1. ホーム
  2. 社会
  3. シカ食害、箱根でも 希少植物に影響懸念 観光と両立難題

シカ食害、箱根でも 希少植物に影響懸念 観光と両立難題

社会 神奈川新聞  2016年01月10日 02:00

仙石原地区の山林でシカの食痕を調べる小田原山盛の会メンバー=箱根町
仙石原地区の山林でシカの食痕を調べる小田原山盛の会メンバー=箱根町

 ニホンジカの増加が国立公園の箱根町にも及び、国指定天然記念物の「仙石原湿原植物群落」付近でも食痕が確認され、その生態系を脅かしている。環境省や自然保全活動を続ける市民グループなどが連携して調査を実施。関係者は「箱根はまだ初期段階。ブナ林が衰退した丹沢の二の舞いにしてはいけない」と訴え、植物群落の周囲を植生保護柵で囲むなどの対策が求められているが、国内有数の観光地だけにすんなりとはいかないようだ。

 環境省箱根自然環境事務所などによると、箱根地域にはもともとシカは確認されていなかったが、1990年代以降、目撃情報が増えてきている。DNA検査の結果から、丹沢山地と伊豆半島の由来種がそれぞれ確認され、南北の両方向から入ってきたと推測されている。

 2009~13年に計40頭のシカが捕獲されているが、町内に生息するシカの推定個体数は86~1270頭と幅広く、正確な数は把握できないという。ただ、現在のペースで捕獲を続けたとしても、10年後には約5700頭にまで増加するとの予測もある。

 小田原市周辺を拠点に森林整備活動を続けている「小田原山盛(やまもり)の会」は15年4月から箱根地域でシカの生活痕跡調査を実施。同事務所などが開く会合でも結果を報告している。


 同会によると、常緑低木のアオキやイヌツゲが食べられているほか、樹皮はぎなどが確認された。生息域は町内ほぼ全域と考えられるが、北西部の仙石原地区では、天然記念物の湿原植物群落内の自動撮影カメラにシカの姿が写っており、同群落から数十メートル離れた場所ではシカの痕跡も見つかっている。

 群落にはノハナショウブなど希少種が植生しているが、シカの侵入を防ぐ柵もないという。同会メンバーで獣医師の柏木聰さんは「シカが増えれば昆虫や草木を含め、箱根の貴重な生物多様性が失われてしまう」と危惧する。

 丹沢では、ブナ林の衰退の理由の一つにシカの食害が挙げられている。増えすぎたシカがブナの新芽を含む下草を食べ尽くし、表土が露出している場所もある。そのため県が植生保護柵の設置やシカの管理捕獲などを行っている。

 川島範子副会長は「丹沢のように一度なくなった植生はなかなか戻らない。箱根でも捕獲に力を入れるとともに、保護柵を早く設置する必要がある」と訴えている。


 同事務所などは、管理捕獲の強化とともに、シカの侵入を防ぐ植生保護柵の設置を検討している。ただ、箱根は国内有数の観光地。ハンターによる猟銃を使った捕獲の強化は、ハイカーや観光客への配慮から難しい側面があるほか、植生保護柵についても、設置範囲や柵の種類などで、湿原の景観に十分配慮する必要がある。

 同事務所の高橋啓介所長も「シカは今はそれほど多くはないが、徐々に増えている。観光地ゆえの難しさもあるが、このまま放置すれば箱根の貴重な自然環境が失われてしまう」と対策の重要性を強調。関係機関と協議を重ね、16年度にも提言をまとめる計画だ。


仙石原湿原植物群落で植生している希少種のノハナショウブ(環境省箱根自然環境事務所提供)
仙石原湿原植物群落で植生している希少種のノハナショウブ(環境省箱根自然環境事務所提供)

シェアする