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意見陳述・参考人質疑
人種差別撤廃施策推進法案(中) 「差別に中立ない」

社会 神奈川新聞  2016年03月22日 20:49

深刻な差別の実態が報告され、静まりかえる委員会室
深刻な差別の実態が報告され、静まりかえる委員会室

 参院法務委員会は22日、人種差別撤廃施策推進法案に関する参考人質疑を行った。法案に賛成の立場から、大学教授と在日コリアン3世の女性が意見陳述を行い、「人種差別は日本社会の民主制をも損ないます」「差別の問題に中立、放置はあり得ません。差別を止めるか否かです」などと法規制の必要性を訴えた。同法案は昨年5月に民主、社民両党と無所属でつくる議員連盟が参院に提出し、今国会で継続審議となっている。

金(キム)尚均(サンギュン)(龍谷大学法科大学院教授)


 現在、審議されている法案の本国会での成立を望んでおり、賛成したいと考えています。以下、参考意見を今後の審議のために述べたい。

 日本政府は1995年、人種差別撤廃条約に加入しました。本条約が1965年に国連で全会一致で採択されてから、30年後の出来事です。この間、日本において差別問題はなかったのか、というと、在日朝鮮人、被差別部落の人々に対する差別は依然として存在し続けた。しかし、国内法の整備はこの条約に沿って整備されてこなかった。このような状況に対して、国連の人種差別撤廃委員会から人種差別禁止法の制定が勧告されるという始末です。国際社会の一員として、日本においてグローバルスタンダードとしての基本的人権の保障と、人種差別撤廃のための国内の立法作業が急務と言えます。

 人種差別を規制する法律がない、という日本の法事情の中、2000年ころから、外国人、とりわけ在日韓国朝鮮人を標的とする誹謗(ひぼう)中傷、インターネット上の書き込み、公共の場におけるデモや街宣活動が目立ち始めました。公共の場で行われる、まさに差別表現です。公然と拡声器を用いて差別表現を並び立て、罵詈(ばり)雑言、誹謗中傷を繰り返すのであります。その表現は「ゴキブリ朝鮮人を殺せ」「朝鮮人をたたき込め」といったように、攻撃的、凶悪的、排除的であります。しかも、駅前や繁華街において、参加者、一般の人に対して差別をあおり、賛同者を集めようとする極めて先導的な差別行為です。


議員や市民らが傍聴した参考人質疑
議員や市民らが傍聴した参考人質疑

 このような差別を象徴する事件として、京都市南区にあった京都朝鮮第1初級学校に対する襲撃事件を挙げなければいけません。本件は2010年12月4日に起こった事件です。

 学校前、その周辺で3回にわたり、威圧的な対応で、侮辱的な発言を多く伴う行動を繰り返し、その様子をインターネットで公開した。本件では、事件現場では警察署員がいたにもかかわらず、中止、制止することもなく、漫然と刑法上の犯罪行為、ならびに民法上の不法行為を静観した。警察のこのような態度が被害を深刻化させると同時に、人種差別行為を社会にまん延させる決定的な要因になったということは否定できません。

 被害者当事者による民事訴訟の提起に対して、京都地裁と大阪高裁は次のように判示しました。

〈一般私人の表現行為は、憲法21条1項の「表現の自由」として保障されるべきものだが、私人間において、一定の集団に属する全体に対する人種差別的発言と心得た場合には、上記発言が、憲法13条、14条1項や、人種差別撤廃条約の趣旨に照らし、合理的理由を欠き、社会的に許容しうる範囲を超えて、他人の公的利益を侵害すると認められるときには、民法709条「他人の権利または法律上、保護される利益を侵害した」との要件を満たすべきと解すべきだとし、それ故、人種差別を撤廃するべきものとする、人種差別撤廃条約の趣旨は、当該行為が悪質性を基礎付けることになり、理不尽、不条理な不法行為による被害感情、精神的苦痛などの無形損害という大きさから当然に考慮されるべきである〉

 このように判示しました。そして、その判示により、名誉毀損(きそん)と業務妨害を認め、人種差別撤廃条約違反をその悪質さの根拠とし、加害者側に約1226万円の損害賠償を命じたのであります。この判決は、人種差別表現が不法行為に該当し、その違法性は通常の名誉毀損に比べて高い、としました。本件は2014年12月9日をもって、確定しました。

「ヘイトスピーチは人種差別」


 これにより、日本において、ヘイトスピーチが人種差別であり、人種差別撤廃条約に反すると初めて判断しました。判決の意味は、日本において表現行為による人種差別が違法であり、しかも重大であることを示した。京都朝鮮学校に対する事件は、人種差別の問題を社会と司法の場に置いて顕在化させ、人種差別を防止するための立法の必要性を明示させてのであります。日本社会において、人種差別を撲滅するための社会的取り組みをあらためて活発化させ、人種差別撤廃のための立法が検討されるまでになりました。

