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時代の正体〈306〉国連特別報告者が見た日本(下) 政治的意図、教科書に

時代の正体 神奈川新聞  2016年05月02日 02:00

1万1千人余の参加者で埋まった会場に流された安倍首相のビデオメッセージ =日本武道館
1万1千人余の参加者で埋まった会場に流された安倍首相のビデオメッセージ =日本武道館

 日本の「表現の自由」を調査した国連特別報告者のデービッド・ケイ氏は、調査終了後、都内で記者会見を行った。記者の質問は、自民党改憲草案、ヘイトスピーチ(差別扇動表現)、従軍慰安婦、米軍基地問題などにも及んだ。

 -自民党の憲法改正草案では、(表現の自由を保障する)憲法21条について「公益及(およ)び公の秩序を害するものでない限り」というただし書きを加えている。このような改憲がなされた場合、日本社会にどのような影響があると考えますか。

 ケイ氏 「憲法21条について、日本の皆さんはもっと誇りを持つべきです。憲法21条によって自由にモノが言える現在の環境をつくることができたのですから。

 これを改正することは非常に大きな問題だと思います。まず、一貫性がなくなる。日本は国際人権規約19条を批准しています。同条項には『すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む』と書かれています。日本国憲法に『公益を害しない限り』と書いたら、国際人権規約との矛盾が起きます。

 もう一つ、発言の自由を弱体化させる恐れがある。公益の秩序といった言葉が入ることに、非常に強い懸念を感じます。政府自身が『政治的キャンペーンについて政府が制約をかける』と厳しい条文を書いているようなものです。実際にあるべき姿はその逆です。政治的キャンペーンに対する圧力はむしろ、緩和すべきです。多様な意見を反映する社会をつくるべきです」

不適切


 -紛争地で取材する記者に対して、日本政府は「現地に行くな」と言ったことがあります。意見を聞きたい。

 ケイ氏 「ジャーナリストがシリアやイラクへ取材に行こうとした際、政府から渡航を止められた事例があったと聞きました。昨年、過激派組織『イスラム国』(IS)が、ジャーナリスト後藤健二さんを殺害したとの声明を出した直後だったと思います。これは非常に問題です。

 ジャーナリストによっては、パスポートまで取り上げられたと聞きました。ジャーナリストにこのような制限をすべきではないと外務省に指摘しました。

 後藤さん殺害声明が出たころ、日本の市民はもっとシリアについて情報を得ようとしていました。(期待に応えるため)ジャーナリストは危険を覚悟で取材しようとしました。ですから、日本政府の行動は不適切だったと思います。自由に取材、報道できる環境を整えるよう呼び掛けました」


「報道や言論の自由について調査する」と語るケイ氏=4月12日、東京都千代田区
「報道や言論の自由について調査する」と語るケイ氏=4月12日、東京都千代田区

差 別



 -日本におけるヘイトスピーチの状況についてどう考えるか。国会で法案が審議されているが、ヘイトスピーチを規制する法律は必要か。

 ケイ氏 「参院の法務委員会や市民団体の方と面会し、在日コリアンを標的にしたヘイトスピーチが増えていると聞きました。

 日本はまず、差別行為を禁止する法律を制定すべきです。雇用、住居、その他すべての領域で差別を禁止する。差別を行ったら罰せられる。こういったことを法律で規定しなければなりません。差別を禁止するための教育も必要です。ヘイトスピーチの問題について、政府が声を大にして教育しなければなりません。

 憎しみに満ちた表現に対し、日本政府は一般的な対応にとどまっています。しかし、法律が整備されれば、政府は公の声明を発表するなど、差別との闘いに好影響をもたらすでしょう」


JR川崎駅前で行われたヘイトスピーチ・デモ。警官が警備に当たる中、日の丸を掲げたデモ隊が繁華街を練り歩いた
JR川崎駅前で行われたヘイトスピーチ・デモ。警官が警備に当たる中、日の丸を掲げたデモ隊が繁華街を練り歩いた


 -沖縄では米軍新基地建設に反対する運動があり、これに対する激しい弾圧がある。昨年6月には、作家・百田尚樹氏が「沖縄の新聞社はつぶしたほうがいい」などと発言した。沖縄における表現の自由をどう考えますか。

 ケイ氏 「沖縄の問題について、政府関係者と具体的に話をする機会がありました。米軍基地のゲート前や海上での過剰な警備については、海上保安庁の職員と話しました。沖縄のメディアへの圧力についても聞きました。こういった状況に懸念を抱いています。まだ十分な情報を得ていないと思うので、今後も調査を続けます。日本政府とも対話していきたいと思っています」


新基地建設に抗議する住民と排除しようとする警察官
新基地建設に抗議する住民と排除しようとする警察官

干 渉



 -調査終了後に公表した中間報告で、従軍慰安婦の問題にも触れています。どのような考えを持ったか。

 ケイ氏 「従軍慰安婦を含む歴史問題、教科書問題にはとても関心があります。義務教育の教科書から、慰安婦問題に関する記述が削除されつつあると聞きました。そのため、文部科学省から教科書を承認するプロセス(教科書検定)について話を聞きました。

 そうした結果、歴史問題が政治問題にすり替えられ、政治的な意図が教科書に反映されていると感じました。

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