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時代の正体〈282〉人、殺してほしくない 自衛官電話相談に不安の声

時代の正体 神奈川新聞  2016年03月30日 11:35

米軍とオーストラリア軍による合同軍事演習に初参加し、米海兵隊員らと離島奪還訓練を行う陸上自衛隊員(手前)=2015年7月、オーストラリア北部準州のフォグベイ(共同)
米軍とオーストラリア軍による合同軍事演習に初参加し、米海兵隊員らと離島奪還訓練を行う陸上自衛隊員(手前)=2015年7月、オーストラリア北部準州のフォグベイ(共同)

 安全保障関連法が29日、施行された。集団的自衛権の行使が可能になり、自衛官の武器の使用が大幅に認められるようになるなど、自衛隊の活動は範囲、質ともに大きく変容した。自衛官やその家族を対象に弁護士が開いた電話相談会では7件の相談が寄せられた。子や夫を戦場に行かせたくない、戦場に行くのなら自衛官を辞めてほしい-。件数では推し量れない、切実な声への答えは示されないままだ。

 相談会を企画したのは労働問題に詳しい弁護士らでつくる「日本労働弁護団」(本部・東京)など。法施行3日前の26日、午後3時から5時間、電話を受け付けた。

 娘の夫が自衛官という女性は「不安だから海外派遣には行かないでほしい」と義理の息子に声を掛けたことがあったと打ち明けた。返事は「自衛隊でやっていくには、行くしかない。心配は分かるが、そう言わないで」。女性は家族で話し合いの場を持ちたいと思ったが、それにも「家族が不安になるからやめてくれ」。話題を口にすることがはばかられるようになったという。

 除隊を願う家族からの電話もあった。やはり娘の夫が自衛官という女性は「危険任務に就くくらいなら、辞めてほしい」と本人に伝えた。だが、返ってきたのは「生活が懸かっているから、今の職を全うするしかない。なるようにしかならない」。

 家族が安保関連法に反対していることが職場に知れたら、本人の不利益になるかもしれないと思い、「身近に相談出来る人もおらず、不安は募る」。

 「息子に人を殺してほしくないし、死んでほしくない」と考える自衛官の母親からも声が寄せられた。訓練が実戦的なものになっていると聞かされ、自衛官が戦闘に巻き込まれる可能性が高まることを懸念する。「息子が派遣命令を拒否したら処罰されるのか。自衛隊を辞めてほしい。自衛隊に入る時に反対しなかったことを後悔している」

増す切迫感


 法施行を境に国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊の任務は拡大する。正当防衛などに限っていた武器使用基準を緩和。武装集団に襲われた国連職員らを武器で助ける「駆け付け警護」や宿営地を他国軍と共同防衛する治安維持任務が可能になった。今秋以降、南スーダンに派遣される自衛官は新たな任務を担う見通しで、銃口を向け、引き金を引くか引かないかという重い判断を迫られることになる。

 安倍晋三首相は昨年7月の国会審議で、自衛官のリスクが増えることを否定。「いろいろな事態に対応できる訓練が可能になるので、実際にはリスクは下がっていく」と主張した。

 後方支援中に敵に捕まった自衛隊員について、政府は「戦闘員ではないので、(捕虜の人道的処遇を定めた)ジュネーブ条約上の捕虜となることはない」と答弁。憲法改正をせず、軍隊ではないという位置付けのまま任務だけが拡大するという矛盾は引きずったままだ。

 電話相談を受けた高木太郎弁護士は言う。

 「隊員の安全や命をどう守るのか、国会でしっかり議論されてこなかった。だから、隊員の家族はいまだに不安を抱えたまま。法が施行され、不安は置き去りのままだ。リスクの具体的な可能性と対策について、自衛隊員と家族に対して政府が情報提供し、本人や家族から意見を聴取してほしい」

 高木さんは安保関連法成立直前の昨年9月12日と15日に行った電話相談を振り返る。「戸惑いや不安の声が多くを占めていたが、今回の相談はより切迫感が増していた。自衛隊を辞めてほしいという、より深刻な声が寄せられている」

