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時代の正体〈349〉シールズの参院選(下) 社会変わる実感、選挙で

時代の正体 神奈川新聞  2016年07月05日 11:53

「選挙に行きましょう!」とマイクを手に呼び掛ける奥田愛基さん =3日、東京・新宿
「選挙に行きましょう!」とマイクを手に呼び掛ける奥田愛基さん =3日、東京・新宿

 うだるような熱気に包まれた東京・新宿、伊勢丹前。全国各地で今年初めてとなる猛暑日を記録した3日、SEALDs(シールズ)の中心メンバー、奥田愛基(24)=横浜市=はこの日も野党候補の応援に駆け付けていた。照りつける灼熱(しゃくねつ)の中で汗だくになりながら何度も何度も繰り返し訴えた。「7月10日、選挙に行ってください。選挙に行かないと、政治は私たちの生活からどんどん離れていってしまう。政治はどんどん劣化してしまう。あなたの1票を無駄にしないでください」

 いつもの弁舌鋭いスピーチとは打って変わり、道行く人へ、大切にしている願いを託すようにして語り掛けた。

 「若い世代は30%しか選挙に行かない。そうすると若者向けの政策や子育て支援の政策はどんどん後回しになっていく。安倍政権は憲法を改正すると言っている。そんなことより貧困の問題や待機児童のこと、今すぐやらなければいけないことがたくさんある。だからみんなに今回ばかりは投票に行ってほしいんです」


解 散


 最初で最後の国政選挙。シールズにとってそれが今回の参院選だ。発足当初から、改憲発議(各議院の総議員の3分の2以上の賛成)の要件を満たすのか、その帰趨(きすう)を決する参院選を奥田たちは見据え続けていた。

 文字通りの正念場である選挙戦をいま闘い、奥田は繰り返してきたデモと重ね合わせていた。

 「実際に自分たちでデモをやってみて、なんで社会運動ってこうなんだろうかと、すごく不満があった。もっと開かれたものであるべきだと思ったし、もっと伝える努力をすべきだと思った」

 実践してきたのはだから、「私」を主語としたスピーチであり、主催者でもリーダーでもない1人の市民として発せられる声であり、その一つ一つが社会を変える種をまくという行動を意味していた。

 そうして2015年に日本のデモは変わったと実感する。「少しずつ少しずつ民主主義をバージョンアップしていくということ。デモは日常生活の中に取り込まれ、少なくとも日本でデモは特別なことではなくなった」

 では、いま深淵(しんえん)をのぞき込む政治の舞台裏、選挙はどうだ。

 近著「変える」(河出書房新社)で奥田はこう記している。

 〈これまでデモなんてしてこなかった人たちがデモをやったことで、少し新しい発想が生まれたように、これまで選挙に関わったことのない人たちが、参加することこそが大切だろう。


 「我々」のために語るスピーチではなく、自分ではない他者に呼び掛けるように心掛けないといけない。「選挙なんて関わりたいとかフツー思わないよね」という感覚の人には、これまでそう思っていた人が伝えるのがいちばんだと思う。「国民の政治離れ」なんて、上から目線ではなく。「俺もそうだったんだよ。でも今は、言いたいことがある」と対等な目線で語ることが必要だ〉

 奥田は言う。「今回の参院選での動きがシールズにとって集大成と呼べるものではきっとない。ただそれは、去年の夏の国会前も同じだった。もっとこうしたいとか、こうだったらいいのに、とどれだけ思ったことか。ただ少しでも、主体的にやってみようという人が増えればいい。それはデモも、選挙も同じこと」

 結果がどうであれ、8月でシールズは解散する、という。

 近著には、こうある。

 〈もうSEALDsという名前や組織には既にあんまり興味がなくなってきている。「今、何が必要か」。常に考えている姿勢でいれば、その時必要なものが新しくできるはずだ〉

 それは自身の経験からの裏付けでもあった。特定秘密保護法に反対するために13年12月に立ち上げた「SASPL」(サスプル)は、施行の14年12月に解散。そして15年5月3日にシールズを結成した。

 だからこう続ける。

 〈解散したからといっても、絶対に再び「動かないといけない」ことは起きる。それが意外に早かったりするかもしれない。それがどんな形の組織なのか、ということはあまり重要でない。それより、もし社会で大変なことが起きたら、その時に、それぞれのスキルを磨いた個人がアメーバ状のネットワークに広がっていて、そして一気に集まって、何かしようという動き、文化みたいなものができたらいいと思う〉

 終わったなら、また始めよう-。そう言っていつも立ち上がってきたのだった。

情 熱



 ビルの谷間から灼熱の日差しが降り注ぐ。熱気でむせ返る東京・新宿の雑踏に向け、街宣カーの上から奥田が問い掛ける。「俺はこんな高いところから話すような人間ではないんですが、ちょっと聞いてもらいたいんです。国民のことを考えて政治を行ってほしい。税金を生活のために使ってもらいたいですよね。そのためにはみんなで選挙に行く必要があるんです。無視されるようでは悔しいじゃないですか。声を届けるためには選挙に行かなきゃいけないんです」


 これまで動かなかった人が動けば社会は変わる。自身もその1人であり、奥田と視線を交わし合う仲間もまたそうであった。

 野党候補の街宣集会が終わり、プラカードや機材が片付けられていく。人もまばらになって、それでもマイクを握り続けた。雑踏の中に立ち、残された時間をわずかでも最後まで使い切ろうと奥田は道行く人へ問い掛け続けた。

 「考えてみてもらいたい。いま動いていない人が動けば、この社会は変わるかも知れない。そう思ったら諦めきれない。諦めている場合じゃない。いまの政治がどうせ意味ないと言っている場合じゃない。7月10日、選挙に行きましょう。俺も行きます。

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