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「裏切り者」と呼ばれて
被災者はいま(下)原発事故5年

社会 神奈川新聞  2016年03月11日 02:00

女性は「原発事故がすべてを変えてしまった」と話した。写真は、福島第1原発事故で「帰還困難区域」となった福島県双葉町に掲げられていた原発推進の看板標識。昨年12月に撤去された
女性は「原発事故がすべてを変えてしまった」と話した。写真は、福島第1原発事故で「帰還困難区域」となった福島県双葉町に掲げられていた原発推進の看板標識。昨年12月に撤去された

 昨年12月25日のクリスマス。神奈川新聞社の仕事場から電話をかけた。受話器の向こうは、43歳の女性。福島県からの避難者だ。3年ぶりの連絡に戸惑う感じが伝わってくる。

 「新聞に名前が出るのは困るんだぁ」

 福島特有のアクセントで彼女はそう言い、続けた。

 「私みたいな人間は、地元で『裏切り者』って言われているんだよ。マスコミに名前が出るともっと責められる。嫌なんだぁ」

 穏やかな口調ながら「裏切り者」という言葉が飛び出す。「話だけなら」と会えることになったが-。

 仕事場のある11階からは横浜のランドマークタワーが見えていた。赤やブルーのライトアップ。クリスマス用の装飾が美しい。

 電話を切り、取材ノートを探した。彼女と子どもたちは2011年3月の東京電力福島第1原発の事故後、川崎市に避難し、取材を通じて知り合った。その年の12月25日には、ささやかなパーティーを一緒に楽しんだこともある。

避難生活


 女性の一家5人が福島県南相馬市から逃げたのは、原発で最初の爆発があった2日後だ。自宅は原発から20キロ圏内。長い避難生活が始まった。


東日本大震災が起きた翌日の新聞。帰還困難地域となった福島県浪江町の販売店には、配達されないまま残っていた
東日本大震災が起きた翌日の新聞。帰還困難地域となった福島県浪江町の販売店には、配達されないまま残っていた

 避難所となっていた川崎市中原区のとどろきアリーナで、まず、5カ月間を過ごした。当時のノートによると、初取材は4月25日の月曜日。「39歳主婦」だった彼女は、こんな言葉を発した。

 「頭の中は全部疑問符。なんでここにいるの? ここで部屋を借りるの? 子どもたちは福島じゃなくて川崎の学校に通うの? 放射能じゃないけど、胸に少しずついろんなものがたまっている。悲しい。帰りたい。実家の家族に会いたい」

 つらい話ばかりではなかった。

 「川崎フロンターレの中村憲剛選手が好き。息子と試合を見に行った。自分が被災者ということを忘れさせてくれる。一般のミーハーみたいになれる」

 サインをもらったと、はしゃいでもいた。


無人となった「避難指示区域」の街
無人となった「避難指示区域」の街

 やがてアリーナを出て、仮住まいの賃貸マンションに移る。年末にはクリスマスパーティーを開いた。テーブルには、フライドチキンやクリスマスケーキ、それに福島の地酒も並んだ。同郷の被災者たちも集まり、「いつか一緒にふるさとで酒を飲もう」と笑い合った。

人間関係



 東京の上野駅からJR常磐線に乗ると、約1時間で荒川沖駅に着く。発車のメロディーは「きらきら星」。茨城県の土浦市と阿見町のちょうど境にある。

 3年ぶりの電話から、さらに2カ月が過ぎた今年3月2日、駅近くのファミリーレストランで女性に再会した。

 原発事故から5年。この間、暮らしぶりはどう変わったのだろう。そんなことを尋ねると、女性の口からは、まさに、ぽつり、ぽつりとしか言葉が出ない。

 「人間関係でいろいろあって疲れちゃったんだぁ」

 避難生活から1年がたったころ、福島で働いていた時の元上司が酔っ払って電話をかけてきたという。

 「俺は南相馬市に戻ったけどお前は戻って来ないのか、って聞くんだ。『避難指示区域』だから戻れない、って言ったら、南相馬市内の仮設住宅に住まないのか、って」

 酒の勢いか、本音か。元上司は「復興の手伝いもしないで故郷を捨てんのか。お前のようなやつを地元では裏切り者って言ってんだよ」と口にしたという。

 同じ南相馬市内でも「放射線量が基準を下回る」とされた地域は、避難指示が解除されている。同市の居住者はこの3月10日時点で、5万5427人。震災前の7万人強には及ばないものの、8割近くまで回復はした。


除染で出た「汚染廃棄物」を詰めたフレコンバッグの山
除染で出た「汚染廃棄物」を詰めたフレコンバッグの山

 午後のファミリーレストランは人がまばらだ。女性はアイスカフェラテを飲みながら、タバコを吸い、「戻る場所があるのに、戻って来ない私のような被災者は『裏切り者』なんだ」と繰り返す。一時帰宅をする度に、白い目で見られているように感じた、とも付け加えた。

 「仲良くしていたと思っていた人から『お宅は東電から賠償たくさんもらっているから、いいわよね』って言われて…」

 避難指示区域は年間積算線量という数値によって3分類されている。東京電力からの賠償金額も分類ごとに異なる。

 「どっかの大臣が『結局、金目でしょ』って言ったけど、線量イコール賠償金額みたいになっちゃった。被災者みんなが被害者なのに、被災者同士で争ってる。本当は、原発事故を起こした東電や原発政策を推進してきた政府に対して、怒りが向くべきはずなのに…。もう、傷付けられるのは嫌だ。だから、(茨城県の)新しい土地でも、踏み込んだ会話はしないようにしてんだぁ」


放射線量を示す線量計。避難指示区域内の至るところに立つ
放射線量を示す線量計。避難指示区域内の至るところに立つ

 川崎から移ってきたこの街で昨年夏、家を構えた。「妹が住んでるから安心かな、って。でも、住宅密集地に住んだことないから慣れないよ。大きな声出しちゃいけないって思うし。家にこもってるよ、最近は」

 女性のふるさとは、南相馬市の山奥だ。四季のはっきりした自然。

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