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新たな共生へ 外国人受け入れ規制緩和(4)
介護を学ぶ、日本を目指す 比の学生たち

社会 神奈川新聞  2016年01月18日 11:45

フィリピン南部ダバオのミンダナオ国際大学の社会福祉学科で学ぶ女子学生たち。自習に余念がない=2015年11月
フィリピン南部ダバオのミンダナオ国際大学の社会福祉学科で学ぶ女子学生たち。自習に余念がない=2015年11月

 白い制服姿の女子学生たちが自習に励んでいた。

 フィリピン南部ミンダナオ島の中心都市、ダバオにあるミンダナオ国際大学の社会福祉学科で学ぶ、介護職志望の3年生。来春に卒業を控える。

 机の上には日本語のテキストが開かれている。卒業後は来日を志望する?

 「もちろんです!」

 全員が、明るい声をそろえた。

 大家族が多いフィリピンでは、高齢者は自宅で家族が世話をするのが主流。高齢者施設の数は少なく、介護職を目指す若者たちにとっては国内の働き口を見つけるのが難しい。介護の進路を目指す学生は必然的に、就職先を海外に求めることになる。

 ■ □ 
 
 大学は2002年、日本のNGO「日本フィリピンボランティア協会」(東京)の支援を受けて設立された。国際的に活躍する力を備え、日比の懸け橋にもなる人材としてフィリピンの若い世代を育むのが、建学の精神だった。


日本の介護職を目指す学生たちが通うミンダナオ国際大学=フィリピン南部ダバオ
日本の介護職を目指す学生たちが通うミンダナオ国際大学=フィリピン南部ダバオ

 当初は日系人に対する支援の色彩が強かったが、今では学生の多くが日本に特別なルーツを持たない。地域の教育機関として根付いた証しでもある。

 学生540人のうち、英語や日本語の技能を評価される国際学科の学生は、日系企業などからの注目度が高い。大学の流す日本語ラジオ番組も人気を集める。

 一方で、70人近い社会福祉学科の学生には、介護職の就労にこだわりが強い。卒業生は、08年に発効した日本・フィリピンの経済連携協定(EPA)に基づいて日本での就労を目指す。これまでに69人の卒業生が来日。外国人にとって難関といわれる介護福祉士の資格試験にも、5人が合格を果たしている。

日本語習得が高い壁

 社会福祉学科の志願者は近年では減少傾向だ。日比EPAの介護士候補生受け入れの枠組みでは訪日前に必要な日本語研修が6カ月間となっているため、志願者には4年間の大学課程を修める必要性が薄れたことが背景にある。

 それでもイネス・マリャリ学長は「EPA発効後には、ドバイや台湾に行っていた卒業生が戻ってきて、日本での介護の就労を目指すようになっている」。もともと日本とのつながりが強い大学の学生にとって、EPAは来日就労の機会を再確認させる効果もあった。

 だが、日本語の習得が高い壁になっている現実に変わりはない。ことに、対人サービスでもある介護の現場では、利用者やスタッフとのコミュニケーションがうまくいかなければ、業務に支障を来しかねない。

 福祉に関する素養と同じように、日本でのビジネスマナーの教育にも注力しているマリャリ学長は、日本にこうも願う。

 「彼らは、本当に介護士になりたくて学んでいる学生たち。彼らの持つ文化も含めて受け入れてほしい」

 EPAに基づいて介護分野の研修生を日本が受け入れている国はインドネシア、ベトナム、フィリピンの3カ国だ。研修生の国家試験の合格率は、最近では4割程度になっている。

 これまで受け入れた研修生は2千人余り。制度の目的は人材開発支援にあり、労働力確保ではないというのが建前だった。だが、それを福祉の現場で言葉通り受け取る意見はほとんど聞かれない。

「必ず人手不足に」

 「日本で経験を積みたい」。昨年12月、横須賀市の特別養護老人ホーム「太陽の家」が開いたEPAの介護士研修生の歓迎会。新たに加わったインドネシア出身の2人が、抱負を語った。


特別養護老人ホーム「太陽の家」で新たに就労したEPA介護士研修生を歓迎する外国籍スタッフたち=2015年12月、横須賀市
特別養護老人ホーム「太陽の家」で新たに就労したEPA介護士研修生を歓迎する外国籍スタッフたち=2015年12月、横須賀市

 太陽の家で受け入れてきたEPA介護士や候補生は計12人。20台前半の若手が中心だ。既に4人が介護福祉士の国家資格試験に合格を果たし、スタッフとして今も施設で汗を流す。

 「日本の福祉の現場は必ず人手不足になると以前から考えていた」。石渡庸介理事長は、EPA発効と同時に導入を決めた。研修生は来日前後に1年間の日本語教育を受けているため、職場に入る段階でコミュニケーション力が日常会話水準に達していることも、受け入れる側には利点だ。

 施設も研修生への支援に力を注ぐ。勤務の合間には外部から講師を招いて、実務に役立つ日本語や介護技術を学ぶ授業を提供。イスラム教の断食月(ラマダン)には、彼らの夜勤や仕事内容にも配慮している。

 だが、北村明美施設長は「彼らは母国の家族のことをいつも心配している。時々帰省する際には、職場も協力するようにしている」。日本で働く資格を得た人材も、いずれは家庭の事情や慣習の違いで帰国を選ぶかもしれないことが、現場では常に気掛かりになっている。

 ◆経済連携協定(EPA) 2カ国・地域以上の間で物品やサービス、人の移動などを自由化する包括協定。看護・介護分野では、日本の国家資格取得を目的として外国人の候補者を受け入れ、一定期間就労させる。資格取得後は看護師・介護福祉士として滞在・就労が可能となる。


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