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愛読書はその人を物語る 県内金融機関トップ

経済 神奈川新聞  2016年02月06日 11:40

 愛読書は、その人を物語る。ビジネス環境が刻々と変化する中、組織を率いるトップがこれまでにどんな本を読み、どんな影響を受けてきたのかを知ることは、彼らにとっての標(しるべ)を知ることでもある。地域経済を足元から支える金融機関の頭取、理事長が挙げた一冊を紹介する。
 ※金融機関頭取・理事長(敬称略)/愛読書(著者)/内容/感想など

横浜銀行・寺澤辰麿/「近代法における債権の優越的地位」(我妻栄)/著者は日本の民法学の権威。債権の機能を歴史的・社会的に分析した論文などを収録。

 この本は、私が初めて読んだ本格的な論文である。大学入学後、学園紛争で授業が1年近くなかったころ、法学部に進むということで父の書棚から選んだ。法律と経済が社会の進歩につれてどのように変遷し、物権から債権に比重を移していったのかを鋭い切り口で分析しており、感動を覚えながら読んだ記憶がある。銀行の経営に携わるようになり、相殺の担保的機能や保証の役割を日々目にするようになったが、一方で保証に依存しない融資の例としてABL(動産・売掛金担保融資)が議論されるのは、時代錯誤の印象を禁じ得ない。

神奈川銀行・三村智之/「渋沢栄一 100の訓言」(渋澤健)/著者は渋沢栄一のやしゃご。/多種多様な企業を設立・経営した実業家が残した知恵を紹介。

 著者いわく、「今後の日本社会と日本人が豊かに幸せになるために明治の大実業家がどんなヒントを残してくれたのか」を考える目的で書いたものと紹介している。“日本の資本主義の父”といわれる渋沢栄一。激動の今日、そして将来に普遍的なメッセージを数多く残している。利益を求める経済の中にも道徳が必要という道徳経済合一説。「真の事業経営は私利私欲でなく公利公益であるべし」「志が立派なだけでは世間は信用しない」。何とも耳の痛い訓言も多いが、熱く燃える心に変える力がある。机上の貴重な書である。

川崎信用金庫・草壁悟朗/大山康晴の晩節(河口俊彦)/「史上最強」とうたわれるなど、棋界の最高峰で活躍し続けた棋士の人生を記した評伝。

 稀代の名棋士・大山康晴の晩年を描いた本書にひかれた。69歳、がんに侵されながらも死の直前まで将棋順位戦Aクラスで闘った棋士は、空前にして絶後。地味な将棋で、ライバルの升田幸三のような華はなく、人気も及ばない。しかし、名人・羽生善治をして「対局中の大山先生は、将棋の手を読むというより、盤上の絵か写真を眺めているように見える」と言わしめる卓越した大局観。棋士の地位向上に尽力する傍ら、泥臭く、しぶとく、そしてしたたかに人生を全うした勝負師の生きざまに共感を覚えた。

横浜信用金庫・大前茂/「人を動かす」(D・カーネギー)/「道は開ける」とともに著者の代表的な著書。自己啓発書の古典で世界的ベストセラー。

 就職祝いに知人から「道は開ける」とセットで頂いた本。以来40年、たびたびの転居にも耐え、手あかと経年劣化で変色甚だしいものの、2冊はわが書棚の1番手前に鎮座している。仕事で部下を持ち、いろいろと悩みが生じるたびにまずこの2冊に目が行くが、豊富な実例は説得力抜群、いつの時代にも通じる教訓が満載で、読み返すたびに新しいヒントを頂ける。昨年夏には、著者のラジオ講座のシナリオとして描かれた“幻の書”「こうすれば必ず人は動く」も出版され、本書の家族の一員として書棚に加わった。

湘南信用金庫・石渡卓/「ほんとうの心の力」(中村天風)/著者は思想家であり、実業家。その言葉の中から心に響くものを分かりやすく収録。

 本書の中に「運命にはどうしても逃れられないものと、逃れられるものとがある」という一節がある。人は、自分の思い通りにならないことが起こると、すぐに「どうしようもない」と諦めてしまいがちだ。今、自分に降りかかっている困難はそのまま受け入れるべき「天命」なのか、自分の力で切り開いていくべき「宿命」なのか、見極めることが大切だと説かれている。迷った時、悩んだ時、ぜひ本書をひもといてみてはどうか。天風師が独特の語り口で進むべき道を指し示してくれることだろう。

かながわ信用金庫・平松廣司/「経済学 名著と現代」(日本経済新聞社編)/経済や経営、思想に関する名著を取り上げ、識者が現代的な意義などを明快に解説。

 福沢諭吉の「文明論之概略」やF・ブローデル「地中海」、F・ハイエク「自由の条件」、M・ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」、アダム・スミス「国富論」、ピーター・ドラッカー「断絶の時代」など、18人の経済学者と彼らの理論についてまとめた本。紹介されているのは古い書籍が中心ではあるが、非常に簡潔に分かりやすくまとめられている。先人たちの「智恵」を学び直し、自分の考えを整理するために、理事長室の自分の机の上に常に置いていて、ことあるごとに読み返している。

さがみ信用金庫・片桐晃/「あなたがもし残酷な100人の村の村人だと知ったら」(江上治)/日本を100人の村と捉え、格差や国の借金、福祉などの問題を解説し、解決策を説明。

 今、地域金融機関は政府の方針にのっとって、地方創生に真剣に取り組んでいる。そのヒントにならないかとの思いから本書を手にした。日本が抱えている課題を大変きれいな絵で分かりやすく説明している。課題解決に当たっては、明確な目的意識や自身の強みを生かすことに加え、助け合う人間関係を築くことが大切と述べており、まさに信用金庫業務そのものであると感銘を受けた。また、人は何を大切に生きるべきかが分かりやすく書かれており、私の14歳の孫にも読ませたいと思う本である。

(平塚、中栄、中南の3信金は未回答)


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