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本当の動機9条改正
時代の正体〈330〉憲法学者・石川健治さん特別講座④ 緊急事態条項

時代の正体 神奈川新聞  2016年06月10日 11:38

東京大学本郷キャンパス
東京大学本郷キャンパス

 安倍晋三首相や自民党による緊急事態条項新設の提起に対し、憲法学者の石川健治さん(54)は懐疑的だ。「目的を突き詰めていくと動機があぶり出される」。その動機とは何か-。

 -これまで自然災害について話を伺いましたが、自民党の改憲草案は「外部からの武力攻撃」や「内乱等による社会秩序の混乱」も緊急事態だと記しています。これらの「非常事態」にはどう対処したらいいのでしょうか。

 おさらいの意味で言葉の整理をしておきましょう。緊急権というのは本来、既存の法にはない行為を、「緊急の必要」を理由に「例外」的に正当化できるか、という問題。仮に内閣が緊急権を主張しているとしても、これを判断する主体は、裁判所のような第三者的な機関であるべきだ、というのが本来の筋。そもそも国家には緊急権の主張を認めるべきでない、という徹底した考え方もある。

 これに対して、緊急事態条項(法制)は、そうした超法規的な緊急権論の出番を封じ込めるために、この「例外」をノーマル化することです。しかし、そこに定められた「例外」のそのまた「例外」を正当化するために、新たな緊急権論を呼び込んでしまう危険がある。また、緊急命令(勅令)のように、「緊急の必要」に対する第三者の審査を外す目的で、緊急事態条項を置くことが多いのも問題です。

 この点、現行憲法が置いた緊急事態条項は、参議院の緊急集会であったというわけです。また、自然災害については、法律レベルで、緊急事態法制がすでに整備されてきました。ここまでが、前回までの内容です。

 -「緊急事態」は自然災害だけではないのですよね。

 緊急事態の典型は、自然災害ではなく、「戦争」です。外国が攻めてくるという事態は、「例外」的でまさに「非常」事態というにふさわしい。さらに、戦争には「内戦」もあります。そこで、「外的な緊急事態」と区別された、「内的な緊急事態」を想定する必要があります。改憲草案でいう「内乱等」には、大規模なテロリズムも含まれているでしょう。

 そこで、今回は、「自然災害」に加えて、「外的な緊急事態」と「内的な緊急事態」をとりあげます。一口に緊急事態といっても、それら3つの類型を区別して、論じなくてはなりません。


憲法学者の石川健治さん
憲法学者の石川健治さん

  -まず「外的な緊急事態」についてお話いただけますか。

 よく比較される戦後西ドイツでは、緊急事態への対処を名目に英仏米3カ国の駐留を認めるドイツ条約を改正するために、憲法に緊急事態条項を新設する途を選びました。これとは対照的に、日米安保条約で米軍の駐留を継続する選択をした日本の場合には、独自に憲法で緊急事態条項をおく意味がありません。

 それどころか、「外的な緊急事態」への抑止力として「日米同盟」路線を強化する途を、昨年の安保法制で選んでしまった以上、ますます自前の緊急事態条項の必要性はなくなったはずです。逆に、そんなに必要だと主張するなら、沖縄の基地問題を解消する覚悟はできているのでしょうか。

 -在日米軍基地も絡んでくる問題、と。

 図式的にいえば、沖縄の基地問題を解消して初めて、憲法に緊急事態条項を新設する必要が生ずる、という関係にあるのです。それなのに、安保法制をゴリ押しして「日米同盟」を強化し、基地問題の解消を先延ばしにする一方で、緊急事態条項の新設を求める。そこに安倍政権の大いなる矛盾があります。

手段



 -矛盾していますね。「内的な緊急事態」はどうですか。

 内的な緊急事態については、すでに自衛隊法の定めがあります。「一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合」に、内閣総理大臣は自衛隊の出動を命じることができます。広い意味では警察作用の一環である自衛隊の治安出動です。足りないというのであれば、あとは本格的に、戦後憲法が廃止した戒厳の問題に踏み込むほかない。緊急事態条項の新設に意味があるとしたら、ここです。

 -戒厳、ですか。

 秩序を回復するため、一時的に既存の法を停止し、軍隊に司令する立場の者に権力を集中させるのが戒厳です。定義上、警察ではなく、軍隊による治安の維持のことですから、9条を改正して自衛隊を軍隊にしない限り、戒厳の問題を論ずるわけにはいかない。問題は結局、9条論に帰着します。


東京大学本郷キャンパスの赤門
東京大学本郷キャンパスの赤門

  -緊急事態条項の話は、9条改正論に結び付いていると?

 法律レベルでは「内的な緊急事態」に対処すべく、自衛隊を治安出動させるところまでは議論を積み重ねてきています。それにもかかわらず、既存法制の上乗せではなく、憲法改正にこだわるのはなぜか。そこは非常にだまされやすく、注意して見張っていないといけない。

 これまで述べてきたように、「自然災害」「内的緊急事態」「外的緊急事態」のいずれについても、憲法改正を行う理由が見当たりません。しかし、自衛隊を軍隊にする野望に先行する作業としてならば、軍隊を内閣総理大臣が法律を待たずに動かすための緊急事態条項を、憲法であらかじめ用意しておくことには意味が出てきます。緊急事態条項の新設は、9条改正のための露払いなのでしょう。

動機


 
 -やはり、改憲の目的は9条にあるのですね。

 ここまでお話してきたのは、緊急事態条項を必要とする目的はいろいろに掲げられているものの、それに伴う手段としての憲法改正は「目的に全然見合っていない」ということです。そうなると、動機が怪しい。

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