書「何度でもオールライトと歌え」(手前)。新聞はレコード店やライブ会場などで配布
後藤正文さんが編集長を務める新聞「ザ・フューチャータイムス」と著書「何度でもオールライトと歌え」(手前)。新聞はレコード店やライブ会場などで配布

アジアン・カンフー・ジェネレーション(左から)喜多建介さん、後藤正文さん、伊地知潔さん、山田貴洋さん
アジアン・カンフー・ジェネレーション(左から)喜多建介さん、後藤正文さん、伊地知潔さん、山田貴洋さん

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