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【記者の視点】報道部デスク・石橋学
時代の正体〈333〉デモ中止(上) 尊厳守った「世論」

時代の正体 神奈川新聞  2016年06月14日 09:30

日の丸を掲げるデモ参加者を取り囲むように対峙する県警の機動隊=5日、川崎市中原区
日の丸を掲げるデモ参加者を取り囲むように対峙する県警の機動隊=5日、川崎市中原区

 在日コリアンへのヘイトスピーチ(差別扇動表現)を繰り返す男性が主催したデモが5日、中止になった。行く手を阻んだのは差別に反対しようと集まった人たち。ヘイトスピーチ解消法施行2日後のデモの現場で示された良識という名の「市民の力」、その意味を見詰め、差別の根絶に向けた道筋を考える。

 午前11時、デモの集合場所である中原平和公園(川崎市中原区)の周辺は抗議に集まった人たちであふれ返っていた。デモ参加者十数人に対し千人規模。

 景色は一変していた。

 沿道に「ヘイトデモ中止」「帰れ」の連呼が響く。デモ隊の前に立ちふさがる人たちを排除しようとする者はもういない。抗議のカウンター市民をトラブルの要因とみなし、ヘイトデモの列から遠ざけようとしてきた機動隊は百八十度向きを変え、デモ参加者を取り囲むようにして対峙(たいじ)していた。

 人波をかき分けるようにして趙(チョウ)良葉(ヤンヨプ)さん(79)が横断歩道を渡ってくるのが見えた。痛む足を押し、つえを突きながら抗議に加わろうとしている。その姿が刻みつけられた心の傷の消しがたさを思わせ、胸を突く。

 「どうしていまさら差別されなきゃいけないの」。在日1世として辛酸をなめ尽くした人生。ひ孫もでき、ようやく安寧な老いを手にした川崎市川崎区桜本にヘイトデモが迫ったのは昨年11月とことし1月のことだった。同じ主催者、津崎尚道氏により「川崎発!日本浄化デモ第三弾!」が予告されていると知ったとき、趙さんは「蛇の生殺しのよう。また死ね、殺せと言われるくらいなら、自分で命を絶ってしまいたい」と唇を震わせた。

 告知されただけで心をかき乱すヘイトスピーチの害悪。「何を言っているのか確かめずにはいられなかった」。知らないところで死ね、殺せと言われることの恐怖の耐えがたさ。被害当事者が繰り返してきた「いつでもどこでも差別は許されない」の意味がやむにやまれぬ趙さんの行動に重なり、やはり当事者が訴えてきた言葉が思いだされた。「人権侵害は未然に防がなければ意味がない」

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