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奨学金返済に低賃金 膨らむ不安
時代の正体〈292〉保育士辞めたの私だ(中) 僕の夢は保育士です

時代の正体 神奈川新聞  2016年04月15日 10:53

緊張しながらも「子どもを守れ」「未来を守れ」と叫ぶソラさん=3月25日、国会正門前
緊張しながらも「子どもを守れ」「未来を守れ」と叫ぶソラさん=3月25日、国会正門前

 「黙っていても変わらない。そう思って、国会前抗議行動を起こすことを決めました」

 都内の男子高校生、ソラさん(16)=ハンドルネーム=がマイクを握り、たどたどしい口調で思いを語り始めた。

 「僕の夢は、保育士です」

 保育の仕事を志したきっかけ。高校の友人と将来の夢について語り合ったこと。一方で膨らむ経済的な不安。保育士資格を取るための学校に通っても奨学金を返せないかもしれない。低賃金だと、家庭を持つこともかなわないかもしれない-。

 「いつの間にか僕は、夢かお金か、てんびんに掛けるようになっていました。自分自身に二択を迫っていました」

 何度もつっかえながら、しかし、丁寧に言葉を継いでいく。

 「自分が欲深すぎるんだ。おかしいんだ。わがままなんだ。自分が我慢すればいい話だ、と思いました」

 緊張のせいか、癖なのか、右膝が絶えず小刻みに揺れていた。

 「でも、やっぱりそんなの嫌で、何度も何度も考えて僕が出した答えは、『そんな二択を迫られない社会であること』でした」

憧れ変わらず



 夕方、記者が国会前に到着したとき、歩道端のコンクリートブロックに腰掛けている若者がいた。

 襟元から青いネルシャツがのぞく白いケーブルニット、黒いチノパンとスニーカーを合わせたファッション。横に倒したスマートフォンを両手で持ち、不安げな表情で画面を見つめている。

 「いま、スマホでシールズさんの動画を見ていたんです。やっぱりしゃべるのうまいな、すごいなあって。僕はこういう抗議行動を主催するのが初めてなので、うまくできるか、自信がないんです」

 穏やかな雰囲気の彼こそが、抗議行動を企画し、ツイッターで参加を呼び掛けた高校生、ソラさんだった。

 小学生のころ、たまたま職場体験で訪れた保育園で、保育士の仕事を知った。昨年夏、ボランティアとして近所の保育園を手伝った。

 「保育士は『子どもと遊ぶことができるとても楽しい仕事』という認識だったけど、それは全くの誤りで、本当に大変な仕事だった」

 早朝に出勤し、おもちゃやテーブルを丁寧に拭く。子どもが来ると常に目を配り、しゃがんで立っての繰り返し。すぐに腰が痛くなった。一瞬も気が抜けず、体力も使う。それでも子どもたちの笑顔がうれしくて、楽しくて、あっという間に時間が過ぎた。

 へとへとになった自分の横で機敏に仕事をこなし、子どもたちから慕われていた男性保育士の姿が印象に残っている。格好いいと思った。

顔知らぬ仲間



 開始直後、大型スピーカーやマイク、屋外照明などを担いだ大人たちが、ソラさんの元へやって来た。100メートルほど離れた場所で毎週金曜、原発再稼働反対デモを続けているグループと名乗った。機材には名札代わりに「NO NUKES」と記された幅3センチほどの小さいタグがぶら下がっていた。彼らは言った。

 「ソラ君、よかったら機材使ってください」

 野外で使う機材を持っていないソラさんは、ツイッターなどで事前に協力者を募っていた。

 〈トラメガ(拡声器)がありません。どなたか当日トラメガ貸してくれるとありがたいです〉

 その書き込みを、グループの一員で、芸能関係の仕事をしているシングルマザーの紫野明日香さんが偶然目にした。

 「私も、かつて保育園の世話になった。若いソラ君が立ち上がったのを、少しでも助けたいと思った」

 訴えているテーマは違う。それでもグループのメンバーは、少し離れた場所からソラさんを見守っていた。

 紫野さんは言う。「今夜のことだって、きっと何も知らない外野がテレビだけ見て、『立派な機材があるから大人がやらせてるんだろう』とか、『政治団体がバックに付いているんだろう』とか、ネットに好き放題書き込むかもしれない。でも、これはソラ君が1人で始めたこと。私はただ、一個人として母親として、純粋に協力したかっただけだから」

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