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憲法は今
時代の正体〈243〉自民党改憲草案考(上)三浦瑠麗さん

時代の正体 神奈川新聞  2016年01月13日 14:45

三浦瑠麗さん
三浦瑠麗さん

 憲法改正が政治日程に上ろうとしている。安倍晋三首相は夏の参院選について、自民、公明両党におおさか維新の会など一部野党を加えた改憲勢力で、改正発議に必要な3分の2議席を目指す考えを示した。そこで注目が集まるのが、自民党が2012年に発表した憲法改正草案。内容は自衛隊を国防軍と位置付けることから家族の尊重まで多岐にわたるが、価値観の押し付けや立憲主義の取り違えといった問題点を指摘する声は改憲派からも根強い。右派からの支持も厚い国際政治学者の三浦瑠麗さん(35)に覚えた違和感について寄稿してもらった。

看過できない点が多々



 憲法を改正すべき最大の目的は、日本を取り巻く安全保障環境と、日本の現実の政策とが合わなくなってきているということだ。憲法と現実との間の齟齬(そご)を解消するということには意味があるし、安全保障を憲法解釈に代表される、詭弁(きべん)に詭弁を重ねる法律論で語るあしき伝統から抜け出す意義は大きい。

 憲法を見直す際、9条1項の平和主義の理念はとても重要である。こうした考えは国連憲章をはじめとする現在の国際法の考え方とも整合しており、堅持すべきである。他方、戦力の不保持をうたった9条2項は、自衛隊という事実上の戦力を保有し、国民の多くから承認を得ている現状に合わせて改正すべきだ。

 その点からは、改憲の必要もあり、変更にはやぶさかではない。ところが、自民党が12年に作成した改憲草案には、看過できない点が多々挙げられる。具体的な例を以下順に挙げていこう。



前  文

【現行】日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。(後略)

 【草案】日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。

 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。

 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。

 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。

 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

 憲法とは国家を縛り、国民の権利を明確にするものであって、民主的に選出された政府をいだく国では、自由な人間集団が共に生きていくための基本ルールであるともいえる。そのため、多数派の支持によって多大な権力を持つ国家がやっていいことといけないことを明確化する必要がある。現代の民主国家では、少数者の権利を守り、民主制を守り抜き、また円滑に維持するために必要なものが憲法である。従ってその趣旨から外れた余計なことは書かなくてよい。

 ここへきてあらためて人工的国家を設立するわけでもない。草案の前文にある「和を尊び」も、「家族や社会全体が互いに助け合って」も、「教育や科学技術を振興し」も余計である。国の目的としてこう書きだすと、あまりに表層的であり知性の問題として稚拙な印象を受けるし、言わぬが花という日本文化の基本が見失われ、特段必要ない条文や文言が挿入されることで台無しにされている印象を受ける。


国民の国旗及び国歌尊重義務

 【草案】第3条(国旗及び国歌)
1 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

 国旗や国歌を尊重するのは悪いことではない。しかし憲法に書きこむ必要はなく、

国旗や国歌を尊重したくない人に対する罰則化を狙っていると受け止められても仕方がない。それでは、国民は国旗や国歌を自然に尊重するようにはならないであろう。自らの願望と現実の混同が見られる。

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