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【K-Person】岩井俊二さん
独自の映像美、輝き増す世界

K-Person 神奈川新聞  2016年03月27日 02:00

岩井俊二監督
岩井俊二監督

岩井俊二さん

 公開中の新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」は、国内で撮る実写長編の劇映画としては12年ぶりとなる。海外での活動に軸足を置いていたが、東日本大震災をきっかけに、あらためて日本を見つめ、物語の舞台とした。

 平和で豊かとされる日本。しかし、そこから落ちこぼれていく人々の存在は、無視され、抹殺されてはいないか-。この国を覆う空気を、かねてそう感じ取っていた。

 「3・11後、体質がまったく変わったわけではない。でも、傷つき、いびつさが露呈した社会で、少しはそういう人々への痛みも分かるようになったのではないか。また覆い隠されるかもしれないが、一瞬、そうした雰囲気が垣間見えた気がした」

 感じた気配を、作品に宿らせた。

 派遣教員の七海(黒木華)はSNSで知り合った男性と婚約する。式に出る親族が足りず、何でも屋の安室(綾野剛)に代理出席サービスを頼む。新婚早々に夫の浮気が発覚するが、逆に浮気の罪をかぶされ、新居を追われる羽目に。居場所をなくした七海は安室の助けで今度は自分が代理出席のバイトで偽の家族を演じる。そこで女優を名乗る奔放な女性、真白(Cocco)と出会う…。

 安室というウサギに導かれ、七海はアリスのように不思議の国に落ちていくかに見える。果たして、七海は社会からドロップアウトしたのか。真白には、この社会がどのように見えていたのか。

 「私たちが当然のように是としている世界の方が息苦しい。下のほうに行くと押しつぶされてしまう容赦ない世界。みんな我慢して、全員が重いものを背負わされている」。不条理なこの世界にこそ、生きづらさの根がある。岩井監督の目にはそう映る。


 七海は偽の家族を通じ、人との真のつながりを得る。「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ」。そう語る真白と魂を共鳴させる。“岩井美学”といわれる独特の映像の中で、七海は次第に生気に満ちた表情を見せ、輝きを増す。

 「落ちたように見えるが、社会のゲームから離脱できたことで実は救われている。豊かな世界を手にしたのではないか」。一種の逆説を通じ、七海も、私たちも、世界の多層さに気付く。

 「今の社会から飛び出てしまったことが、逆に人間の回復になることだってある。人の優しさ、ぬくもりを信じ、個の生き物として自分と向かい合う。そこに輝く瞬間があると思うんです」

お気に入り

 最近、LPレコードをもらう機会があり、ターンテーブルなどを買い直した。「昔持っていたLPもネットで買い始めて。ちょっとした楽しみになっています」。ながらではかけられない。「針を落とし、曲が終わるまでほかのことはできない。ありがたみが全然違いますね」


いわい・しゅんじ
1963年生まれ。宮城県出身。横浜国大卒。O型。みずがめ座。
88年からドラマやミュージックビデオなど多方面の映像世界で活動を始める。
映画監督、小説家、作曲家など活動は多彩。代表作は映画「Love Letter」「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」など。海外にも活動を広げ、「ヴァンパイア」などを監督。 復興支援ソング「花は咲く」では作詞を手掛ける。「花とアリス殺人事件」では初の長編アニメに挑み、国内外で高い評価を得た。

記者の一言
 映画監督、小説家、作曲家と多才。そして独自の映像は「岩井美学」と称される。「繊細で気難しい人かな?」と勝手に思い込み、構えて取材に臨んだ。

 社会の空気を感じ取る鋭敏さはもちろん言葉の端々からにじむ。でも、丁寧に時間をかけて質問に答える口調は実に柔らか。心地いいインタビューだった。

 写真撮影で同行した菱倉記者は、岩井監督と横浜国大で同級生。インタビュー後、菱倉記者と雑談する岩井監督の朗らかな姿も見ることができ、より親近感を覚えてしまった。

 ちなみに、「リップヴァンウィンクルの花嫁」は小説にもなっており、こちらの世界も存分に堪能した。


映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」の1シーン(C)RVWフィルムパートナーズ
映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」の1シーン(C)RVWフィルムパートナーズ









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