 立法の必要性について、京都事件は、人種差別の認定に際して、憲法8条2項を解して、人種差別撤廃条約を間接適用しました。これは現在、国内法が日本に整備されていないからです。間接適用とは、国内に直接的な法律がないことを意味しており、法的安定性をかき、それ故、その適用についても敷居が高くならざるを得ません。


参考人の意見に耳を傾ける議員ら
参考人の意見に耳を傾ける議員ら

 人種差別は、社会において支配的な性質を持つマジョリティーがマイノリティーに対して攻撃を行い、マイノリティーが人権の主体であり、社会の構成員であることを否定し、社会から排除するという、看過できない、まさに人間の尊厳の侵害であります。これは、人種差別がなぜ許されないか、しかもこれを撤廃するための法律がなんのために必要なのか、何を保護すべきなのかを明らかにしています。

 禁止規定を制定することにより、司法、立法、行政の実務において、人種差別における被害とその危険性の理解を促進することができます。実害と被害があるにもかかわらず、適切な対応ができないままでいた立法、法の適用、執行の実務の在り方を、人間の尊厳の保護の見地から見直す重要な契機となり得ます。

 人種差別に対する明確な法律がない中、デモの交通整備をする警察職員が、人種差別をする人々を擁護しているかのように見える場面も多々、生じております。一方で、人種差別に対抗し、平等を訴える人々に対し、警察職員が強圧的な態度を取らざるを得ないという錯綜(さくそう)した状況も生じています。これは差別禁止規定がないと、中立と公共の安全の保持の名の下に、道路許可を得ているか否かどうか、だけで保護対象とそうでない者を割り切らざるを得ないことを表しています。

「差別撤廃の担い手は、社会に生きる私たち」


 人種差別を撤廃する人種的な担い手は、社会に生きている私たち人間であり、私たちを構成させる社会の自己解決能力であります。この追及を支えるのが法律である、と考えるべきでしょう。結果的に差別をする側を擁護することになる行政実務を変えるためにも、法律の制定が早急に求められている。

 被害実態調査について述べると、日本政府は国連の人種差別撤廃委員会で次のように述べています。

 「我が国の現状は、既存の法制度では差別行為を抑制することはできず、かつ、立法以外の措置によってもそれを行うことができないほど、明確な人種差別が行われている状況にあるとは認識しておらず、人種差別禁止法が必要であるとは考えていない」

 しかし、このような日本政府の発言は、まさに政府レベルにおける人種差別に関する実態把握をしておらず、そのため、客観的な証拠がないということを示すものです。国連の認識と日本政府の認識の乖離(かいり)を回避するためにも、被害実態調査の定期的実施をするための立法が必要と言えます。

 最後に、人種差別は一定の集団と、その構成員である諸個人を社会から排除、ないし否定するものです。特定集団そのものの否定、社会における共存の否定であります。私たちは、2015年7月から9月の間、高校生を対象に被害実態調査を行った結果、ヘイトスピーチなどの人種差別が生身の人間の心身を傷付けることを再確認しました。京都朝鮮学校事件では、裁判を通じて、人種差別の標的とされた集団が沈黙、無力化し、自尊心を喪失させられ、社会への参加が難しくなる被害の実態、現実を明らかにしました。

 一定の集団、構成員である個人に対する差別と排除により、その構成員の人権の享受を阻害し、しかもそれを正当視、当然視する社会環境を醸成する危険な事態なのであります。人種差別は、日本社会の民主制をも損ないます。人種差別を野晴らしにする社会は、社会の構成員である一部の人々を不当に排除し、憎しみ扱いし、ひいては人間であることを否定する。

多様性を認めない社会になりはて、共生社会を否定することになります。

崔(チェ)江以子(カンイジャ)(社会福祉法人青丘社 川崎市ふれあい館職員)



 川崎市桜本から来ました崔江以子と申します。在日韓国人3世です。日本人の夫と中学生、小学生の子どもがいます。川崎市ふれあい館の職員をしています。ふれあい館は乳幼児から高齢者までの方々が幅広く利用する施設です。日本人はもちろんですが、地域に暮らす外国人市民、外国につながる市民の利用もあり、共に生きる街のなかで「誰もが力いっぱい生きられるために」とスローガンを掲げ、市が掲げる多文化共生の街づくりにその役割を果たしています。

 今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。正直怖いです。とても怖いです。表にたってヘイトスピーチの被害を語ると反日朝鮮人と誹謗中傷を受けます。私は反日の立場で陳述をするのでは決してありません。ヘイトスピ—チを違法とし、人種差別撤廃に国と地方公共団体が責任をもつ法案をぜひ成立させてほしい。法案に賛成の立場でお話をさせていただきます。

