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記者会見(上)
時代の正体〈246〉ヘイトスピーチ考(上) 「差別の自由」いつまで

時代の正体 神奈川新聞  2016年01月22日 11:37

昨年11月の差別デモの際、桜本のまちに掲げられた横断幕=川崎市川崎区
昨年11月の差別デモの際、桜本のまちに掲げられた横断幕=川崎市川崎区

 差別から自分たちの街を守ろうと市民が立ち上がった。在日コリアンへのヘイトスピーチ(差別扇動表現)が繰り返されている川崎市で「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」が結成された。「ヘイトスピーチは共に生きるまちづくりへの重大な挑戦」。設立記者会見で語られたのは、差別を放置し、許容し続ける現状への問い掛けでもあった。

 市民ネットワークの呼び掛け団体と当事者である在日コリアンが並んだ記者会見の席上、重大かつ深刻な警告は発せられた。

 「小さいものなら、テロは各地で起きている」

 差別デモの現場に駆け付け、抗議の意思を示す「カウンター」と呼ばれる人たちのグループ「クラック川崎」の前野公彦さん(48)は、ためらいなくそう言った。

 差別主義者の列に対峙(たいじ)し、その息づかいに触れてきたその人の危機感の表明。差別をあおるヘイトスピーチは放っておけば肉体的危害に及ぶヘイトクライム(憎悪犯罪)へとエスカレートする。歴史を振り返れば、その行き着く先はナチスによるホロコーストであり、関東大震災における朝鮮人虐殺であった。

 いま、その途上-。

 公道で「朝鮮人をたたき出せ」と叫ぶ差別デモは主にJR川崎駅前の繁華街で行われ、2013年5月を皮切りに昨年11月で11回を数える。参加者の一人がデモ終了後、川崎駅ホームで通行人を模造刀で切り付ける事件が起きたのは4回目となった14年2月。周囲で配られていた抗議のチラシを手にしていたことからカウンターだと勘違いしての犯行だった。

 以後、県警が参加者の持ち物検査を実施するという異様な光景が続く。それでもデモは許可され続け、昨年11月8日には在日コリアン集住地域である川崎区桜本で計画されるに至った。

 それまでは駅前の繁華街を練り歩いていたものが日常の暮らしの中へ押し入ろうとしていた。地域の人々やカウンターによる大規模な抗議の結果、直前にルートは変更されたものの、エスカレートは明らかだった。


 

確信犯

  前野さんが続いて引き合いに出したのはヘイトスピーチ抑止条例を制定した大阪市で起きた事件だった。市議会の傍聴席から条例案に反対する人物が登壇者目がけてカラーボールを投げ込んだ。「テロの一歩手前か、テロそのものか」

 川崎では津崎尚道という50代半ばの人物がデモを主催し続けている。前回昨年11月のスピーチはこうだ。

 〈川崎の日本国民の皆さんはご存じでしょうか。強制連行はうそで、実は出稼ぎ目的の不法密航でした。従軍慰安婦の実態は、朝鮮人女衒(ぜげん)が集めた追軍売春婦でした〉
 〈このようなうそを世界中で垂れ流し、声高に日本をおとしめる勢力になぜ、特権を与え、公金、つまり私たちの血税をバラまかなければならないのでしょうか。なぜアジアの解放のために戦い、白人の横暴と戦ったわれわれの御先祖をおとしめ、同じアジア人として何もしなかった半島人が日本で被害者面で居座り金と特権をむさぼり、ゆすり、たかりを繰り返すことができるのでしょうか〉
 強制連行、従軍慰安婦という歴史の事実をうそと断じる虚言。ゆがんだ事実認識の上に立ち「声高に日本をおとしめる」という架空の反感に訴えかける詐術。ありもしない「特権」を持ち出し自らが「被害者面」するひきょう。思い込みではない、ののしりたいがためにデマと曲解で在日コリアン像を構築していくさまに、対話の余地をみいだすのは難しい。

 前野さんは強調した。「差別が生きがいの確信犯。もはや具体的に規制を目指す段階だ。デモをやりにくくする。やってもリスクが高く、やるかいがないものにすることが必要だ」

 法規制への国の動きは鈍く、ならば自治体に働き掛けるしかない。「人権の問題であり、暮らしや教育現場といった地域社会を害する問題でもある。現状ではデモをやってもカウンターに怒鳴られる程度のリスクしか感じていない」。条例などによる対策を市と市議会に求めていくという市民ネットワークの結成は差別を禁じる法律すらない現状の裏返しでもある。


 

野放し

  賛同団体には市民グループから労組、各政党市議団、地元の桜本商店街振興組合と幅広い団体が名乗り出た。「それは驚きであり、喜びであった」

 呼び掛け団体の一つ、在日の街桜本で保育園や障害者、高齢者施設を手掛け、差別をなくす運動に取り組んできた社会福祉法人青丘社の理事長、裵(ペェ)重度(ジュンド)さん(72)は努めて穏やかに話しているように映った。

 「私たちが生まれ育ったこの街でやってきたのは、地域社会を一緒につくり、共に生きていこうということ。だから

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