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時代の正体〈348〉シールズの参院選(上) 「市民の選挙」取り戻す

時代の正体 神奈川新聞  2016年07月04日 02:00

野党候補の街宣でマイクを握る奥田愛基さん=2日、川崎駅東口(画像は一部修整しています)
野党候補の街宣でマイクを握る奥田愛基さん=2日、川崎駅東口(画像は一部修整しています)

 いつになく優しげに語り掛けるようにして話し始めた。2日、JR川崎駅東口。駅前の一帯は街宣カーを見詰める聴衆で埋まり、熱気に包まれていた。野党候補と肩を並べてマイクを握ったのはSEALDs(シールズ)の中心メンバー、奥田愛基(24)=横浜市=だった。

 「(改憲勢力の)3分の2を食い止めるのは厳しいという情報が出ていますよね。評論家気取りの人が『だからは日本は変わらない』とかいろんな言い訳を探しています」。徐々に、舌鋒(ぜっぽう)鋭く続けた。「でも俺はまだそんなことは聞きたくない! いま俺たちが考えることは1議席をどうやって取るのか。それだけです。俺は勝ちたい」

 見詰める群衆から喝采が上がる。「明日も明後日も、毎日毎日選挙区を回るので、がんばっていきましょう」

 奥田はこの2カ月、全国各地の野党候補応援に駆け回っていた。その数およそ30カ所。シールズのメンバーたちもまた、全国津々浦々で講演会や街宣で登壇したり、プラカードを掲げ街を歩いたりしていた。

 野党各候補の選挙対策本部(選対)へ赴いては「選挙をもっと開かれたものに」と訴えて回り、具体的な戦略を書き示した資料を作りプレゼンテーションを重ねていた。

 奥田が直面したのは、想像以上に硬直化した政党政治のありようだった。

 「日本の選挙って20世紀で止まっているんじゃないかって思う。デモを変えるのも大変だったけど、日本の選挙を変えるのはものすごく大変なこと」

 選対が中心となって候補者の支持組織へ票を割り振り、投票を要請する。A企業はX候補に、B団体はY候補に、と投票を求め、積み上げた情勢を分析しながら闘う。過去の獲得票数や投票総数から、支持組織にどの程度の動員力があるのかは計算済みというわけだ。

 「こうなるともう街宣に何人集まろうが、何を話そうが大した問題ではない」。組織や名簿を作る段階で勝敗が決していると言ってもいい。

 突き付けられるのは、そうした選挙を繰り返してきたからこそ出来上がった、市民の感覚と乖離(かいり)した政治であり、国民との約束をたやすく反故(ほご)にする為政者であり、それゆえに政治へ関心が向かない社会の悲惨であった。

 投票率の下落傾向に歯止めがかからず、2014年12月の衆院選では52・66%(小選挙区)と戦後最低の投票率となった。もはや民主政治が健全に営まれているかどうかさえ怪しいというのがこの国の惨状だ。

 「だから自分たちでつくる選挙、市民による選挙が必要になる。市民が動けば政治は変わる。野党もそこを見誤れば存在価値を失ってしまうだろう」

無 限


 盛り上がる満場を前に、奥田はこう言い放った。「来てしまいました」

 横浜文化体育館(横浜市中区)で6月10日に行われた共産党演説会。奥田はネット上にあふれるであろうヤジをよそに壇上に立っていた。

 「困難な時代だから、もうやめようとか、こんなこと言っても何になるんだろうと思うことはたくさんある。でもたくさんの絶望の中に、無限の希望もまだ残っている」

 絶望を冷静に見据え、だからこそ見いだす希望だった。「僕はバブルが崩壊し、もう日本はだめだというときに生まれました。2011年に東日本大震災が起きて、原発が爆発し、もう日本はだめだと思った人がたくさんいた。特定秘密保護法が成立する時、あるニュースキャスターが『民主主義が今日終わった』と言った。何度も終わったと言われながら、いまも続いている」

 静まり返った会場を見渡し、続けた。

 「何か(憲法は)ぼろぼろのように見えるけど、もう一度見詰め直したい。言いたいのは二つ。参院選の争点は、人々のための政治をしてほしいということ。もう一つは改憲と護憲の闘い。だけど、それだけじゃなんかやっぱり足りない。つまり憲法ってそもそも何なんだということ。誰のために政治はありますか。何のために憲法はありますか、ということをずっと言っていきましょう」

 この1年余り言い続けてきたことは、共産党に向けたこの時も揺らぐことはなかった。語気を強めこう締めくくった。

 「しなやかに団結していきましょう。これまでにない人とどんどんつながって新しい力を生み出していきましょう。そしたらこれまでなかったことが、必ず起きるはずです」

 昨夏、国会前を数万人のデモ参加者が埋め尽くした光景が眼裏によみがえっていた。

ツ ケ


 奥田はいま現実的な危機感をもって全国を駆け回っていた。参院選公示から1週間後の6月29日、法政大(東京都千代田区)で行われたトークイベント「王様は、裸だ」。若手学者や安保法に詳しい弁護士と肩を並べ、マイクに向かっていた。

 イギリスが、国民投票でEU(欧州連合)からの離脱を決めた際、事前にデマが飛び交っていたことや、20~30代の投票率が低かったことなどを引いて、こう言った。

 「国民投票ってめっちゃ民主主義の仕組みだと思っていた。原発も国民投票で決めればいいと思っていた。だけどそれも『ウソをついていい』ということになると、むちゃくちゃなことになってしまう」

 公約をないがしろにし、「新しい判断」と言い切って消費増税を再延期し、国民との約束違反を反省しない安倍晋三首相。安保法制についても、他でもない自民党が積み上げてきた論理を根底から覆し、集団的自衛権の行使を「合憲」だと押し通す不可解。数々の欺瞞(ぎまん)に満ちた政権の姿を見てきた。

 「僕が怖いのは、改憲を問う国民投票のルールに、公職選挙法のような罰則がないという点。つまりテレビCMをどれだけやろうが、街頭で何をやろうが、どんだけお金をかけようが、どんな投票の仕方をしようが、法律上の罰則がない」

 為政者はだからなのか、憲法改正について「私の在任中に成し遂げたいと考えている」と公言する。だが、選挙中に具体的な中身を語ろとはしない。

 この国の政治をのぞき込み、見えた奈落。奥田は言う。「先細っていく社会の中で『やーめた』となってしまうと、もっとひどいことになる。やらずに後悔するなら、やって後悔する方がいい。正直つらい。でもこれは今までサボってきたツケだ。やらなきゃって思っている」

 午後9時に終えた3時間に及ぶトークイベント。翌日午前8時に三重県内で行われる野党候補の街宣に駆け付けるため、奥田は夜行バスに乗り込んだ。

=敬称略


 参院選後の解散を表明しているシールズ。結成から1年余りを経て、

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