 私が生まれ育ち暮らす川崎市では、2013年から12回にわたりヘイトデモが行われてきました。直近の2回、2015年11月8日と2016年1月31日のデモは、その前に行われた10回のデモと大きく意味が違います。駅前周辺で行われてきたヘイトデモが、11月8日に、川崎区の臨海部在日コリアンの集住地域にむかってきました。私たちの街、桜本は日本人も、在日も、フィリピン人も、日系人も、誰もが違いを尊重し合い、多様性を豊かさとして誇り、共に生きてきた街です。その共に生きる人々の暮らしの場に、その思いを土足で踏みにじるかのようにあのヘイトデモが行われました。

 「川崎に住む、ごみ、ウジ虫、ダニを駆除するためにデモを行います」と出発地の公園でマイクを使って宣言をし、「ゴキブリ朝鮮人をたたき出せ」とヘイトスピーチをしながら私たちの街へ向かって来ました。このヘイトデモに対し、多くの人が抗議した結果、桜本の街には入りませんでしたが、住宅街、たくさんの人が暮らす共生の街にあのヘイトデモは土足で張り込みました。確かにあの日、桜本の街は守られました。けれども、とても大きな傷を残しました。

 在日1世のおばあさん、ハルモニ方は「なんで子や孫の代になってまで帰れと言われなければならないのだ」と傷つき悲しみの涙を流し、「ヘイトスピーチをする大人の人たちに、外国人も日本人も仲良く一緒に暮らしていることを話せばわかってくれるはずだ」と信じて沿道に立った私の中学生の子どもは、あまりのひどい状況に強いショックを受けました。

「どうして大人がこんなひどいことをするの」

 
 多くの警察がヘイトデモ参加者のひどい発言を注意するどころか、守っているようかの様に囲み、差別をする人たちに差別をやめてと伝えたくても警察にあっちへ行けと言われ、デモ参加者からは指を差され笑われ、「どうして大人がこんなひどいことをするの」と大人に対して強い不信と恐怖心を持ちました。「もしかして同じエレベーターに乗った人がこのヘイトスピーチをする人だったら」とエレベーターに乗ることが怖くなったと言いました。

 私自身も初めて抗議の意思表示をしました。残念ながら決して届かぬ「共に生きよう」の思いを見つめ、無力感に襲われました。そして1月31日に再びヘイトデモが予告されました。「集合場所の公園やデモに許可を出さないでほしい」と行政機関にお願いをしても、「不許可とする根拠法がないのでできない」と断られました。桜本地域の中高校生や若者たちは「なぜここに住む人間がヘイトデモに来ないでほしいと言っているのに来るんだ」「大人がしっかりルールを作って自分たちの街を守ってほしい」と強い怒りと悲しみの思いをあらわにしながらも、それでも共生への思いを記し、大人たちを信じ、預けてくれました。

 1月31日のデモ当日。私の中学生の子どもはヘイトデモをする大人に「差別はやめて、共に生きよう」と伝えても、その思いは残念ながら届かず、再び傷つき絶望を突き付けられるだろうと、心配して止める私たち親に「ヘイトデモをやめてもらいたいから。僕は大人を信じているから」と強い思いで沿道に立ちました。

 あの日のことをお話しするのはとても厳しくつらいです。1月31日は過ぎましたが、そこに暮らす私たちにとっては終わった話ではなく、続いている話だからです。「また来るぞ」と言って、その日のデモは終わりました。

 悪夢のような時間でした。桜本の街の入り口で「助けてください。助けてください。桜本には絶対に入れないでください。お願いです。お願いです。桜本を守ってください。僕は大人を信じています」と泣きながら叫ぶ中学生の子どもの隣で、彼を支えなければと思ったけれど、あの時、私の心も殺されました。


「いつまでも共にこの街で」と書かれたプラカードを手にヘイトスピーチに抗議する住民ら=川崎市川崎区
「いつまでも共にこの街で」と書かれたプラカードを手にヘイトスピーチに抗議する住民ら=川崎市川崎区

 ヘイトデモをする人たちの良心を信じ、差別をやめて共に生きようとラブコールを送ってきたけれど、たくさんの警察に守られながら、「一人残らず日本から出ていくまでじわじわと真綿で首を絞めてやるから」とデモを先導した人が桜本に向かってくる。「韓国、北朝鮮は敵国だ。敵国人に対して死ね、殺せと言うのは当たり前だ。皆さん堂々と言いましょう。朝鮮人は出て行け。ゴキブリ朝鮮人は出て行け」「朝鮮人、空気が汚れるから空気を吸うな」と叫ぶ人たちが、私たちの街へ警察に守られて向かってきた。あの時、私の心は殺されたと同じです。

