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【K-Person】阪本順治さん
スリル感じる 喜劇役者との喜劇

K-Person 神奈川新聞  2016年05月22日 11:42

阪本順治監督
阪本順治監督

阪本順治さん

 各映画賞を独占したオリジナル脚本の「顔」以来、16年ぶりに舞台女優の藤山直美とタッグを組んだ。

 「『顔』の時もオファーから撮影まで3年半かかった。全部やり尽くそうと思ってやった。最初で最後の覚悟で。でも今回、奇跡的に藤山さんのスケジュールがぽっと空いた。何かせねば、と思ったんです」

 数日で物語の筋を考え、1週間ほどで脚本を書き上げた。ボクシング映画、異色の犯罪もの、社会派サスペンス、人情ドラマなど多彩なジャンルに挑み続ける監督が、新作「団地」で臨んだのはコメディーだった。


映画「団地」の1シーン (C) 2016「団地」製作委員会
映画「団地」の1シーン (C) 2016「団地」製作委員会

 相手は希代のコメディエンヌ。「一番スリルを感じるのは喜劇役者と喜劇をやることです。スリルがないと作っても面白くないですから」

 高度経済成長期に人々の暮らしを支え、今は高齢化や孤独死といった問題に焦点が当てられる。「光と影」「多くの人の一生」を団地は抱える。そんな“小宇宙”を舞台に選んだ。

 ある団地に越してきた夫婦(岸部一徳、藤山)と二人を取り巻く団地住民との掛け合いが、独特の間の会話で展開していく。

 主演の藤山の脇を固めるのは、岸部、大楠道代、石橋蓮司といった阪本組の常連俳優だ。「大好きな俳優さんで、最も安心できる人たち」。脚本はそれぞれの役者を想定してアテ書きした。

 「シチュエーションや物語性で笑わせるのではないと思う。おかしみを演じてもらうのではなく、おかしな俳優さんに出てもらえばいい」。喜劇について、そう持論を語る。

 それぞれの人生が交わる先に、監督自身が言う「奇天烈(きてれつ)」な結末が待ち受ける。「人は死んだらどこに行くのだろうと、子どものころからずっと考えていて。それを僕なりの喜劇、救いの中でやってみたいと。そうしたらああいう展開まで上り詰めちゃったんですけどね」と笑った。

 星新一や筒井康隆らの空想小説の影響もにじんでいると言う。「子どもって空想と妄想で遊びますよね。それを60歳前になって、こういう俳優さんと奇天烈なものを『幼い』と言われるぐらい自由にやらせてもらった感じです」

お気に入り


 「大阪人だから、何か笑わせるもん出さないとあかんな」とつぶやきながら、かばんの中をガサゴソと探り始める監督。「いや、無理には…」と記者。取り出したのは小さな裁縫セットだ。「かばん重いんですが、のりにミニドライバー、ハサミにつまようじ、ばんそうこう、傘は365日持ち歩いてます」。何かあったときのために、だそうだ。「いつでも家出できるでしょ」。監督によると、20年以上の付き合いがあり、ドキュメンタリー映画も撮ったプロボクサーの辰吉丈一郎さんも裁縫セットを持ち歩いている、とのこと。

さかもと・じゅんじ
映画監督。1958年、大阪府生まれ。横浜国大在学中から井筒和幸監督らの現場スタッフに。89年、「どついたるねん」で監督デビューし、同年の各映画賞を総なめにした。藤山直美を主演に迎えた2000年の「顔」も各映画賞を独占した。そのほかの代表作に「KT」「亡国のイージス」「魂萌え!」「闇の子供たち」「座頭市 THE LAST」「大鹿村騒動記」「北のカナリアたち」「ジョーのあした-辰吉丈一郎との20年-」など。新作「団地」は6月4日から全国公開。


記者の一言
 阪本監督にインタビューするのは2007年の「魂萌え!」公開時以来、2度目だ。名刺を出すと開口一番、「神奈川新聞には(横浜国大の)学生時代、新聞会の印刷でよく行った」と懐かしげに話した。

 監督の大阪弁を聞いていると、今回の「団地」の中のオフビートな会話劇と自然に重なってくる。「大阪で育って、小さいころから吉本なんかの新喜劇見てきた人間は、どうしたってその性(さが)から逃げ切れないんですよ。うちのおかんがもう喜劇ですから」。低く渋い声。質問に生真面目に答える中に、さりげなく笑いのスパイスを忍ばせる。





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