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【記者の視点】報道部デスク・石橋学
時代の正体〈346〉政治家のレイシズム(上) 規範なき荒涼照らす

時代の正体 神奈川新聞  2016年07月02日 13:19

在日コリアンへのヘイトスピーチ(差別扇動表現)
在日コリアンへのヘイトスピーチ(差別扇動表現)

 人種・民族差別問題に取り組む市民団体「反レイシズム情報センター」(ARIC)は政治家のヘイトスピーチをデータベース化し、インターネット上で公開した。路上のヘイトデモの背後にある公人による差別扇動に目を凝らし、警鐘を鳴らすものだ。歴代首相から現職閣僚、地方議員ら約90人、620件を超える発言は規範なき政治の荒涼を照らし、許容し続ける社会のありようを問い掛ける。

 ARIC代表で在日コリアン3世の梁(リャン)英聖(ヨンソン)さん(33)は、その文章を正視できなかったという。「史上最悪のヘイトスピーチ。ここまでひどいものが出てくるようになったかと言葉を失った」

 筆者は福岡県行橋市の小坪慎也市議(37)。熊本地震2日後の4月16日、産経デジタルが運営するオピニオンサイト「iRONNA」に掲載された寄稿文はこう書きだす。

 〈まず結論から述べるが、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが飛び交うことに対しては仕方がないという立場である〉

 震災直後から「熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだぞ」といったデマがツイッター上で拡散されていた。小坪氏は「デマの容認・助長は行っていない。発災直後という不安な状況下では、デマが蔓延(まんえん)しやすい状況であると触れている。その上でデマは許せないと主張したコラムだ」と説明する。批判されたことに対して福岡県弁護士会に人権救済の申し立てを行い、地元の司法記者クラブで会見も行ったという。

 梁さんの受け止めは違う。「小坪氏は『仕方がない』と擁護している。政治家はこうしたデマをただちに否定、批判しなければならないのに、だ。しないことが容認のメッセージとなり、レイシズム(人種・民族差別)をあおることになるからだ」。データベースに迷わず登録した。

 より根深い問題は文章から読み取れるメッセージにある、と梁さんは考える。「井戸に毒-」はただのデマではないからだ。

 1923年の関東大震災直後、自警団を組織して朝鮮人や中国人の虐殺に走った人々が信じたのが、「朝鮮人が井戸に毒を投げ入れた」「暴動を起こしている」というデマだった。非常時に生き延びるため必要な井戸というインフラを朝鮮人が破壊したというメッセージが人々を凶行へと駆り立てた。「それは生き延びるには朝鮮人を殺さねばならないというメッセージにつながっている。同じ人間を生きるべき人間と死ぬべき人間に峻別(しゅんべつ)するという、レイシズムの本質がここにある」

 6700文字を超える小坪氏の文章には、自身が震災対応に奔走していることに触れ、〈その時に『朝鮮人が井戸に毒を!』というデマ。ふざけるなと言いたい。こっちは仕事をしているんだ〉と記した一節もあるが、レイシズムを正面から否定し、拡散を防ごうとする姿勢は伝わってこない。

 そして、その筆はデマに込められたメッセージをなぞるように文字化していく。

教 訓



 梁さんが強調するのは、関東大震災での朝鮮人虐殺は単にパニックが引き起こした悲劇ではないということだ。植民地支配により朝鮮人を抑圧しているがゆえの報復への恐怖が背景にあったことに加え、「デマは軍隊・警察によって流布されたことで強い扇動効果を持った。国や政治がレイシズムをあおったとき、差別は人を殺す。デマによるヘイトスピーチが虐殺に結びついたメカニズムに目を向け、公のレイシズムがいかに恐ろしいかを示す具体的事例として捉えるべきだ」。

 小坪氏はしかし、歴史の教訓に言及することなく、書き進める。

 〈私は、被災時において外の人を恐れるのは仕方ないし、当然のことだと受け入れている。極限状況になればそうなることが自然だと考えるためだ。疑われるのは「外の人」である。もっとも身近な外の人が朝鮮人というだけだろう。そのことに目くじらを立てても仕方ない。良いとか悪い以前に、仕方がないというスタンスである〉

 〈外の人が疑われる理由だが、長年その地で生きて行くわけではないためだ。極限状況下においては暴発リスクが高いと推定されるからだろう。やぶれかぶれになって何をするかわからない。これは朝鮮人が、ではなく。引っ越してきたばかりの人、相互に深くは知らない人物という意味である。不安も募る被災時には、その傾向は強まるのだろう〉

 〈例えば食料がギリギリであった場合、皆で少しずつ分け合ったとしよう。いよいよ足りなくなった際、やはり地域になじんでいなかった者が暴発する危険性は否定できない。これで共助という支えが破壊された場合、公助まで辿(たど)り着けない。外の人を恐れることは、自然なことでもあり、共助を守る上では必要なものだと考えている。誉(ほ)められはしないけれども〉

 大災害時には、ただちに国や行政の公的援助ですべてを賄えないのだから、当面は自分の身は自分で守らなければならないと説き、「外の人」を恐れるのは当然で、偏見のまなざしを非難しても仕方がなく、危険視することは必要だと言う。そして、やはり関東大震災の惨劇に重なる自警団を奨励するに致る。

 〈治安に不安がある場合は、自警団も組むべきだろう。やるべきだと考える。それが共助を守るために必要で、公助に辿り着く手段であればなすべきことだと考える。一人でも生き残って欲しいからだ。しかし、疑心暗鬼から罪なき者を処断する・リンチしてしまうリスクも存在する。そうはなって欲しくないが、災害発生時の極限状況ゆえ、どう転ぶかはわからない〉

 梁さんは言う。「つまり非常時には、きれい事を言っていないで、生きるべき人間と死ぬべき人間を分けろと言っている。関東大震災の教訓を無視している点では歴史否定(歴史修正主義)の言説でもある」

 差別は受けた人を壊すにとどまらず、する側の人倫を壊し、社会を壊す。梁さんは「災害や戦争といった非常時に国や政治は差別を用いて生きるべき人間と死ぬべき人間を分ける。小坪氏の文章が発するメッセージの危険性はどれだけ認識されているだろうか」と問い掛ける。

 歴史を顧みれば、93年前に虐殺された「外の人」には社会主義者や自由主義者など日本人も含まれた。国による実態調査はなされず、社会として反省する機会はなかった。結果、植民地支配を正当化するためにつくりだされたアジア人への蔑視は温存され、その後の朝鮮半島におけるより以上の搾取を可能にし、大陸での侵略戦争への道を開いた。異論を唱える者への迫害もまた、全体主義という破滅へと社会を導いた。

拡 大



 梁さんは、都知事時代の石原慎太郎氏による「三国人」発言を忘れない。2000年4月、陸上自衛隊を前に「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している」「大災害が起きたときには大きな騒擾(そうじょう)事件すら想定される」「災害救急だけでなく、治安の維持も大きな目的として遂行してほしい」と説いた。旧植民地出身者の蔑称と偏見を用い、外国人への敵意と憎悪をあおるヘイトスピーチだった。

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