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拡充進む海底観測網 地震や津波早期検知に貢献 日本海溝、南海トラフ

社会 神奈川新聞  2016年04月04日 02:00

海底観測網
海底観測網

 日本近海で発生する巨大地震や津波の早期検知を目的とした海底観測網の拡充が進んでいる。東日本大震災の巨大津波を引き起こした日本海溝の周辺で防災科学技術研究所(防災科研、茨城県つくば市)が構築を進める「S-net」は、房総沖を皮切りに3月から観測がスタート。先行して海洋研究開発機構(海洋機構、横須賀市)が南海トラフで展開してきた「DONET」は3月末で整備が完了し、和歌山県が観測データを生かして津波の緊急メールを独自に配信するといった新たな段階にこぎ着けている。

 3月23日、千葉県南端の南房総市であったS-net陸上中継局の開所式。防災科研海底地震津波観測網整備推進室の金沢敏彦室長が強調した。「日本海溝の外側を除く観測網が試験運用に入り、125地点のデータが入ってくる」

 地震計や水圧計などを組み合わせた観測装置を計150地点に置き、5700キロに及ぶ海底ケーブルでつなぐS-netの整備は、約320億円を投じて2011年度から進められている。約200キロ沖合の日本海溝周辺で津波が発生した場合、陸地到達の20分ほど前に検知できる。

 今年中にも整備が終わる海溝外側の25地点を含め、防災科研は今後、観測データを気象庁に提供。海域での地震発生後に発表される津波警報に役立てられ、正確な高さの予想につながると期待されている。また、海底下の震源から伝わってくる地震波を陸上の地震計より早く捉えられるため、緊急地震速報の迅速化にも貢献できるという。

 S-netが先行整備された房総沖は、北海道沖へ続く日本海溝の中でも東日本大震災の誘発地震が懸念されるエリア。さらに1923年に関東大震災を引き起こした相模トラフが延びている特殊な海域だ。防災科研は「これらをカバーする形で整備した」としており、多様な地震や津波に対応できる可能性がある。

 一方、海洋機構が南海トラフ地震をターゲットに三重・熊野灘で2011年夏からいち早く運用を開始した「DONET1」は、津波を十数分、地震の初期微動(P波)は十数秒早くキャッチできる。

 既に気象庁の津波警報や緊急地震速報に役立てられているが、昨年11月からは和歌山県が携帯電話事業者の緊急速報メールを使った避難の呼び掛けを開始。同県は紀伊半島の西側に整備されたばかりの「DONET2」も活用し、より幅広いエリアの津波をカバーできるようにする。三重県も同様の注意喚起の仕組みを導入する予定だ。

 これら太平洋側の海底観測網がほぼ整ったことで、今後の本格運用に向けた取り組みは防災科研が一元的に担う。DONETについても、海洋機構から移管を受けた防災科研がさらなる活用を模索していく。


◆誤報や維持管理が課題

 津波を伴う海溝型巨大地震は、震源が足元の直下地震と異なり、強い揺れや津波が陸地に到達するまでにわずかな時間がある。海底観測網はその間隙を避難などに役立てる新技術だが、設備の維持管理や配信情報の精度などに課題もある。

 海洋研究開発機構が三重沖の水深1900~4400メートルの海底に整備したDONET1は、2014年5月に多くの観測地点のデータが入手できなくなった。設備の一部が損傷し、海水に触れたためとみられ、完全復旧までに10カ月を要した。

 今年3月にも、電力供給のバランスが崩れるトラブルがあり、観測への影響はないものの今後修復が必要な状況だ。装置が海底にあるだけに、原因の特定や修理に時間がかかるのが悩みの種となっている。

 一方、DONET1を使った和歌山県の緊急メールは今年の元旦に「和歌山県沖で大きな津波の観測がありました」などと高台への避難を呼び掛けるメールを2度にわたって誤配信。県担当者が潮汐(ちょうせき)の補正データを入力していなかったために、潮の満ち引きによる水位変動を津波と誤認したのが原因だった。

 県は「地震の発生は確認されていない」とする訂正メールも配信したが、当日は問い合わせや苦情の電話が「鳴りっぱなしの状態」(県防災企画課)に。原因究明や再発防止策の検討を慎重に行ったため、再開は2月にずれ込んだ。

 災害心理学が専門の広瀬弘忠東京女子大名誉教授は「緊急的な情報はないよりあった方がいいが、最近は警報が陳腐化し、人々が対応行動を取らなくなっている」と指摘。「さらに誤報があると、信頼が大きく損なわれる。配信する側は情報の品質管理を徹底すべきだ」と強調する。 


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