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憲法は今
時代の正体〈244〉自民党改憲草案考(下)三浦瑠麗さん

時代の正体 神奈川新聞  2016年01月14日 09:42

三浦瑠麗さん
三浦瑠麗さん

 2012年に自民党が発表した憲法改正草案。国際政治学者の三浦瑠麗さん(35)は憲法が国民の自由を狭める倒錯を、そこにみる。

国民の責務

【現行】第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

 【草案】第12条(国民の責務) この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

 国民は「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」とする草案の表現は、国家の行動を縛ることを目的とする憲法の趣旨にそぐわない。

 また、現行の表現である「公共の福祉」が、他人の人権を侵害してまで個人の権利は追求できないという、部分的制限を意味するのに対し、改正案の変更は「公」とは何かについての恣意(しい)的な拡大解釈を可能にする。それは、結果として多数が決めてしまった窮屈な価値観を全国民に強制することになり少数者の保護という目的にもそぐわない。

「人」としての尊重

 

【現行】第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 【草案】第13条(人としての尊重等) 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。

 全ての国民は「個人」として尊重されるとしていた現行憲法の表現を、「人」として尊重されると書き換えた。変更したかった理由は個人主義の否定にあるのだろう。だが、個人としての人格や自律こそが、責任ある大人としての判断をもたらすものであり、結果的に他人の人権や社会のための行動を呼び起こすというのが歴史を通じた政治学の人間理解である。つまり個を否定することは倫理の向上を重視する改憲派の目指す教育の趣旨にさえ逆行している可能性が高い。

表現の自由の例外

 

【現行】第21条
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 【草案】第21条(表現の自由)
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。

 守られるべき表現の自由の例外として「公益及び公の秩序」を害することを目的とした活動を挙げているが、これもまた拡大解釈される危険をはらんでいる。公益というものの定義は権力者によって恣意(しい)的に定義される危険があり、また社会の多数者による公の定義によって少数者による活動が圧迫される危険もある。

家族、婚姻の基本原則


 

【現行】第24条
1 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 【草案】第24条(家族、婚姻等に関する基本原則)
1 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 ここでは家族の尊重と、家族が互いに助け合わなければならないという規定が設けられている。このような当たり前のことは憲法に書くべき事柄ではない。家族の尊重と助け合いの義務からすれば、離婚したり親子げんかをしたりした人は憲法違反を犯しているのだろうか。

外国人の地方参政権

 

【現行】第93条2項
 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

 【草案】第94条2項(地方自治体の議会及び公務員の直接選挙)
 地方自治体の長、議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、当該地方自治体の住民であって日本国籍を有する者が直接選挙する。

 ここでは、長年係争されてきた外国人の地方参政権の明確な否定を盛り込んでいる。そもそも、賛否のありうる党派的な争点につきあらかじめ片側の立場を憲法に反映したいという態度は、今まで改憲勢力が批判してきた護憲派による憲法の政治化と同じことを逆側から繰り返しており、筋違いである。憲法を政争の具にすべきではない。

憲法尊重義務

【現行】第99条
 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
【草案】第102条(憲法尊重擁護義務)
1 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。

 現行憲法では、天皇や摂政、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員の憲法尊重と擁護義務を規定している。改正草案では、国民の憲法尊重義務を盛り込んでいるほか、天皇と摂政の憲法擁護義務を削除している。これも、憲法の目的を著しくはき違えている例だ。

 改正草案が明示するように、

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