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ダブルケア支えるには

社会 神奈川新聞  2016年01月20日 13:00

 晩婚化や晩産化の影響で、育児と介護が同時に進む「ダブルケア」に直面する人たちがいる。国が昨秋から実態把握を進める中、横浜市内で支援者養成講座が試行され、産学官の研究会が立ち上がるなど、当事者の負担軽減に向けた動きも広がっている。ダブルケアの課題と今後の展望について、研究に携わる横浜国立大学の相馬直子准教授と、英ブリストル大学の山下順子講師の2人に聞いた。

実情は人それぞれ



 高齢化と女性の晩婚化、晩産化に加えて、親世代の生活習慣病の増加や若年性認知症の問題が注目されてきた。加えて、きょうだい数の減少や頼れる親族が少ないといった社会的背景の中、育児と介護のダブルケアに直面する人が増加すると考えている。


相馬直子准教授
相馬直子准教授

 政府統計のない中、2012年に始めた調査研究は、主に未就学児を育てながら親の介護に直面する団塊ジュニア世代の女性の声を中心に耳を傾けている。「介護」の定義を幅広くした。買い物代行、精神的ケア、愚痴を聞く、定期的な安否確認、介護サービス供給側との調整…。当事者の主観に寄り添う形で実態把握に努めている。

 実情は人それぞれだ。

 半身まひと軽い認知症のある父親を支え、6歳と2歳の男の子を育てる横浜市内の30代の専業主婦は、夫に頼れず、周囲に実態を話せず、孤独感にさいなまれた。パート女性は車で1時間余りの距離にある要介護度4の父親宅へ週2回通う。三つの働き先を兼け持ち、9~3歳の子どもを育てるが、夫も収入が不安定で悩みは尽きない。

 家族構成や当事者の雇用形態、障害の有無など、調査を通じてさまざまなケアパターンがあることが分かってきた。昨年末から神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会と行う実態調査は、「団塊世代の孫支援」や「親の介護と長期化する子育て」など対象を広げている。ケアに携わる人材の高齢化も進み、サービスの供給量や地域偏在も課題だ。こうした負担を「ダブルケアコスト」として明らかにするのも狙いだ。

 ダブルケアに直面する女性は母、妻、嫁、娘の役割を求められる。加えて労働者の役割を担う人もいる。異なるニーズを同時に満たすことを常に要求され、そこに葛藤が生じる。

 育児と介護の優先順位は、社会の「規範」「資源」「制度」によって規定されてくる一方、当事者の多くは子育てに配分したい時間やエネルギーを介護に充てているのが現状だ。国や自治体の各種制度が、優先順位をどのように誘導しているのか分析し、改善すべき点は提言したい。

 政府の「女性活躍加速のための重点方針2015」は、ダブルケアの調査実施と負担軽減の観点からの対策を検討-と指針を示した。男女共同参画と就業継続の両視点から着目するのは非常に有意義だ。

 第1次(約270万人)と、第2次(約200万人)のベビーブームに対し、最近生まれる子どもは100万~150万人前後。ダブルケア問題は団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」に加え、団塊ジュニア世代が高齢化する「2040年問題」とも重なる。

 政府は医療や福祉の在宅化を打ち出すなど、当事者にとって深刻な負担増が予測される。地域で手厚く支える方策を早急に考えなければならない。

 任意団体「ダブルケアサポート横浜」で作成中の支援者養成プログラムは、子育ての現場にいる人たちに介護を、介護現場にいる人たちに育児を相互補完的に理解してもらう内容だ。全国の方々がプログラムを手にしたとき、各地域の特性や資源に即して活用してもらえるよう望んでいる。

 そうま・なおこ 1973年、東京都生まれ。42歳。横浜国立大学国際社会科学研究院准教授。専門は東アジア比較社会政策。

ポジティブな面にも着目を



 ダブルケア当事者の孤立は、現代の人間関係や家族間の信頼関係など、大きな視点で考えることもできる。さらには長時間労働や非正規雇用などの問題と結び付く。ダブルケアの対象は狭いが、そこから見える社会問題はとても大きい。


山下順子講師
山下順子講師

 英語では「サンドイッチ・ジェネレーション(世代)」と呼ぶ。この世代に関する人口学的な研究は少ないが、日本ではそうした世代が確実に増えるだろう。

 ダブルケアは私たちの研究で生み出した造語。英語では子育ても介護も「ケア」。調査のなかで、言葉を与えられて初めて、自分の置かれた状況を理解できた当事者がいた。「自分は(子育てと介護の)両方をやっているから大変なのか」と。言葉を通じて問題の社会的認知が広がり、縦割りとされてきた子育てと介護のサービス支援の連携に向けて動きだすなど、プラス要素が大きいと感じている。

 問題を社会で共有することが基本だが、負担というネガティブな側面にとどまらず、ポジティブな面も着目してほしい。「大変だが、子育てをしていて救われた」「介護と仕事だけではもっと疲れていたはず」という当事者の声があった。個々の人生にとって育児や介護は掛け替えのない経験。寄り添うために、ダブルケアの視点を盛り込むのが望ましい。

 日本、韓国、台湾、香港の東アジア地域で2012~14年度に実施した実態調査で、女性の負担感が大きかったのは日本と韓国だった。さらに両国で違いをみると、韓国は経済的にはきょうだいが背負い、実際の世話は長男の嫁という構図が目立っている。逆に、家事子育てには夫が協力している結果が出た。

 一方で娘介護が増えている日本では、夫の協力は「理解する」にとどまる。

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