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干渉と反発はざまで
川崎中1殺害事件 10代の居場所(5)葛藤

社会 神奈川新聞  2016年02月18日 11:08

非行に走る子どもとの関わり方を語る上田さん(左) =2月6日、横浜市中区
非行に走る子どもとの関わり方を語る上田さん(左) =2月6日、横浜市中区

 初めて逮捕されたのは、中学2年の終わりだった。校内でもみくちゃになって先生の顔面に頭突きし、鼻を骨折させた。

 卒業後は仲間とバイクにまたがり、寝静まった街に爆音を響かせた。暴走族のリーダー格に上り詰め、当然ケンカもした。

 「このままヤクザになっちゃうんじゃ…」

 横浜市戸塚区の森田洋子さん(57)=仮名=は、非行をエスカレートさせていく次男にどう接していいのか分からなくなっていた。親の力で食い止めることなど、想像できなかった。

 次男は中1で非行に走り、深夜の外出を繰り返すようになった。玄関に布団を敷いて待ち構え、怒鳴って制止しようとしたが、反発は強まるだけだった。

 変化があったのは17歳のころ。本人が自ら立ち直ることを信じて価値観や態度を受け入れたことで、家庭内では落ち着いて話ができるようになった。

 森田さんがそんな思いになれたのは、同じ境遇の親たちの集まりに参加し、「誰からも責められずに話せて気持ちが楽になった」から。不安を打ち明けては周囲に励まされ、その都度立ち直ることができた。

 「かながわ『非行』と向き合う親たちの会」(道草の会)。わが子の非行で悩む親たちをサポートする当事者団体で、森田さんも当時の経験を生かし、運営に携わっている。

 「子どもにとって思春期は激動の時期。乗り越えるのは、大人が思っている以上に大変」。2月に横浜市内で開かれた例会。同会副代表の上田祐子さん(59)はこう話し、参加者に強調した。「子どももいつか『こんな俺を見捨てなかった』と気付く。見放さずに『親』を続けてほしい」

 森田さんも思いの一端を打ち明ける。

 「子どもによって有効な対応は違う。具体的な答えは教えられなくても、私たちができるのは、自分なりに向き合っていこうと思える場所をつくること」

 葛藤を抱きながら少年たちに向き合っているのは、地域の大人たちも同様だ。川崎市川崎区の青少年指導員は2週間に1回、夜間パトロールを実施している。

 商業施設やパチンコ店、神社、河川敷などを回り、喫煙や自転車の2人乗りなどを見掛けては注意を繰り返す。ただ、少年が反抗的な場合は、それ以上は踏み込まないのが鉄則だ。

 大師地区青少年指導員会会長の荒関良行さん(57)は「余計なトラブルを招かないようにしている。われわれも何をされるか分からない。10人もたむろしていると声を掛けづらい」と本音をこぼす。

 それでも、地道に声を掛け続けることが子どもを守ることにつながると信じている。「大人はちゃんと見てくれているんだと、子どもたちに意識してもらうことが大切。相談しやすい雰囲気をつくれれば」と話し、目を細めた。

 「ほら、昔よくいたでしょ。うるさいおじさんって。それでいいのかもしれない」

 川崎市立中学1年の男子生徒が殺害された事件は、20日で丸1年を迎える。無職少年たちが遊び仲間を惨殺した事件の背景には何があり、どのような問題を社会に突き付けたのか。公判で明らかになった事実を踏まえ、居場所を求める10代の姿を追う。
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