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チャンスは何度でも
川崎中1殺害事件 10代の居場所(9)再起

社会 神奈川新聞  2016年02月22日 11:15

現場作業を終えたタクヤに話し掛ける社長の岡本昌宏さん(左) =横浜市
現場作業を終えたタクヤに話し掛ける社長の岡本昌宏さん(左) =横浜市

 器用に工具を扱いながら、工事用の足場を手際よくばらしていく。横浜市内のマンション建設現場。今月中旬、コンクリートがむき出しの薄暗い建物で、ヘルメットに作業着姿のタクヤ(21)=仮名=が黙々と作業をこなしていた。

 「どうだ、順調か」。建設会社「セリエコーポレーション」(横須賀市)の社長、岡本昌宏さん(40)が声を掛けると、タクヤははにかんだ笑みを浮かべて軽く一礼した。

 鳶(とび)として働き始めて1年。昨年2月、刑務所や少年院を出た人の社会復帰を支える「職親プロジェクト」で同社に採用された。遅刻や欠勤はほとんどなく、少しずつだが仕事を任せてもらえるようになってきた。10年以内に独立して社長になるのが夢だ。

 母子家庭で育った。小学5年の時に交通事故で母を亡くし、父や祖父母と暮らしたが、反りが合わず家出を繰り返した。少年院に入ったのは19歳の時。金に困り、保護観察中に書店で本を盗んで転売したのがばれた。「相談できる人がなく、孤独だった。岡本さんと出会わなければ、どうなっていたか分からない」

 岡本さんが会社を立ち上げたのは2005年。以来、県内の児童養護施設の退所者らも含め44人を受け入れてきた。12年からは職業講話の依頼を受け、全国の少年院を手弁当で飛び回っている。突き動かすのは「少年院や刑務所など矯正施設を出た人に対する社会の偏見を少しでも減らしたい」との思いだ。

 自身もかつて「札付きのワル」だった。中学2年で夜遊びを覚え、学校から足が遠のいた。周りに勧められるがまま、たばこやシンナーに手を出した。一念発起して入学した大学も3カ月で中退した。悪さはさらにエスカレートし、「生きるか死ぬかのどん底」を味わった。

 立ち直るきっかけをくれたのは、一目ぼれした女性の一言だった。「悪さをやめたら付き合う」。そう言われて、全部やめた。学歴も、金もない。あるのは体力だけ。結婚してくれた女性を幸せにしたくて選んだのが「鳶」だった。休日返上で働き、腕を磨いた。11年目に独立し、30歳で会社を立ち上げた。

 罪は消えない。でもチャンスは何度だってある。岡本さんはそう信じる。「妻と出会い、鳶と出会い、周りの人に支えられて自分は変わることができた。子どもたちも同じ。支えてくれる存在があれば、必ず変われる。そのきっかけになれれば、それでいい」

 最近、タクヤは10年先までの「夢年表」をつくった。1年ごとの目標や取得しなければならない資格などを書き込んだA4判の紙はもう真っ黒だ。ゴールはもちろん「31歳で独立」。だが、それだけじゃない。

 「僕みたいに家庭環境で崩れてしまう子が少年院にはたくさんいた。そういう子に居場所をつくってくれる岡本さんはすごく格好いい。僕もいつかそうなりたいんです」
=おわり

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