 私の中学生の息子は、自身の多様性、日本と韓国にルーツがあること、ハーフではなくダブルと私たち親や地域の人から大切にされ、自分自身もその多様性を大切にして暮らしてきました。そんな息子が「朝鮮へ帰れと言われても、体は半分にできない。心がバラバラにされた」とあの時に受けた傷を1カ月以上もたってからやっと言葉にして表現しました。目の前で大切にしてきた民族性の違いをもって、母親が死ね殺せと言われているのを目の当たりにした彼の心の傷は計り知れません。

 あの桜本への入り口交差点は、私たちの生活の場所です。買い物に行くスーパー、ドラッグストア、給与の振り込みや学校諸経費の支払いに利用している地元の信用金庫があり、子どもが通院する病院もすぐ近くです。今でもあそこを通るたびに胸が苦しくなります。景色の色が消え、車や人どおりの音が消え、あの日、あの場所が思い起こされます。信号待ちをしていると知らずに涙があふれます。

「守ってくれない大人に傷付き、それでも大人を信じ、ルールをつくってくれると信じ待ってくれている」

 
 この被害を行政機関に訴えても「根拠法がないからと具体的な対策は取れない」と助けてもらえません。私の息子や、桜本の子どもたちは守ってもらえません。ヘイトスピーチをする大人から傷つけられ、さらに守ってくれない大人に傷付き、それでも大人を信じ、ルールを作ってほしい、大人がきっとルールをつくってくれると信じ待ってくれています。

 1月31日のデモの後、ある日本人の高校生が「なんかごめん」と謝ってきました。ヘイトデモが来る前は、私たちの街で互いの民族性の違いを豊かなものだと尊重し合いながらいたのに、謝り謝られることなんてありえなかったのに、日本人の彼もヘイトスピーチの被害者です。

 私の中学生の子どもは、あのひどいデモの後、川崎市長への手紙を書きました。そこに「『朝鮮人は敵。敵はぶち殺せ。朝鮮人は出て行け』とひどい言葉を大人が言っていました。もしこんなことを学校で誰かが言ったら、学校の先生は『そんなひどい事を言ってはいけない』ときっと注意する。表現の自由だからなんて言わない。市長さんはどう考えますか? 助けてください。ルールを作ってヘイトデモが来ないようにしてください」とつづりました。

 その答えがこちらです。

 「1月31日に行われたデモは、外国人市民の方々をはじめ、多くの市民の心を傷つけ、不安や不快感を抱かせる行為であり、とても残念に思います。しかしながら、このようなデモについては、現行の法令で対処する事が難しいため、現在、国に対して法整備などを要望する準備を進めています(これは、3月14日に要望書が提出済みです)」

 差別はあっても、法律がないと差別が放置されたままでは、いつか私たちは本当に殺されます。白昼堂々と死ね、殺せとマイクを持って叫ぶ成人男性が、警察にその主張をする場を守られている。いつか本当に殺されます。その思いで3月16日に法務局へ人権侵犯被害申告を行いました。正しく差別が調査検証され、救済および予防のための適切な処置を講ずることを求め申告をしました。

「差別を止めるか否か」

 
 差別の問題に中立、放置はあり得ません。差別を止めるか否かです。現状、国は差別を止めていない。それは残念ながら、差別に加担していることとなります。ヘイトスピーチを違法とし、人種差別撤廃に国と地方公共団体が責任を持つ法案をぜひ成立させてほしいと心から願います。

 桜本の若者たち、子どもたちは、また来てしまうかもしれないヘイトデモに対して「共に生きよう」そして「共に幸せに」というメッセージを記しました。この思い私たち大人がしっかり受け止め、このメッセージが届かず、再び傷つき涙を流すことがないような社会を作るためにも、何よりも国が「中立」でなく、ヘイトスピーチをなくす側に立つことを宣言し、差別は違法とまず宣言してほしいです。そのために、まず、今回の法案をすぐ成立させてほしいと思います。

 共に。ありがとうございました。

=敬称略

人種差別撤廃施策推進法案 昨年5月に民主、社民両党と無所属議員でつくる議連が参院に提出し、今国会に継続審議となった。人種差別を撤廃する施策を定め、推進することを国、地方公共団体の責務として義務付け、現行法では対処できない不特定多数へのヘイトスピーチを禁じている。参院法務委員会での審議は4月にも再開される見込みで、議連会長の小川敏夫参院議員(民主)は「自民党はわが国には人種差別はないので基本法をつくる必要はないと主張する一方、ヘイトスピーチに特化した対策法をつくろうとも言っている。基本法が望ましいが、一歩譲ってヘイトスピーチ対策法であっても成立させたい」と話している。


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