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旬漢〈18〉
「分かった」という危険 赤堀雅秋

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神奈川新聞  2004年06月06日公開  

最新作「葛城事件」について語る赤堀雅秋監督
最新作「葛城事件」について語る赤堀雅秋監督

 握るサバイバルナイフが、すれ違う女の、老人の腹を次々と切り裂いていく。

 スクリーンの中で起きた惨劇。だが、映画が終われば、私たちは銀幕の中で無差別殺人が起きた場所に似た雑踏に紛れていく。向かった駅で、地下街で、ショッピングセンターで。物語として目にしていた光景が自分の目の前では起こらない・・・なんて、誰にも言い切ることはできない。エンドロールを目で追いながら、言いようのない不安に襲われた。

 初めてメガホンを取った「その夜の侍」(2012年)で、妻をひき逃げされた男の復讐(ふくしゅう)劇を描いた赤堀雅秋(44)が、最新作「葛城事件」で取り上げたのは「家族」と「死刑制度」。自分の価値観を押しつける父の元、殺人を犯し死刑囚となった、葛城稔(若葉竜也)とその家族。そして死刑制度反対を訴え、獄中結婚をした女(田中麗奈)。それぞれが抱える「なぜ」をひもといていく。


 映画「葛城事件」は、赤堀自らが脚本を書き下ろした舞台(13年)がベース。舞台では、付属池田小事件(01年)を元に、稔の暴力性を前面に出したが、先天的だった稔の狂気を、映画では後天的なものに変更した。そして、物語の中心には、ベテラン俳優の三浦友和を据え、小さなほころびの積み重ねが、家族を壊していく様子を追いかけた。

 親が始めた金物屋を継いだ葛城清(三浦)は、美しい妻・伸子(南果歩)、長男・保(新井浩文)、次男・稔(若葉)に囲まれ、幸せな日々を送っていた。しかし胸には、「望んで金物屋になったわけじゃない」という本音を隠していた。自分が求めていた理想をいつしか家族に押しつけていく。その重圧にこらえられず、自分を見失っていく妻と子どもたち。印象的なのは、食の描写だ。それぞれがコンビニエンスストアで購入したできあい弁当を食べるシーンが多く、家族を感じさせない。

 「『死刑を廃止しよう』とか、『孤食が犯罪者を生み出す要因になりますよ』と言いたくて、映画を作ったんじゃないんです。孤食にならないよう、家族で食卓につきましょうと言って、ついたところで目標が達成され思考停止になる可能性もあります。一緒にご飯を食べていれば安心じゃなくて、そこで息子の寝ぼけ顔を見て『何だお前、汚ねえ顔してるな』とか一歩踏み込んだコミュニケーションをすることが大事だと思います。この映画なら、父親が『金物屋なんて継ぎたくなかった』と息子たちに打ち明けることができていたなら、孤立することはなかったかもしれません」

 「でもね」と続ける。

 「両親と食事をしようと久々に顔を合わせたとき、会話に困ったことが自分自身、ありました」と打ち明ける。殺人、死刑制度と針は振り切っていても「それは日常から続くもの。対岸の火事じゃない」と訴える。


 事件が起きたとき、私たちはその理由を探る。一人親、孤食、貧しさ…など、問題を起こした人間の共通項をあぶり出し、当てはめ、自分はそうではないと安心させる。

 こちらの心情を見透かしたように次男・稔は言う。

 「30(歳)手前で(何者にもなっていない自分に)焦って暴れた。そういう風に(ステレオタイプに)分類をすれば、おまえたちも安心だろ」
 
 歯車が狂ったら。自分がナイフを握る当事者にならないとは限らない。

 「ものを作る行為において、『分かった』という気になるのは、とても危険だと思います。僕自身、登場人物たちの気持ちの奥底は分かりません。『分かりたい』という強い思いが制作に向かう力になります。賢い振りをしないで、勇気を持って『分からない』と自覚することがスタート。夫婦でも親子でも恋人でも、本当は分からないことだらけですよね」。
    ◇◇◇
 約3週間をかけた撮影。オーディションで稔役に抜てきした若葉とは、稔を一緒に作り上げていった。「目線、座り方、ものの食べ方。その一つ一つで、伝わり方が違います。撮影は、僕自身も苦しいと感じていたし、若葉君もそう感じていたよう。クランクアップの時に、解脱したような表情をしていたことが忘れられません。若葉君がインタビューで、『記憶がない』と応えていたのを聞いて、『あぁ、そうか』と合点がいって。暴力的な映画とカテゴライズされるのかもしれません。でもものを作る以上は、絶望の中にも希望を感じてほしいという思いがあります。『あぁ、面白かった』とはならないかもしれない。でもその自分の中に生まれた感情を流さず向き合って、自問自答してほしい」と思いを込めた。

あかほり・まさあき 1971年8月3日、千葉県生まれ。劇作家、脚本家、演出家、俳優。96年に仲間と劇団「ザ・シャンプーハット」を旗揚げし、以降、全ての作・演出を担当。初監督作品「その夜の侍」は、ヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞に輝いた。新作「葛城事件」は18日から全国公開。




映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会
映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会

映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会
映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会

映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会
映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会

映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会
映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会

映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会
映画「葛城事件」の1シーン。(C)2016「葛城事件」製作委員会

映画「葛城事件」。(C)2016「葛城事件」製作委員会
映画「葛城事件」。(C)2016「葛城事件」製作委員会

映画「葛城事件」。(C)2016「葛城事件」製作委員会
映画「葛城事件」。(C)2016「葛城事件」製作委員会

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