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自転車記者が行く・へら鮒これ求道なり

話題 神奈川新聞  2016年04月11日 02:00

もはや美術品としか言いようがない竿の数々
もはや美術品としか言いようがない竿の数々

 鮒(ふな)仙人。ん? 何の店だ。看板の付記を見て合点がいく。「趣味のへら鮒道具専門店」。こういう狭く深い道を突いている方は、確実に面白い。

 ヘラブナ釣りは、その独特の世界観が長く愛されている。店主の嶌村典秀さん(54)が説明してくれる。「広まったのは戦後から。関東では浅草のダンナ衆が中心となりました」。私見だが、淡水ではアユの友釣りと並んで「日本の釣り」といった感じがする。

 中原区出身。近くにヘラブナが釣れる池があった。「始めたのは小学5年。1匹釣るのに1年かかりました」。周囲の大人がいつも優しく教えてくれた。彼らが使っていたのが、和竿(わさお)だった。細かな道具にまでこだわる粋に憧れた。32歳でそれを店として形にした。

 店内はさながら刀商の趣だ。ショーケースに竿、竿掛け、浮きなどがずらり。「扱うのは職人の手作りだけなんです」。どれも恐ろしく美しい。

 例えば竿。素材は高野竹という強くて粘りのある竹を使い、漆細工などを施す。「値段は尺(約30センチ)単位で、職人の腕によって変わる」。長さの中心は8~10尺(約2・4~3メートル)程度で、最上級品は50万円近くする。売れ筋は竿と同様に意匠をこらした竿掛け。数十万円のものが入荷するとすぐ売れる。

 浮きの素材は、クジャクの羽根という。魚信(当たり)だけでなく、練りエサの残り具合までを釣り手に教える肝とあって、その繊細さたるやもう。「先人が重ねてきた研究と知恵の結晶です」。かつては自身も釣る方に命を懸けた。「相模湖に浮かべたボートで5連泊とかね」。「釣キチ三平」も真っ青だ。

 場の状況を読み、練りエサの配合、固さを決め、浮きの数ミリ単位の変化に目を凝らす。警戒心の強い魚だからこそ、静かでたおやかな所作も肝要となる。「ヘラブナは偶然性が低い釣り。その探求心や理詰めの部分が日本人の気質に合ったのだと思う」。静寂の湖面。朝もやに浮かぶ、鮒仙人が見えた気がした。

 2013年春まで横浜を疾走していた「自転車記者」が今度は川崎を走り回ります。佐藤将人と塩山麻美が担当します。歴史ある店、面白い人、変わった人、街の不思議…。何でも結構ですので情報提供、大歓迎。連絡先を明記の上、ファクス044(211)0555まで。


竿を手にする嶌村さん=川崎区の鮒仙人
竿を手にする嶌村さん=川崎区の鮒仙人

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