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人気の武蔵小杉に“逆風” ビル風被害、住民「市は実態調査を」

社会 神奈川新聞  2016年03月28日 11:20

高層マンションの谷間で新たな建設が進む武蔵小杉駅周辺地区=川崎市中原区
高層マンションの谷間で新たな建設が進む武蔵小杉駅周辺地区=川崎市中原区

 首都圏の「住みたい街ランキング」で上位に入る人気エリア、川崎市中原区の武蔵小杉駅周辺で地元住民を悩ませている問題がある。需要に合わせて超高層のビルやマンションが林立した結果、強いビル風が吹くようになり、転倒や窓ガラスの破損といった被害が続発しているからだ。住民らは事業者による環境アセスメントの風害評価と実態に差があると主張し、行政による調査を求めている。

 高さ100メートル以上の高層建物は12棟あり、計画を含めると17棟を数える。街を歩いてみると、さまざまな場所で強風対策が施されていることに気付く。

 あるコンビニ店では自動扉の前にもう1枚パネルを設置し、二重構造にしてあった。商業ビルの向かいにあるスポーツジムでは、強風にあおられ勢いよく閉まった手動のガラス扉が2度も割れ、自動扉に造り替えたという。従業員は「『風が強くてジム前の横断歩道が渡れない』という高齢会員の声をよく聞く」と話す。

 高層ビル周辺では、建物に吹き付けられた風が流れを変え、局所的に強まるビル風が発生する。記者が歩いて回った日は、穏やかな天候だったが、高層建物に近づくと、ふっと風が強まるのを感じた。

 地元住民らでつくる「小杉・丸子まちづくりの会」が歩行者105人にヒアリング調査を実施したのは2012年。「被害を受けた(聞いた)ことはあるか」という質問に、89人が「ある」と回答した。

 自転車に乗っていた60代の女性が転倒し、手の指を骨折したり、民家の窓ガラスが割れたりといった被害も判明。同会は「強風を避けるため、遠回りして通院している人もいる。お年寄りや子ども、自転車にとっては特に危険」と訴える。「『若者に人気の街』『にぎわいのある魅力ある街』として再開発が進んできたが、強風で安全に歩くこともできなくなっている」

なお残る課題


 住民の声などを受けて市は12年、環境対策部会を設置し、同駅周辺5地区を対象に独自のビル風対策指針を策定した。

 環境アセスでは「住宅地の商店街・野外レストラン」「住宅街・公園」「繁華街・事務所街」「該当用途なし」という空間用途ごとに許容される風の影響を示しているにすぎないが、市の独自指針は、影響が「住宅地の商店街・野外レストラン」「住宅街・公園」の範囲内に収まるよう、計画段階から建物の形状の工夫や防風植栽などの対策を事業者に求めている。規制のないアセスを補うためのもので、建設後の調査で影響が悪化した場合は追加の対策を求めるとしている。

 だが、住民からはなおも課題を指摘する声が上がる。風観測は基本的に事業者が実施しているため、「例えば、観測機器は通行の妨げにならない場所に設置される。人が往来する場所の数値とは異なる結果となる可能性がある」。

 敷地内の樹木の近くに設置されたケースでは、「繁華街・事務所街」相当だった評価が、防風植栽を増やすといった対策で「住宅街・公園」相当に下がった。市は「植栽の効果を確認する目的もあり、観測は不適切ではなかった」と説明するが、同会は「歩行者は強い風を感じている。実態を反映できていないのでは」と懸念を抱く。

 同会は風環境の実態を把握しようと簡易風速計による測定を13年6月から開始。武蔵小杉駅北側を中心に19街路を設定し、歩きながら地上1・5メートルの風速を測った。通常の風観測では24時間連続で測るが、比較的風が強いと感じた日を選び、毎月2~5回実施。「風に向かって歩きにくい強風」とされる、最大瞬間風速15~20メートルの風も観測された。

 昨年3月には実態調査や抜本的対策を求める要望書を福田紀彦市長に提出。同6月にも陳情を提出した。「事業者のアセスで評価が良くても、実際は多くの人が強風による被害を受けている。24時間体制の風観測や被害調査を市が直接やってほしい」と念を押した。


新指標も発案




 一歩進んだ取り組みを行っている自治体もある。再開発が進む東急線二子玉川駅周辺で風害が問題となった東京都世田谷区。事業者による対策の効果を検証するため、風工学の専門家会議を設置し、8カ所で定点観測を行った。

 会議の議長で、風工学研究所の中村修会長は「実際に人が歩く場所で測れればいいが、許可が必要なため通常は事業者だけでは公道に付けられない。行政の協力が不可欠だった」と振り返る。

 二子玉川の調査では、新たな指標も用いられた。従来の空間用途ごとの指標ではなく、「歩行に影響を及ぼす可能性」「歩行者が転倒する可能性」といった人に及ぶ具体的な影響を想定した。中村会長は「従来の指標は日常生活をイメージし、不快に感じるかなどを基準としている。風害の中でも深刻な『人の転倒』に着目した基準があると対応が取りやすいのでは」と狙いを説明する。

複合的な問題


 現在、武蔵小杉駅北側では180メートルの超高層マンション2棟が建設中で、すぐ近くの日本医科大学地区の再開発計画でも180メートルの超高層マンション2棟を建設予定だ。中村会長は「近いエリアに建物が集中すると、一事業者の風対策では解決できないこともある。全体を見通した行政の協力が必要」と指摘する。

 川崎市でも、現在計画中の事業者は周辺ビルを含めた風害予測を行っているが、市小杉駅周辺整備推進担当は「予測よりも完成後の状況が悪くなる場合もある。その際は事後調査に市も加わり、事業者間で協力して対策するよう調整していく」としている。

 「ビル風問題は市の課題」としつつ、担当者は「風は人によって感じ方も違うため『実感に即した』評価というのも難しい。そうした指標はまだ確立されておらず、今は現状の指標で評価するしかない」と対応の難しさも口にする。

 小杉・丸子まちづくりの会は現在も風観測を続けており、「法律上は違反にならなくても、実際には困っている人が多く、市民の実感とずれている。行政の立場から被害実態をきちんと調べてほしい」と強調する。市の担当者は「住民からの意見も参考に、公道に吹く風が強い場合などは、観測機器を街路灯に設置することなども検討していきたい」としている。

 ◆武蔵小杉駅周辺地区の再開発
 東急東横線・目黒線とJR南武線に加え、2010年にJR横須賀線の新駅が開業。都内にアクセスする交通の便の良さなどから、高層マンションの建設や大型商業施設の開業が相次いでいる。今年1月時点の公示地価では、駅近くの地点が住宅地価格で県内1位、商業地でも同8位だった。川崎市は川崎駅と新百合ケ丘駅の周辺地区とともにまちづくりの重点地区と位置付けているが、再開発が進むにつれ、ビル風や日照といった環境面だけでなく、急激な発展と人口流入に公的サービスの環境整備が追いついていない点も課題になっている。


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