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点検・マイナス金利(下)広がる期待と疑問

経済 神奈川新聞  2016年05月21日 11:45

過去最低水準の住宅ローン低金利に加え、マイナス金利政策が住宅・不動産業界にとって追い風となるか=横浜市内の住宅展示場
過去最低水準の住宅ローン低金利に加え、マイナス金利政策が住宅・不動産業界にとって追い風となるか=横浜市内の住宅展示場

 「まさか、ここまでとは」-。

 フランスの自動車大手プジョーのクルマを販売するプジョー・シトロエン・ジャポン(東京都)の神奈川担当・飯田靖さんは3月に藤沢市の店舗を訪れ、目を丸くした。2月16日のマイナス金利導入の直後から始めた「ゼロ%金利キャンペーン」に客が押し寄せていた。カーローンの金利をなくす内容で「効果を体感した」(飯田さん)。

 活況は数字にも表れた。3月の全国販売台数は8年ぶりに1千台を超え、ローン利用率(シトロエンなど含む)は平時の30%台から51%に急伸した。ゼロ金利プランの利用者は92%。松本広之営業部長は「拡販に大きな成果を得た。ファンを増やした意味でも大きかった」と話す。キャンペーンは同社が営業費用として金利を負担し、収益面では課題もあるが「金利の動向が想定以上に消費を喚起したのは間違いない」と確信しているという。

 一方、国産メーカーのある県内ディーラーはキャンペーンを実施しない。担当者は「一時的には売り上げ増につながるかもしれないが、金利負担を続けられない。いったん始めると止め時が難しい」。マイナス金利導入が個人消費を呼び込むとの見方もあるが、担当者は冷静な受け止めだ。「売り上げ増につながってほしいが、現時点ではどこまで効果があるか判断できない」

増えぬ新規ローン


 マイナス金利の消費者にとってのメリットとして真っ先に上がる、ローン金利の低下。県内金融機関の大半はマイナス金利導入後、住宅ローンの店頭表示金利や、契約の際にさらに差し引く優遇金利を下げた。たとえば、横浜銀行では固定期間10年のローンの最優遇金利を、1・0%から0・725%に変更した。

 だがある信金は、金融機関はローン金利を「マイナス金利導入前から低く抑えていた」と明かす。もともと低い水準での金利競争が激しかったのだ。別の信金も振り返る。「うちは(マイナス金利以前に)優遇幅が他行に比べて少なく、住宅ローンは余り伸びなかった」。この信金は4月からは優遇幅を0・2%広げた。「そうしないと他行に負ける」。従来あった顧客からの金利の引き下げ要請は、マイナス金利を受けてさらに増え、下げざるを得なかったという。

 一方、金利低下でローン需要は増えたのか。県内のほとんどの各金融機関は「借り換えが増えた」と口をそろえる。マイナス金利で期待されるのは新規のローンの増加だが、県内金融機関ではこれまでに、新規が増える動きは見られない。ある担当者は「マイナス金利だから、すぐに家を買おうとするものではない」と冷静に話す。

住宅業「追い風に」



 それでもマイナス金利を機に、住宅購入に関心を持つ層は生まれている。県内最大規模の住宅展示場「tvkハウジングプラザ横浜」(横浜市西区)のモデルルームには5月の大型連休中、若い夫婦や親子連れが続々と訪れた。

 「マイナス金利導入が購買意欲を強めた」と話すのは、マンションから一戸建てにステップアップを検討する男性会社員(45)=横浜市緑区。子どもの小学校入学を再来年に控え、「今が売却や購入に最適のタイミング」と話す。家族4人で見学していた相模原市の男性公務員(35)も「自分の年齢に加え、低金利も前向きに考える要素になった」。近々に住宅メーカーを決めたいという。

 同施設のモデルルームへの入場者数は前年同期比で微増傾向で、住宅メーカー各社は建物の性能や特徴を前面に売り込み攻勢をかけている。同プラザの担当者は「今年はメーカーにとって勝負の年。消費税増税の行方が気がかりだが、再増税前の駆け込み需要に加えマイナス金利を追い風にできる絶好の機会」と話す。

同業でも評価二分


 同施設内に企画型注文住宅「パワーホーム」を出展するすてきナイスグループ(横浜市鶴見区)。耐震性や断熱性の高さが特徴で、15年度は前年度比6割増の733戸を販売した。マイナス金利導入の発表後、中古住宅やマンションを含め、見学者は1~2割増えたという。

 同社の日暮清社長は13日の決算会見で、17年3月期の連結業績を増収増益と見込む背景に低金利の要素を挙げた。「住宅金利の低下が(購入の)一番の動機」。4月の販売戸数は一戸建て、マンションとも前年同月の2倍近くに上り「今期は前期以上に販売が進むのでは」と期待を込める。

 一方、「新規顧客に関しての効果は限定的」と懐疑的な企業もある。不動産会社リスト(横浜市中区)では、マイナス金利後の問い合わせや成約件数に目立った動きはないという。

 もともと最低水準に下がっていた住宅ローン金利。さらに下がっても効果は限定的とみる。「不動産価格全般が高騰し、景気の足取りも重い。金利の先行き不透明感が強い現状では、期待したほどのプラス作用は現れない」と指摘する。


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