1. ホーム
  2. 社会
  3. 被爆者、在日3世…「怒り、失望、不安」

被爆者、在日3世…「怒り、失望、不安」

社会 神奈川新聞  2016年01月07日 02:00

 北朝鮮が初の水爆実験を成功させたとのニュースが列島を駆け巡った6日、県内の被爆者からも非難と失望の声が噴出した。「核廃絶に向けた国際社会の願いが踏みにじられた」。その怒りは米ロ英仏中など核保有国にも向けられ、唯一の被爆国としての役割をあらためて問う声も。拉致被害者家族らは日朝交渉への影響を懸念し、県内の在日朝鮮人は筋違いの批判への不安をにじませた。

 「暴挙としか言いようがない。北朝鮮は何を考えているのか」。被爆者らでつくる川崎市折鶴の会会長の森政忠雄さん(82)=川崎市麻生区=は怒りを抑えきれない口調で、こう続けた。「核廃絶を目指す世界の潮流に逆らっている。日本は唯一の被爆国として国際社会に呼び掛ける役割がある。決して後戻りしてはいけない」

 14歳の時に広島の爆心地近くの自宅で被爆した横浜市原爆被災者の会の会長を務める佐藤良生さん(85)=横浜市栄区=も同じ思いだ。「原爆で亡くなった母や妹、弟のためにも、命が続く限り、核兵器の恐ろしさを一人でも多くの人に伝えていく」と力を込めた。

核廃絶の思い届かず

 核兵器禁止条約締結への期待が高まる一方で、繰り返される軍事挑発。怒りの矛先は北朝鮮にとどまらず、核拡散防止条約(NPT)未加盟の核保有国、さらには5大核保有国にも向けられる。

 元マグロ漁船船長の今津敏治さん(86)=三浦市=は、1954年に米国が太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁で実施した水爆実験に翻弄(ほんろう)された苦い記憶がよみがえる。「核兵器は何も知らない、関係のない人まで殺傷する大きな力がある。このまま世界は悪い方へと向かうのか」と話し、「北朝鮮だけを騒ぎ立てるのではなく、核廃絶に向けた機運を高めるべき」と強調する。

 「核保有国に対抗するための核実験だと思わざるを得ない」。そう話すのは、県原爆被災者の会会長の中村雄子さん(83)=平塚市。昨年4月には米ニューヨークで開かれたNPT再検討会議に合わせて渡米し、「ヒバクシャ」として核兵器の悲惨さや残虐さを訴えた。そして、語気を強める。「(米ロ英仏中など)核保有国が核兵器を持っていること自体がおかしい。北朝鮮に限らず、核兵器はどこの国がつくっても、持ってもいけない」

在日3世 「日本社会の反応心配」

 北朝鮮の核実験を知り横浜市南区の在日朝鮮人3世の男性(26)は「実験のショックより日本社会の反応が心配だ」と声を落とす。朝鮮半島情勢が悪化するたび、在日への風当たりが強まるという経験を繰り返してきたからだ。「朝鮮学校の子どもたちが嫌がらせを受けないだろうか」

 中学1年生だった2002年、北朝鮮の拉致事件が明らかになり、以来、朝鮮学校への嫌がらせやバッシング報道という異常事態が「日常になった」。近年では街中で「朝鮮人をたたき出せ」と叫ぶヘイトスピーチが横行する。

 北朝鮮への敵視を目の前の在日に重ね合わせる「筋違い」に途方に暮れる。「朝鮮半島で問題が起きるたび、私たちが直面している差別や歴史の問題の解決が遠のく」。だから和平の訪れを願う気持ちは日本人よりむしろ強いのに、そうは理解されないのが悲しい。

 「北朝鮮だろうが、米国だろうが、中国だろうが核を持つことには反対。『北朝鮮は悪い国だ』となじったところで解決しない。歴史を俯瞰(ふかん)した視点を持ってもらえれば、在日へのまなざしも変わるのに」。朝鮮戦争は休戦状態にすぎず、核大国・米国への対抗として北朝鮮は核保有の道を選んだ。かつて朝鮮半島を植民地支配し、分断の歴史とも無関係ではない日本は新たな安保法制を手にし、その不均衡を利用しているようにさえ映る。

 「戦後70年が終わり、3世、4世と世代を重ねても在日は差別され、朝鮮半島も分断されたままだ。一体いつになれば本当の意味で解放されるというのだろう」

民団が非難「言語道断」

 北朝鮮が水爆実験を行ったと発表したことを受け、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)県本部(横浜市神奈川区)は「担当者が不在のため、答えられない」と説明した。

 一方、在日本大韓民国民団(民団)県地方本部(同)の呉吉明事務局長(54)は「軍事行動による国威発揚は言語道断」と非難。北朝鮮が繰り返す核実験やミサイル発射実験について「アジア全体の緊張を高めており、強く抗議する」とした。


「交渉ライン残し対応を」救う会神奈川代表

 拉致被害者や家族の支援団体「救う会神奈川」は6日、「今回の水爆実験とは別に粛々と(北朝鮮による拉致被害者などの)再調査報告を受け、内容について精査と検証をするよう強く求める」などとする緊急声明を発表した。

 川添友幸代表(37)は今回の核実験について「東アジアの平和と安定に大きな脅威で、絶対に容認できない」としながら、今後、国内で感情論が高まる可能性を懸念。「拉致被害者や家族には時間がない」とし、「日本政府は最低でも(北朝鮮との)水面下の交渉ラインを残してもらいたい。現実的な対応を強く求めたい」と話した。


シェアする