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時代の正体〈359〉闘いはこれからだ 憲法学者の宣戦布告

時代の正体 神奈川新聞  2016年07月16日 11:49

参院選から一夜明け、今後の活動について語る小林節さん=東京・新橋の事務所
参院選から一夜明け、今後の活動について語る小林節さん=東京・新橋の事務所

 改憲勢力が憲法改正の国会発議に必要な3分の2を占めた参院選。安倍晋三政権打倒を掲げ政治団体「国民怒りの声」を立ち上げた憲法学者で慶応大名誉教授の小林節さん(67)=横浜市港北区=は自身を含め立候補者11人全員落選という惨敗劇にも前を向く。「闘いは終わっていない。憲法を守る闘いは始まったばかりだ」

 参院選から一夜明けた11日、東京・新橋駅近くにある事務所で小林さんの表情には疲労が色濃かった。選挙のちらしが乱雑に積まれたまま。午後になっても訪れる人は少ない。国民怒りの声の比例代表得票総数は約46万票。目標の半分にも届かなかった。

 「野党としての知名度がなかったことが敗因。与党にも野党にも投票しようと思わなかった無党派層の受け皿になろうとしたが、私が立候補したことすら、多くの人に知られていなかった」

 1議席を得た社民党は約153万票、生活の党は約106万票。投票率54・70%は前回2013年参院選から2・09ポイント増えたにすぎなかった。

 支持はなぜ広がらなかったのか。「安倍政権の憲法改悪に反対してきたが、憲法問題への危機意識の薄さを街頭で感じた。憲法はこの国の根幹だが、憲法そのものに関心がない人が多かった」。だが、落ち込んでいる様子はない。「次の闘いに向けて、学ぶことは多かった」

孤独


 勝算はあると踏んでいた。「テレビや新聞、雑誌などで取り上げられれば、知名度は高められると思っていた」。ちょうど1年前の夏、安全保障関連法に反対の口火を切った憲法学者の動向は注目を集め、会見を開けば50人以上の記者がいつも詰め掛けた。

 小林さんが、絶好機と考えていたのが、党首討論だった。「安倍首相が目指す憲法改正はこの国の根幹を破壊すると指摘し、論破するつもりだった。そうすれば主権者である国民の目を覚ますことができる、と」

 討論会に呼ばれることはなかった。各メディアは5人以上の現職国会議員を擁し、公選法や政党助成法、政治資金規正法の対象になっている政党と政治団体を区別し、報道していた。「選挙が始まると誰も取材に来なくなった。これは誤算だった。私が考えていた選挙戦のリングはメディアにあった。そこに上がらせてもらえなかった」

 野党共闘を支援してきたが、野党支持者から「なぜ敵になって、われわれの票を奪うのか」といった批判が寄せられた。小林さんは「選挙を棄権してきた無党派層の票を掘り起こして、安倍首相の暴走を止めようと考えていたが、理解が得られなかった」と残念がる。

 選挙活動の中心は街頭演説だった。選挙戦中盤の6月29日、横浜駅西口を訪れた小林さんは自民党が公表していた憲法改正草案を批判していた。

 「憲法はわれわれ個人を守っています。ですが、自民党の憲法草案では、個人を人と呼び変えています。個をなくそうとしています。改憲勢力が3分の2議席を取れば、安倍首相は憲法改正に取り組んでくる。首相の暴走を止めるため、私を国会に送ってください」

 1時間近い街頭演説で集まったのは50人ほど。小林さんはこう続けた。「数百人の学生の前で講義するのが当たり前で、無人の教室で講義することはありませんでした。今は毎日、無人の街頭で話をしています。今日はこんなに足を止めてくれて、ありがとう」

 選挙中、無人の街頭で演説を続けた。選挙戦終盤の7月5日、雨の桜木町駅前、8日前には安倍首相が数千人の聴衆を集めていた場所で、足を止める人はいなかった。「流れゆく川の流れの中で、小魚をすくっているような感じ。これほど孤独を感じたことはない」

平気


 昨年6月、参考人として立った衆院憲法審査会で、憲法学者2人と「集団的自衛権の行使容認は違憲」と断じた。圧倒的多数の憲法学者が賛同し、抗議活動が全国的に広がるきっかけとなった。

 講演会はどこも満席となり、街を歩けば見知らぬ人に握手を求められた。タクシーの運転手に「頑張って」と声を掛けられたのも一度や二度じゃなかった。

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