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「なめんなよ」憲法学の権威

政治行政 神奈川新聞  2016年05月03日 02:00

 3日は憲法記念日。今夏の参院選で安倍晋三首相が「憲法改正」の争点化を表明するなど、現憲法は施行から69年の時をへて大きな岐路に直面している。こうした機運の中で、憲法学の気鋭の学者たちは口を開く。いわく「なめんなよ」「萎縮しない」。立憲主義や表現の自由の重要性をあらためて強調するとともに、主権者である一人一人に、その心構えを求める。

「猿でいいのか」


 憲法学の権威、東大名誉教授の樋口陽一さん(81)は言う。「なめんなよ」。齢(よわい)八十を超えるが、集会や講演会を巡り、安保法制や憲法改正に反対の声を上げる。自民党が目指す憲法改正への危機感は、それほど強い。
 夏の参院選について樋口さんはこう見通す。「安保法制や憲法改正が争点になるでしょう。政府は6月までに、低年金高齢者に3万円の臨時給付金を出します。争点をあいまいにしようとしています。それでも、与党が選挙に勝てば、憲法改正について国民の信任を得たと言うでしょう」
 
 そして続ける。「私は『朝三暮四』という、中国のことわざを思い出しました。中国のある王が飼っていた猿たちにトチの実を朝に3つ、夕方に4つあげると言ったというお話です。猿たちは『とんでもない』と主張しますが、『朝4つ、夕方3つにしよう』と王が言うと、大喜びします。国民がそんなに甘く見られてよいのでしょうか。給付金や消費税増税先送りで、将来の世代に責任を押しつけてよいのでしょうか。私たちは猿でいいのか、ということを、私は自問したい」
 
 「国民には知る権利がありますが、知る義務もあるのではないでしょうか。自民党の改憲草案の中身など、有権者の投票判断は、まず『知ること』から始まります。少しばかりの知る義務を果たすことをお互いに心掛けましょう」

「小さなゲームを闘え」


 自由にものが言いにくい息苦しさがひたひたと社会を満たす。歴史の積み重ねの中で獲得してきた「表現の自由」について正しく理解し、不用意に萎縮しないことこそが重要と、憲法学者の木村草太さん(35)は訴える。おのおのが手にしている「表現の自由」を自ら行使することでしか、その権利は支えられない。ゆえに問う。「自分が言いたいことを言えていますか」と。

 安倍政権の政策に反対してきた表現者や市民は連敗続きで敗北感が色濃い-。その問いに気鋭の学者はこう返した。「一体、何に負けているのかというのがまず問題です。政権に自分の意見を飲ませられるかどうかは非常に大きなゲームで、もちろん負けることの方が多い。だがそれは市民の側に限らないはず。安倍首相自身も、安全保障関連法制について100%勝ったとはおそらく思っていません。専門家の意見は、集団的自衛権条項について『ほとんど使い物にならない条文』という認識で一致しています」。
 
 つまり「安倍政権というのは意外に日和(ひよ)る政権だということが分かった。極端にむちゃなことをやって支持を失うことを恐れている。だから集団的自衛権を全面解禁するところまではいかなかった。いまの与野党の勢力図からすればもっとひどく改正する可能性はあったと思います。あれだけ強硬にやっているように見えて、公明党の納得も必要だったし、デモ隊に国会を取り囲まれている状況も何とかしなければいけないと考えていたはずです。首相ですら政府に100%影響を及ぼすことが難しいのだから、1人の民間人がちょっとした思いつきで行動したところで政策が変わるかといえば、そう簡単ではない」。
 
 そして力を込める。「より大事なことは、そうした大きなゲームとは別に私たちはもっと小さなゲームを闘っているということ。『自分が言いたいことを、言いたいよう言えているか』というゲームです」
 

「政治にプレッシャー」


 「SEALDs」。「自由と民主主義のための学生緊急行動」を英語にし、頭文字を取った団体は、ちょうど1年前の2015年5月3日、東京・渋谷で発足した。昨夏に国会前で声を上げ続けてきた中心メンバーの奥田愛基さん(23)は安倍首相の選挙戦略を警戒する。改憲に強い意欲を示す一方、鋭い争点化を避けるのではないか。「憲法について首相が『何を言わないか』。注意深く見ていく必要があります」
 
 時の人となった若者の目に今の社会、政治はどう映るのか。「政権に対する批判に効果的な力を感じない。萎縮とかそういうレベルではなく、例えば朝日や毎日、東京、神奈川新聞が1面でいくら書いても、それほど政治に影響していないという感じがします。デモも過去最大規模の10万人が集まったというが、今の政権を止めるだけの力にはなっていません。 そうした中でここ数年で強く認識したことは、野党が極めてだらしないということです」

 ではどうするか。「共産党がいくら議席を増やしたといっても第一党にはならない。では民進党にしっかりしろよと言っても、民進党に政権交代してほしいと思っている国民が今どれだけいるでしょうか。安倍政権の政策に不満のある有権者は『この政権だけはやめてくれ』と言うしかない状況です。このように政治の側から考えていくと『政治家がしっかりするまで、国民は見て待っていましょう』ということになる。ですが残念ながら傍観していても状況はずるずると悪くなるばかりです。であれば『私たちはこういう政治を求めています』と声を上げ、プレッシャーを与えなければいけない」


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