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がん最前線 医療リテラシー(上) 効能表示に落とし穴

社会 神奈川新聞  2016年05月20日 11:04

県警が摘発した業者から押収した健康食品のプロポリス(県警提供)
県警が摘発した業者から押収した健康食品のプロポリス(県警提供)

 「父にはもっと長く生きてもらいたいと思った。その気持ちにつけ込むなんて許せない」。抗がん作用をうたった液体の健康食品「プロポリス」を購入した佐竹みずきさん=仮名、東京都渋谷区=は、捜査員を前に悔しさをにじませたという。

 県警生活経済課と南署は今年2月、医薬品医療機器法違反(無許可医薬品販売など)の疑いで、東京都世田谷区の健康食品販売会社「シャルウィ」を摘発した。末期の肺がんに侵されている父親を救おうと、佐竹さんは同社が販売するプロポリスを購入したのだが、表示されていた抗がん作用は医学的根拠がなく、違法だった。

わらにも


 県警によると、父親のがんは標準治療では、はかばかしい効果が得られなくなり、佐竹さんはインターネットで別の治療法を調べた。真偽不明の「プロポロリスはがんに効く」という情報に触れ、販売業者を検索して同社のホームページにたどり着いた。

 価格は容量や熟成期間によって異なるが、6千円~11万円といずれも高額。「何とかして助けてあげたい」という一心で昨年6月に3万8千円の商品を購入した。飲み終わると次は最も価格が高い商品を取り寄せた。目立った効果はなく、父親は昨年10月に息を引き取った。

 県警が動いたのは、その直前だった。捜査への協力を佐竹さんに求めた時点で、父親はすでに話せる状態ではなかった。事情聴取に応じた佐竹さんは捜査員の説明で初めてだまされていたことを知り、「もともとプロポリスは健康維持のために良いと聞いていて、がんに効果があることも知った。わらにもすがる気持ちだった。高額で購入するのにためらいはあったけど、構わないと思った」と経緯を話した。

 患者家族の切実な思いは、犯罪行為によって裏切られた。県警の取り調べに対し、女性経営者は「違法と分かっていたけど、売れると思ってやった」と動機を話したという。

 同社の設立は2000年4月。1年ほどはプロポリスを製造会社から仕入れて効能をうたわずに販売したが、業績は鳴かず飛ばず。女性経営者は親族にも購入を求めるほど営業に切羽詰まっていて、売り上げを上向かせようと違法表示を始めた。ホームページに掲載していた「毎日飲むようにして、半年後にしこりが小さくなった」という体験談も捏造(ねつぞう)だった。

 県警が把握している限りで設立から昨年9月までの約15年間で、延べ約2600人に対して約2900個を販売。売り上げは7千万円、利益は4千万円を超えた。同社は1度、摘発を恐れて違法表示を削除したことがあるが、その後は売り上げが落ち込み、再び表示してからは持ち直した。

 女性経営者は「がんの効能をうたうと売れた」とも供述した。

留意事項


 高齢化を背景に、今や日本人の2人に1人の割合でがんにかかる時代となった。がんの効能をうたった健康食品がインターネット上などでも販売されているが、医学的根拠がない違法表示の商品も紛れている。標準治療では手に負えなくなった患者らが被害に遭いやすい。

 業者は、いかにも利用者や第三者の体験談であるかのように見せかけ、うその効果をアピール。販売業者のホームページに効能や成功体験を掲載するだけでなく、ゴーストライターに推奨本を書いてもらって出版するケースもある。患者らは少々疑念を抱いても、病気を治したいという気持ちが上回り、つい購入してしまう。

 県警は14年2月にも、同じように抗がん作用をうたったプロポリスの販売業者を摘発している。捜査員は「がん患者は増えているので、同様の犯罪は今後も起こる可能性はある」と警鐘を鳴らし、「根拠のない表示をうのみにしないでもらいたい。少しでも怪しいと感じたら店に足を運んで直接説明を聞くなどして、慎重に判断してほしい」と注意を呼び掛ける。

 「健康食品を摂取することは悪いことではない。しかし、疾病への効果をうたったものは基本的に信じない方がいい」と話すのは、消費者庁表示対策室の三上伸治室長。同庁は13年12月、健康食品に関する留意事項をまとめた。「法律に抵触する可能性がある表示がどういうものか明確になっていなかったので、事業者や消費者から分かりづらいという声が寄せられていた」といい、違法行為を抑止するために明文化した。

 同庁は、触法の疑いがある商品の表示を五つに大別している。患者が気を付けなければならないのが、「最高級」「日本一」「ベスト」といった最上級を用いたうたい文句。疾病に効果がある成分が表示されている商品についても、必要量に達していなければ効果は表れないため、含有量にも注意を払う必要があるという。

 三上室長は「人によって体質や病状などが違うのに、一律に効果があるようなことを言えるはずがない。それにもかかわらず効果をうたっているのだから、そこには落とし穴があると思った方がいい」と忠告する。

 インターネットの普及などで患者が得られる情報は格段に増したが、判断に迷う場面も増えている。三上室長は「そもそも健康食品は医薬品とは違い、摂取したからといって効果が出るわけではないことを知っておくべきだ。

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