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時代の正体〈309〉シールズの1年(中) 自分の言葉を取り戻す

時代の正体 神奈川新聞  2016年05月08日 09:50

林田光弘さん
林田光弘さん

 この3カ月、全国の約30カ所で講演に招かれ、話をしてきた。SEALDs(シールズ)の創設メンバー、明治学院大大学院生の林田光弘さん(24)=横浜市=は肌で感じている。「少しずつだけど、社会は確実に変わってきた」。それは、この国が失いかけている民主主義を取り戻そうとする過程にも映る。

 小さな町の小さな公民館で地元の人たちと語らううちに分かったのは、人々は政治や社会への危機感だけで集まっているのではないということだった。

 「日常生活が政治に密接に関係していると、多くの人が気付き始めている。ブラックバイトで苦しんでいるとか、仕事が決まったのに子どもを預ける保育園が見つからないとか。そうした日常生活の不条理も政治を変えることで改善させられるというロジックが浸透してきた」

 声高にでも、雄弁にでもなく、暮らしや地域に根ざしたその人の実感をぽつりぽつりと吐き出す姿に思った。

 「人々は失った言葉を取り戻し始めている」

 それが民主主義を取り戻すということだった。

◇ ◇ ◇
 昨年12月、静岡県藤枝市で開かれた「安保関連法と若者」をテーマにした講演会。来場していた地元の男性の言葉が印象に残る。

 「シールズがいなかったら、私は『在特会』に入っていたかもしれない」

 在特会とは、在日コリアンへの排斥と殺害までをあおる人種差別団体「在日特権を許さない市民の会」。林田さんと同世代という男性は高校を卒業後、茶農園で働いていた。講演会後に膝をつき合わせ、酒を酌み交わした。

 「男性は漠然と社会への不満や将来への不安を抱え、だけど『自分には学がないから、うまく言葉にできなかった』という。ある日『インターネットの動画サイトでシールズのスピーチを見て共感した』と言っていました」

 偶然出くわした「思ったことを言っている」同世代の姿に、男性は安全保障関連法案に反対するデモや集会に参加するようになったという。

 林田さんは思う。

 「一歩違っていたら在特会に入っていたという気持ちは、どこか分かる気がする。僕らは政府や社会に対して怒っている。だから怒りは政府に向けるべきであって、在日朝鮮人のせいにするのはまったくの筋違い。でも、自らの言葉を見いだせていないとしたらどうだろうか。どちらの動画を先に見たかという違いで、どのように行動するかが決まってしまうかもしれない」

◇ ◇ ◇
 2011年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故。放射性物質で汚染され、わが家に戻れない人たちがいる。

 福島県飯舘村から避難している男性が、林田さんも参加したシンポジウムで語っていた。

 「5年たった今も帰れない。政府は復興、復興と言い、だが俺たちの生活は何一つ変わっていない。それで東京五輪を開催するという。一体どこに税金を使っているんだ」

 男性はうつむいた。

 「あまりの不条理に直面すると人は言葉を失う。何も言えなくなるんです」

 容易に解決が見いだせない問題の理由を仕方なく自分のせいにしていく。「もっと大変な人がいるんだ」と言われれば返す言葉も失う。林田さんは思う。

 「社会に対してものを言うなというプレッシャーを感じ、もしくはプレッシャーを自分でつくってしまい、言わない自分を正当化していく。果たしてそれでいいのだろうか。おかしいと感じたことを、おかしいと言えない社会は、しんどくないですか」

 言葉を取り戻す。シールズが国会前やデモで続けてきたスピーチも同じだった。

 「大学を卒業したら奨学金という多額の借金を背負うことになり不安だとか、個人的なことも自分の言葉で語ってきた。僕らが反対していた特定秘密保護法も一体どんな被害があるのかと聞かれれば、生活に直結しないかもしれない。けれど一人一人にある人権が損なわれるという不安が僕にはある。『不安なんだ。だからやめろ』と言って何が悪い。僕らが政権への怒りを声に出して行動する姿によって、例えば、静岡の茶畑で働く人が自分の言葉を取り戻していったんだと思う」

 きっと一人では取り戻せない。自信もないし、勇気もない。だから「周りの人たちが『言っていいんだ』『間違っていない』とまた声に出す」。

 そうして林田さんは思い定めるに至った。

 「この過程こそが、民主主義だ」

◇ ◇ ◇
 中高生のころは「一人一人に権利なんか与えたら、秩序が乱れておかしい社会になる。好き勝手に言うのは単なるわがままじゃないか」と考えていた。

 変化は高校3年生のとき。ラグビー部でスタンドオフを務めていた。授業をいかにうまくさぼり、練習にいそしみ、筋トレに励むか。それが優秀な部員の姿だった。強豪の一角として知られる花園出場校だったが、林田さんは3年生の高校総体が終わった7月、退部した。

 「つらいときも苦しいときもみんなで乗り越え、勝利のときには共に喜びを分かち合おう! というのが体育会系の部活。だけど、それがしんどいやつだっている。別に楽しくないときだってある」。ちょうど勉強のおもしろさを知り、また進学の方向性が定まったときでもあった。

 いま社会と重ね合わせ、思う。「『国を愛そう』という言葉を考えるとき、一致団結の部活と同じことが起きているのではないか。日本を良くするためには、政権のやり方を批判することだってある。やり方は一つではないはずだ」

 冷戦後の世界は多様性を一つの価値基準にした社会が出来上がっていった。いま、その揺り戻しが起きていると感じる。

 「抱えている不安を取り除くため、団結して盛り上がりたいという情熱の持ち主たちからすれば、多様性、多様性と繰り返し言われるのは面倒だし、そのこと自体が不安要素に思える。多様性を否定した先に何が待つのかは歴史が物語っている。全体主義に走った国がどうなったか。経済は拡大し、強く大きい国を目指し始める」

 強者の思惑でつくり出された戦禍は拡大の気配をみせる。弱者がより虐げられ、奪われることで成り立つこの世界に大国の一員としてしがみつこうとしている、この国。あらためて問いたい。

 「強い国を誇って生きていくことで、僕らは幸せになれるのでしょうか」

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