「拒否して」



 前回36件あった相談が7件に減ったことについて高木さんは「電話をかけてきた自衛隊員の母親から、相談窓口に電話しないよう、部隊から本人や家族に圧力が掛かっているという話があった。多くの人が窓口に電話することすら、ちゅうちょしているのではないか」と推測する。

 そうした「圧力」は存在するのか。海上自衛隊横須賀地方総監部の広報担当や陸上自衛隊陸上幕僚監部広報室は「そういった事実はない」と回答する。

 自衛隊は発足以来、戦闘の犠牲者を1人も出さず、海外で1人の命も奪っていない。「テロとの戦い」に臨む多国籍軍への給油のため2001年にインド洋に、03年にはイラク戦争の復興支援に自衛隊を派遣した。派遣できる地域は「非戦闘地域」に限定してきたが、安保法では「現に戦闘行為を行っている現場」以外であれば活動を認められるようになった。実質的に戦場により近い場所で活動が可能になる。

 安保関連法によって追加された外国のための防衛出動は、集団的自衛権行使を前提としたものとなる。今後、自衛官は新たな同意書や誓約書の提出を求められるとみている高木弁護士は言う。「不安であれば署名を拒否し、戦争に行きたくないと言ってほしい。自衛官が立ち上がって法廷闘争になれば、自衛隊員の人権を軽視するこの国の状況は変わる」

 法施行を迎えた29日、安倍首相は参院予算委員会で「(日米が)お互いに助け合える同盟に変わった。同盟はその絆を強くした」と、その意義を説明した。夕刻の記者会見では「駆け付け警護を含め、新たな任務を適切に遂行するためには時間をかけて周到に準備しなければならない。参院選を控えて先送りしたとの批判は的外れだ」と反論してみせたが、自衛官の家族に響く言葉は聞かれなかった。

電話相談窓口に寄せられた声
 ◆娘の夫が自衛官の女性
 娘の夫とこの問題について話をしたいが、「妻が不安になる」といって、家族でも会話ができない。娘も不安がっている。(集団的自衛権の関係で新たに宣誓を求められた場合)娘の夫は宣誓に応じる意向。定年まで自衛隊にいるためには拒否できないという。「自分は年齢的にも海外派遣させられる立場ではない」「自分は自衛隊で定年まで働かなければならない」と言っている。(電話相談窓口に)上司から相談するなという指示が出ているようだ。

 ◆自衛官の妻
 私がデモに参加するなど政治活動をした場合に、何か不利益があるのか。今回の相談の情報が、外に漏れないか、とても心配している。

 ◆自衛官の子ども
 私は集団的自衛権に反対だが、父からは政治的な活動に関わるなと注意されている。

 ◆元自衛官の男性
 後輩が戦地に送られるのではないか。安保法制に反対。今後、人員不足が顕著になるのは明らか。徴兵制に結び付くのではないか。

 ◆娘の夫が自衛官の女性
 自衛官の娘婿のことが心配で危機感を強く持っている。本人も不安になっている。娘が「危険任務につくくらいなら仕事を辞めてほしい」と伝えても、婿は「生活が懸かっているから今の職を全うするしかない。なるようにしかならない」と、経済的な理由により退職を決断できない。身近に話せる人もおらず、不安に思う。

 ◆娘の夫が自衛官の女性
 安保法制がとても心配で、心が真っ暗。娘婿は「命令が出たら行くしかない」と言っている。娘婿の親からも説得してもらったが、気持ちは変わらない様子。武器を使用できるようになると、より一層危険になる。孫もいるので心配。

 ◆自衛官の母
 息子に人を殺してほしくない。死んでほしくない。自衛隊を辞めてほしい。家族が反対運動をしていたが、上司から処遇に影響するからやめるようにと言われ、控えている。息子が命令を拒否したら、息子や家族に刑事罰はあるのか。息子に安保法制について意見を聞いても、口止めされている。訓練が実戦的になってきていて、妻も心配している。息子が入隊したとき、反対はしなかったが、今であれば反対した。


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